TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」2

2015年06月26日 | T.B.2019年

「……父さん」

 村はずれで、彼女は、父親を見つける。
 日が落ち、あたりは暗い。

「帰ってたの?」

 久しぶりに会う父親。
 けれども、彼女は喜びを見せない。

「ああ。元気だったか?」

 娘に気付いた父親は、立ち止まる。

 父親は、村の外で仕事をしていることが多く、滅多に会えない。
 何の仕事をしているのか、彼女は知らない。

「勉強はしているのか」
「してない」
「母さんみたいな医者に、なるんじゃなかったのか」
「そんなこと、云ったことない」

 父親は歩き出す。
 彼女は、父親に続く。

 父親は、ゆっくりと歩いている。
 おそらく、彼女に合わせているのだ。

 合わせて、ゆっくりではあるけれども、……歩みを止めない。
 向かいたい場所があるのだ。

「お前は足が悪くて、狩りには行けないから」
「…………」
「ほかの何かを、出来るようになったがいい」

 この、西一族は、狩りをする一族。

 狩りは出来て当たり前。

 参加出来ない者は、役立たずとされる。

 彼女の母親も、そうだった。
 彼女と同じ。
 生まれつき、足が悪い。

 狩りに参加したことはない。

 けれども、母親は若くして医者になり、西一族から必要とされている。

 ――役立たずと云われることは、もはや、ない。

「ねえ、父さん」
「何だ」
「父さんの仕事に、一緒に連れて行って」

 父親は、彼女を見る。

「それは出来ないな」
「なぜ?」
「お前が出来ない仕事だからだよ」
「村の外で、何をしているの?」

 父親は答えない。

「私、外へ行きたいの」
「外?」
 父親は立ち止まらず、云う。
「……ここに、居づらいんだな?」
 彼女は答えない。
「ねえ、連れて行って」

 やがて、大きな建物にたどり着く。

 病院。
 窓からは、光がもれている。

「母さんに会うか?」

 父親の言葉に、彼女は立ち止まる。

「どうする?」
「会わないよ。用ないもん」
「そうか」

 彼女が訊く。

「父さん、あとで家に来る?」

「いや」

 父親は首を振る。

「母さんに会ったら、すぐ仕事に戻る」

「……そう」

 彼女は父親に背を向け、歩き出す。

「お前が外で暮らせるように、村長に訊いてみるよ」
 落胆している彼女の背中に、父親が云う。
「南一族の村で、お前の祖父母が暮らしてるから、そこで」

 父親は続けるが、彼女は振り返らない。



NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。