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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と嗣子」11

2019年08月20日 | T.B.2003年

スガがナイフを振り下ろし、
水樹は鞘を抜かないまま、短刀で受け止め、
そのまま刃筋を返す。

鈍い音がして
2人は互いに距離を取る。

新月の夜。

水樹の髪留めが、
星の僅かな明かりを跳ね返す。

「その髪留め、東の戦術大師か?」

へえ、と水樹は感心する。

「物知りだな、
これな意外と動く度、顔に当たって
ペチペチするんだぜ」
「いや、」

そういう事は聞いてない。

「んん~、でも残念。
 戦術大師ってのは俺の爺ちゃんの事だろ。
 情報が古いぞ」
「だろうな、
 戦術大師がお前みたいなのでも困る」

スガはナイフを振り
距離を詰める。

「東一族って相手を殺さない主義とかあるのか?
 その短刀も早く鞘を抜いたらどうだ?」
「………そういう訳じゃないさ」

ナイフの刃先が鞘をかする鈍い音が響く。

「剣術は得意じゃない、か?
 体術だけでどうにかなるわけ無いだろう。
 ほら!!」

「ぐっ!!」

ナイフが水樹の腕に刺さる。
スガは顔を近づける。

「今のが避けきれないようじゃ、
 たかが知れてるぞ、東一族!!」
「………いや、予定通りだし」

水樹は腕を伸ばす。
はあ?とスガは首を捻る。

「強がりは止めておけよ。
 大丈夫。
 逃げた2人もすぐ後を追わせてやるから」


裕樹は嗣子を抱えて走る。

「ご、……はっ」
「しっかりしろよ」

こういう時はあまり動かさない方が
良いのだろうが、
解毒剤があるのかどうかも分からない状況。

それならば村に戻った方が良い。

幸いにも、
村からは遠く離れてはいない。

「嗣子が1人で行ける距離
 だったから、なのだろうけれど」

くそ、と悪態をつく。

深く考えずに砂一族と会っていた嗣子にも、
そんな嗣子を利用していた砂一族にも、
水樹を1人残して
こうしなければならなかった自分にも。

「め………ご」
「え?」

足を止め、
嗣子の口元に耳を寄せる。

「なんだ?どうした?」

「ご………な……い」

ごめんなさい、と。

「やめろよ」

裕樹は叫ぶように言い、
嗣子を抱え直す。

「謝るなよ。大丈夫だから。
 もうすぐ村に着くから」

なんだよ、と。

「いつもみたいに、
 強がって無茶言っとけよ」

「そうだよなぁ」

そう、肩を叩かれる。
裕樹でも嗣子でもない声。

とっさに後ろに振り返る。

「…………あ」

心臓が止まりかける。

「………水樹兄さん!!」

腕の血を押さえながら、
水樹が息を切らしている。

「はー、間に合った。
 足早いな裕樹」
「兄さん、砂一族は」
「なんとか追い払ったよ。
 その前にこれだけは手に入れたかったから、
 うーんと」

よいしょ、と
懐から麻袋を取り出す。

「あいつが持っていた薬。
 どれが使った毒で、どれが解毒薬か分からないけど
 そこは先生に見てもらおう」
「兄さん、それどうやって」

「近寄って取ってきたよ」

「近寄って、て。
 兄さん刺されてんじゃないか」

砂一族の武器には
毒薬が塗り込んである。
血を止めればよいと言う訳じゃない。

「うーん。まあ、ちょっとは入ってるかも。
 びりびりしてきた」
「毒回ってんじゃんか」

「だから、
 回りきる前に早く行くぞ」

な、と水樹は嗣子に言う。

「帰るぞ、嗣子」


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