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「『成院』と『戒院』」13

2020年04月07日 | T.B.2010年

「え?」

嘘だろう、と『成院』は呟く。

「知っていた?」

彼の目を見つめて、
晴子は静かに頷く。

「私も、謝らないといけない」

「分かっていたの、なんとなく。
 あなた、成院じゃない、
 戒院―――カイだって」

それは、すぐに気がついた訳では無くて。

じんわりと。

ぼんやり、と。

ああ、今の言い方、
カイにそっくりだな、と
思う事の積み重ね。

最初はそりゃあ家族だし、
何て言っても双子だし、
そう言う事なのだと思っていた。

戒院のクセではなくて、
家族が似てくると言う様な。

けれど、

何だかしっくりと来ない。

自分が知っている成院が
死んだ戒院を真似ているというより

戒院が成院を真似ている。

そっちの方が
すとん、と納得がいく。

だけれど、

「この人は
 誰なんだろう、って思ったわ」

自分の目の前に居る人は。

戒院ならば、
どうして成院のフリをしているのだろう。

成院ならば、
どうしてこんなにちぐはぐなんだろう。

「分からないから、
 待っていようと思ったの」


「あなたが、
 自分から話してくれるまで」


「………そう、か」

驚かせる、落ち着いて聴いて欲しいと
そう言った彼が
1番動揺している。

「それは、そうだよな」

誰かに成り代われる訳が無い。

「うまく装えている、と
 そう思っていたんだけど」

いや、うまくやれているってなんだ。
騙しておいて。

「ふざけた、事を言わないで」
「え?」

「誰もが気づいたわけじゃ無い。
 一緒に居るのが長かったから
 気づいたわけじゃない」

「私は、あなたの恋人だったのよ」

「晴子」

「私、だから」

気がつく事が出来た。

「分かっていたって、
 驚かなかった訳じゃない」

「ごめん」

「カイが死んだって、
 どれだけ悲しかったと思う?
 立ち直るのに、どれだけかかったと思う?」

「はる、こ」

「目の前の人が
 もしかしてカイかもしれないと思って、
 でも、それだけよ、ずっとずっと」

不安だった。
混乱した。

「あなたが成院になろうとして、
 成院の分を抱えて、
 ずっとずっと苦しそうな顔していて」

「晴子」

「わたし、どうしたらよいのだろうって」

「晴子、泣かないでくれ」

「待っているのは、つらかった。
 他の人と結ばれていたら
 こんな想いしなくて済んだのかもって
 そう思った、」

けれど。

『成院』―――戒院、は
晴子を抱きしめる。

「ごめん。ずっと待たせた」

「………待ったわよ、」

「長い話になるし、
 全部、話せるか分からないけど」

「うん」

「どこから話そうか、
 うん、あれは、村に病が流行始めた時」



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