TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「湶と高子」1

2014年12月16日 | T.B.1999年

彼は病院を訪れる。

「こんにちは、お見舞いなんですけど」

はいどうぞ、と
受付の青年は用紙を差し出す。
「ではこちらにお名前を」
彼は言われるがまま必要事項を書いていく。

「……あれ?」

その様子を見ていた青年が小さく声を上げる。
視線は彼が書いた名前と顔を交互に追う。
「久しぶり、帰って来たんだ!?」
急に親しげになった青年に彼は目を凝らす。
「―――あぁ!!お前か!!」
「そう、今はこの病院で医師見習い兼雑用」
へぇ、と彼は驚きの声を上げる。
「昔はそんなタイプじゃなかっただろう。
 お前が医師見習いとは意外だな」
「そうか?」
「十数年ぶりだからかな。
 色々変わってるものな」

幼なじみの彼らは、すぐに打ち解けて話し出す。

「お前は小さい頃のままって感じだな。
 どうだ、久しぶりのこの村は」
医師見習いの青年が彼に尋ねる。
「意外と覚えていたよ。
 でも初めて見る所も結構あった」
「そうか、じゃあ今度案内―――って言いたいけど
 俺も休みが不定期だし」
「医師見習いなら仕方ないな、
 勉強することも多いんだろう」
「先生が厳しくってさ」

やれやれ、と医師見習いの青年が言う。

「また今度って事か。
 引き留めて悪かったな、どうぞ、部屋は分かるか」
「この前一度来ているから大丈夫だ。ありがとう。
 まぁ、無理せずにな」

彼は手を振り、目的の部屋を目指す。

廊下の突き当たり。
彼は扉を小さく叩く。

「ばあちゃん。入るよ」

病室には彼の祖母が居る。
幼い頃から長く村を離れていた彼が
村に戻ってきた理由。

彼はベットのそばに腰掛け
祖母を気遣いながら、たわいもない話を続ける。

今まで居た村での話。
この村に帰ってきてからの事。
昨日の家での出来事。

「あぁ、そう。
 俺この前初めて狩りに出たんだよ」

彼ら西一族は狩りの一族。
だが、村を離れていた彼は狩りの経験が浅かった。

「初めての狩りだから緊張したよ。
 でも、楽しかった。周りも皆フォローしてくれたし」
「お前は筋が良いから大丈夫だろう。
 すぐに慣れるよ」

それでさ、と言いかけて、
彼はあれ?と首をひねる。

「どうしたね」
「あぁ。いや」

彼は自分のポケットや上着を探る。

「持ってきてたと思ったのだけど、
 ちょっと忘れ物……かなぁ」
「大丈夫かい?」
「うん、大した物じゃないんだ。
 それよりばあちゃんは大丈夫?
 俺、話しすぎたかな」

「大丈夫だよ。お前と話が出来るのが嬉しいんだ。
 それに、先生が良くしてくれるからね」
「先生……」

そう言えば初めて病院を訪れたときに
少し話したな、と彼は思い出す。
と同時に先程の医師見習いの青年の言葉を思い出す。

厳しい先生。

「そうは見えなかったけど」

「……なんの話だい?」
ふと漏れた言葉に祖母が答える。
彼は苦笑しながら首を振る。

「なんでもないよ」


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