TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」19

2020年04月10日 | T.B.1999年
「この花はね、海辺に生えるのよ」

 華が云う。

「あまり寒いのは苦手だから、冬は気を付けて」

 華の説明は続く。

 買ってから、もう3年経つのね。
 そろそろ植え替える時期だから、ちょうどやったところなの。
 根を傷付けないように。
 ほんの少し、肥料をあげて。

 紫の花、きれいだわ。
 いい香り。

 ほら。巧が買ってくれた花も、こんなに大きく増えた。
 ああ
 花がたくさんあって、仕合わせ!

 ありがとう、巧。

 ありがとう。

 巧、

 ――――。

 …………。

「…………」

 巧は、目を覚ます。

 ずいぶんと、

 眠っていたの、か。

 ここは

 どこだ?

 あたりを見る。

 寝台の上。

 ……病院?

 なぜ?

 巧は、目を開いたまま。
 頭を巡らせる。

「…………」

 狩り

 ……そうだ。

 狩りに行った。

 それで、熊に襲われて……。

 でも

 帰って来た。
 帰ってこられた。

「よかっ、た……」

 夢じゃない。
 助かったのだ。

 ここは、安全な場所。

 安心感。

 巧は目を閉じる。

「向! 華!?」

 突然、巧は起き上がる。

 そうじゃない。
 ふたりは?
 ふたりは、どうなった?

「あ、れ……?」

 痛み。

 巧は、腕を見る。

 ある。

 指も、ある。
 動く。

 反対の腕も見る。

「腕、……」

 ない。

 動かせる感覚がある。
 指が動いている、ような気がする。

 けれども、そこに腕はない。

「わ、」

 巧は、目を見開く。

「うわぁああああああ!!」






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