TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」17

2020年03月27日 | T.B.1999年

 暗い山の中。

 木々は高くそびえ、

 空を覆う。

 いや、その空にさえも、もはや光はない。

 冷たい空気。

 静かだ。

 自分たちの動く音と、

 獣の息づかい以外は。


 何が

 起きたのだろう。


 ほんの少し、眠っただけだった。

 獣に近付かれ

 火を起こし
 荷物をまとめ

 ただ、山を下りるだけだった。

 なのに?


 横たわる、華。

 わずかな、明かり。

 巧は、自身の腕を見る。


「…………??」

「たく、」

「…………何」

「おい、」

「う、」

「巧!」

「うわぁあああああ!!」


 形容しがたい痛み。

 暗闇の中。
 明かりに灯され

 逆に、

 嫌に、はっきりと見える。

 血。

 自身の、血。

 足下にある、腕。

「っううううう」

「巧!!」

 向が、駆け寄る。

「おい!」
「むか、い」
「大声を出すな、熊だぞ!」

 巧は目を見開く。

 痛い。

 判らない。
 何が起きたのか。
 痛みで
 どうすればいいのか。

「俺は華を抱える! 走れ!」

 血が流れる。

 このままでは
 このままでは

 けれども、

 目の前にいる、熊。

「華!」

 向の声に、巧は姿を追う。

 華。

 倒れている。

 目は閉じられている。
 眠っているように。
 いつもの、顔。

 なのに

 身体は

「華! しっかりしろ!!」

 反応はない。

「向!」

 走るしかない。
 逃げるしかない。

 怪我のことは、後回しだ。

 でないと

 命が、ない。





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