「……父さん」
村はずれで、彼女は、父親を見つける。
日が落ち、あたりは暗い。
「帰ってたの?」
久しぶりに会う父親。
けれども、彼女は喜びを見せない。
「ああ。元気だったか?」
娘に気付いた父親は、立ち止まる。
父親は、村の外で仕事をしていることが多く、滅多に会えない。
何の仕事をしているのか、彼女は知らない。
「勉強はしているのか」
「してない」
「母さんみたいな医者に、なるんじゃなかったのか」
「そんなこと、云ったことない」
父親は歩き出す。
彼女は、父親に続く。
父親は、ゆっくりと歩いている。
おそらく、彼女に合わせているのだ。
合わせて、ゆっくりではあるけれども、……歩みを止めない。
向かいたい場所があるのだ。
「お前は足が悪くて、狩りには行けないから」
「…………」
「ほかの何かを、出来るようになったがいい」
この、西一族は、狩りをする一族。
狩りは出来て当たり前。
参加出来ない者は、役立たずとされる。
彼女の母親も、そうだった。
彼女と同じ。
生まれつき、足が悪い。
狩りに参加したことはない。
けれども、母親は若くして医者になり、西一族から必要とされている。
――役立たずと云われることは、もはや、ない。
「ねえ、父さん」
「何だ」
「父さんの仕事に、一緒に連れて行って」
父親は、彼女を見る。
「それは出来ないな」
「なぜ?」
「お前が出来ない仕事だからだよ」
「村の外で、何をしているの?」
父親は答えない。
「私、外へ行きたいの」
「外?」
父親は立ち止まらず、云う。
「……ここに、居づらいんだな?」
彼女は答えない。
「ねえ、連れて行って」
やがて、大きな建物にたどり着く。
病院。
窓からは、光がもれている。
「母さんに会うか?」
父親の言葉に、彼女は立ち止まる。
「どうする?」
「会わないよ。用ないもん」
「そうか」
彼女が訊く。
「父さん、あとで家に来る?」
「いや」
父親は首を振る。
「母さんに会ったら、すぐ仕事に戻る」
「……そう」
彼女は父親に背を向け、歩き出す。
「お前が外で暮らせるように、村長に訊いてみるよ」
落胆している彼女の背中に、父親が云う。
「南一族の村で、お前の祖父母が暮らしてるから、そこで」
父親は続けるが、彼女は振り返らない。
NEXT