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「西一族と涼」2

2014年04月11日 | T.B.2019年

 西一族で、唯一、黒髪の彼について、村人は勝手に噂をした。

 彼が、身体中、
 怪我をしているのは、幼い頃、いじめにあったからだ、とか。

 それゆえに、
 大きくなるまで身を隠し、ひっそりと育てられていたのだ、とか。

「ほら。小さい頃、いたよね。黒髪の女の子」
「ああ、いたね」
「あの子も、さ。相当いじめられていたよね」
「そりゃ、黒髪だし」
「しかも、その女の子は、母親が東一族だからな」
「父親は?」
「西一族って話」
「今、どうしてんの?」
「その東一族の母親と、黒髪の女の子、いつのまにかいなくなったよね」
「殺されたんだよ」
「本当に?」
「さあ?」
「でも、今、西にはいないもんな」
「そのふたり、狩りが出来れば、まだ、よかったんだろうけど」
「東一族は、狩りが出来ないってよ」
「そうなの?」
「じゃあ、何食べてんだろ」
「まあ。……あの彼は、さ。狩りが出来たからよかったよね」

 ひっそりと、育てられたにも関わらず、彼は、狩りの腕前がよかった。

 黒髪で生まれ、
 黒髪で生きるのなら、

 狩りで、西一族の村人に認めてもらうしかない。

 現村長は、そう見込んで、彼に、狩りをたたき込んだのだろうか。

「あいつと、狩りに行ったことあるやつ、いるの?」
「村長と、数人ぐらい?」
「狩りの腕はすごいって」
「俺、狩りしてるところ、見たことないからなぁ」
「でも、それ。本当は、狩りのための腕前じゃない、て話」
「どういうこと?」
「東に入り込む、諜報員にさせられるんだよ」
「そうなの!?」
「黒髪だし?」
「ああ。そりゃ格好の標的だな」
「あいつ、耳に穴開いてるだろ」
「うん」
「東一族は、耳飾りをするだろ」
「……見たことないけど。そう聞くね」
「東一族の格好をするために、穴を開けさせられたって」
「あと、見たことない足の装飾品も?」
「そうそう。東一族の装飾品と同じとか、なんとか」
「本当に?」
「模造品かもしれないけど、少なくとも、西でする装飾品じゃないだろ」

 諜報員、は、普通の村人には、噂程度の存在だった。

 本当に、諜報員が存在するかどうか、
 知っているのは村長と数人と、諜報員本人だけである。

 敵の一族に乗り込むのだから、命がけの仕事になる。

「いくら、姿格好を東一族に真似たって、ね」
「東の文化は、いまいち知らないよな」
「東一族には、すぐ、ばれるだろ?」
「……殺されちゃうね」
「いいんだよ」
「どうせ、黒髪は、西でも煙たい扱いなんだから」
「捨て駒?」
「捨て駒だろ」

 これはすべて、西一族の村人たちの、噂である。

 本当のところは、誰にもわからない。
 黒髪の彼の、実の両親でさえ、名乗り出ないのだから。

 すべてを知っているのは、おそらく、村長だけ、なのだ。



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