TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「高子と湶」2

2014年12月26日 | T.B.1999年

「そう云えば」

 仕事の途中。
 彼女は、薬品庫の前で立ち止まる。

「この前、薬品の数が合わなかったじゃない」
「あれ?」

 彼女の隣にいる、医者の見習いは首を傾げる。

「そうでしたっけ?」
「忘れないで」
 彼女の声が低くなる。
「薬品の数が合わないのは、大問題。調査はどうなったの」

「ああ、えっと」

 見習いは、自分の髪を触る。

「獣由来の病の、治療薬、ですよね?」
「そうよ」
「えーっと、あれは」

 彼女は、見習いを見る目を、細める。
 見習いは目をそらす。

「いつだったか、……狩りに出た者が怪我を負って、その病の疑いがあったので」
「投与したってこと?」
「……確か。それで、ひとつ足りなかったんだと思います」
「なら、診療簿に未記載だわ!」
「すいません……」

 彼女が云う。

「その者は、予防薬の接種から期間が空いていたの?」
「たぶん……」
 彼女は息を吐く。
「ちゃんと、やることやって!」
「……はい」

 彼女は薬品庫の鍵を取り出す。

「人手が足りないのよ」
「判っています」
「あなたに、やってもらわないと」
「……早く、役に立てるよう頑張ります」

 彼女は、見習いに鍵と診療簿を渡す。

「病棟の患者に、薬を投与するから準備してもらえる?」
「はい」
 彼女が差し出した薬の内容を、見習いは確認する。
「今日は、週に一度の薬を一斉投与するから、時間かかるわよ」
「はい」

 見習いが薬品庫に入ったのを見て、彼女は歩き出す。
 調剤室へ。
 ゆっくりとした足どりで。

 と

 廊下の角を曲がったところで、誰かにぶつかりそうになる。

「わ!」

 彼女は驚いて、声を出す。

「ああ、ごめんごめん」

 見ると、彼がいる。
「……驚いた」
 彼女は胸に手をやる。
「今日もお見舞いに?」
「そう」

 彼が頷く。

「あなたのおばあさま、容態は安定しているから、いろいろお話ししてあげて」
「判ってる」
「じゃあ」

 彼女は歩き出す。

「ねえ」
 彼が彼女を呼ぶ。
「何?」
「今、時間ある?」
「……ごめんなさい。忙しいの」
「それは、悪い」

 彼が云う。

「やっぱり、病院の仕事は忙しいんだ」
「ええ」
「なら、待つよ」
「え?」

 彼の言葉に、彼女は驚く。

「今日は遅くなるわ」
「そう?」
「……ごめんなさい」

 彼女は彼に背を向け、歩き出す。

 その後。

 調剤室で、彼女と見習いは、黙々と薬を作る。

 日が暮れる頃、

 診察をしながら、薬の投与に回り

 すべての仕事が終わったのは、日が変わってからだった。

 彼女は、書類をすべて整理する。

 外を見る。
 村の明かりも、ほとんど消えている。

 どうしようか。
 このまま、病院に泊まろうか。

 迷ったが、彼女は家の本を取りに戻ることを思い出す。

 ……仕方ない。

 荷物を持ち、彼女は病院を出る。

「あ、……終わった?」

「え?」

「大変だったね」

「……え!?」

 彼女は、そこにいる彼を見る。

「約束通り」
「約束なんかしてないけれど、」

 彼女は、彼を見る。

 不思議な人だな。

 そう思った。



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