走る。
巧はある方の腕で、明かりを持ち、
向は、華を抱えている。
荷物は、もはやない。
腰に下げている、武器のみ。
ふたりが、草をかき分け走る音。
それ以外は、不気味なほど、音はない。
「巧、行けるか!?」
腕から、血が流れている。
寒い。
気温のせいなのか、それとも。
「むか、い」
巧は息をする。
夢中で走る。
「離れろ、とにかく、離れろ!」
「うっ、!?」
「――――!!」
「向!!」
目の前の、向が消える。
代わりに、
「何で、……」
熊。
首を振り、
口からは、よだれと
ああ……、人の血が、
垂れている。
巧は肩で息をする。
熊と、目が合う。
「向、」
これは、もう。
「巧!!」
「――――!?」
「走れ!」
熊の首に、短刀が刺さる。
痛みで、熊は大きく反り返る。
向が投げた短刀。
「俺は飛ばされただけだ! 行くぞ!!」
そのあとは、どう逃げたのか
判らない。
村から、ものすごく遠い山の中に、いたはずだった。
いつも、狩り場に行くのが、億劫になるほど。
今
西一族の村が見える。
遠かった。
けれども、早かった。
帰って来た。
あたりは、薄明かり。
もう
大丈夫。
景色が、横になっている。
ああ、
倒れたのだ、自分は。
「華!」
向が叫んでいる。
「おい、目を開けろ!」
「…………」
向、
華は、
……華は、どうなったんだ?
「お前、狩りなんかやめて、花屋になるんだろう!?」
向の声。
遠のく意識。
大丈夫なのか
大丈夫?
判らない。
けれども、ここなら、大丈夫。
もう、
獣は来ない。
NEXT
巧はある方の腕で、明かりを持ち、
向は、華を抱えている。
荷物は、もはやない。
腰に下げている、武器のみ。
ふたりが、草をかき分け走る音。
それ以外は、不気味なほど、音はない。
「巧、行けるか!?」
腕から、血が流れている。
寒い。
気温のせいなのか、それとも。
「むか、い」
巧は息をする。
夢中で走る。
「離れろ、とにかく、離れろ!」
「うっ、!?」
「――――!!」
「向!!」
目の前の、向が消える。
代わりに、
「何で、……」
熊。
首を振り、
口からは、よだれと
ああ……、人の血が、
垂れている。
巧は肩で息をする。
熊と、目が合う。
「向、」
これは、もう。
「巧!!」
「――――!?」
「走れ!」
熊の首に、短刀が刺さる。
痛みで、熊は大きく反り返る。
向が投げた短刀。
「俺は飛ばされただけだ! 行くぞ!!」
そのあとは、どう逃げたのか
判らない。
村から、ものすごく遠い山の中に、いたはずだった。
いつも、狩り場に行くのが、億劫になるほど。
今
西一族の村が見える。
遠かった。
けれども、早かった。
帰って来た。
あたりは、薄明かり。
もう
大丈夫。
景色が、横になっている。
ああ、
倒れたのだ、自分は。
「華!」
向が叫んでいる。
「おい、目を開けろ!」
「…………」
向、
華は、
……華は、どうなったんだ?
「お前、狩りなんかやめて、花屋になるんだろう!?」
向の声。
遠のく意識。
大丈夫なのか
大丈夫?
判らない。
けれども、ここなら、大丈夫。
もう、
獣は来ない。
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