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「希と燕」4

2015年02月17日 | T.B.1961年

「狩りの肉はどうした?」

狩りの翌日。
希が尋ねると燕の目線は外に向かう。

「保冷庫」

狩りで得た獲物は
とりまとめて村人に配られる。

だが、上等の物や珍しい物は
狩った本人達が多少持ち帰ってもよいとされている。
昨日の牝鹿も自宅用にと少し貰ってきている。

「一塊、持って行くからな」
「いいけど、どこに?」
「丹子の家」

あー、と燕が言葉を詰まらせる。

「それ、規子には言った?」
「言ってない、けど」

普段はそんな確認はいちいち取っていない。
持ち帰ったものは各自の自由だ。
それでも、今回は希、燕、そして規子と
苦労して獲った物だ。

「確かに一言あった方が良いか」

燕は神妙な顔つきで考え込んでいる。

「いや、どうなんだろ、そこの所」
「はぁ?」

考えているが、答えは出ないようだ。

自分で言っておきながら何なのだ?

はっきりとしないまま、その話は終わる。
希は肉を切り分け、
専用の紙に包んで家を出る。

広場を通っていくと、そこには規子が居る。
いつも、この時間には狩りの道具を整えている。
予想通りだ。
他の村人と話しているので
声をかけずに様子を見ていると
規子の方が気付いて希に手を振る。

「おはよう規子。昨日はお疲れ」
「希こそおつかれさま」
 昨日の肉はもう食べた?」
「あぁ、うちはまだ」

「せっかくのごちそうだから、
 急いで食べるの勿体ないよね」

せっかくのごちそう。
その言葉に少し心が痛む。

「―――それ、でさ、
 昨日の肉なんだけど、
 少し丹子に分けて良いかな?」

一瞬不思議な表情を浮かべて
規子は首をひねる。

「えぇ?」

あぁ、やはりいけなかっただろうか、と
希は気まずい気分になる。

「なんで私に聞くの?
 もう希の家の取り分じゃない」

早とちりした自分に、やはりそうだよな、言い聞かせる。
燕は何が気になったのだろう。

「ほら、苦労して取ってきたから、悪いなって」
「別にいいのに」

そうよね~、と規子は希を小突く。

「丹子かわいいからね。
 喜ぶのじゃない」
「いや別に
 そんなつもりじゃなくてさ!!」

慌てだす希をからかうように規子は続ける。

「丹子は狩りが上手ではないけど
 それでもみんなには好かれてる」

丹子は西一族の女性の中では大人しい性格をしている。
噂に聞く、東一族の女性に近い気がする。

それでも、愛嬌があるので
彼女を嫌う人は少ない。
司祭の娘というのもあるのかもしれない。

「私も丹子のようだったらな」

狩りの腕があり、活発な規子が
正反対の性格である丹子のように、というのが
希にとっては不思議だった。

そうでなくとも、規子こそ
ぜひにという人は多い。

「じゃあ、ウチの弟とかどうだ?」
「……燕?」
「前も言ったけど、
 狩りの腕は、俺たちの中でも飛びぬけているし
 おすすめなんだけどな」

燕、そっか、燕ね。
規子は笑う。
笑いながらもその表情は
先程の何を言っているのかと戸惑った時の顔に似ていた。

「ねぇそうやって
 希も燕も
 いつも人の事ばっかりなんだから」

そう言う規子に
はぐらかされたな、と希は思う。


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