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「『成院』と『戒院』」11

2020年03月24日 | T.B.2010年
「ゲホッ!!」

は、は、と『成院』は膝を突きながら
短く息を吐く。

「自分を『地点』にしたのか」

考えても見なかった砂一族の行動。

呼吸が荒れているのは
久しぶりに使った術の反動。

少しでも距離を取る必要があった。

それも、自分と大樹2人分。

爆発を避けるための
短い距離だが、
転送術を使ったのは
どれだけぶりだろう。

「おま、え」

大樹が驚いて
こちらを見ている。

そうだよな、

転送術はかなり特殊な術で
東一族の中でも使える者は限られている。

そして、成院は使えない。

「ケガはないか、大樹?」
「…………あ、ああ」

なら良い。

いつかはこうやって
力を使わないといけない時が来ると
そう思ってた。

『成院』は立ち上がり、
砂一族に近寄る。

一人は地点となり、
もう一人は。

「三人は飛ばせなかった」

自分と大樹
それが精一杯。

止血を施す、が
あまり意味は無いだろう。

僅かに息のある砂一族は言う。

「情けのつもりか?
 今度は俺が、地点になったらどうする?」
「………その時はまた転送術を使えばよい」
「ふうん、なぁ、医者」

砂一族は皮肉げに言う。

「楽にしてやるという気は無いのか?」

例えば、
村に流行った病の感染を止めるために
患者に施した薬のように。

「………」

『成院』は手を止めずに呟く。

「俺は、医者だ」

医者だからこそ。

多分、成院であれば
違う判断をしていただろう。

ははは、と砂一族は笑う。

「悪いが、東一族の世話にはならない。
 助かっても、その後が知れてるからな」

カリ、と何かを噛み締めた音。

「待っ!!」

「じゃあな」

ゴホ、と血を吐いて
砂一族は震える。

即死性の毒。

「なんて事を」

『成院』は彼の脈を確認し
ため息をつく。

「………」

視線を感じ振り向くと
大樹がこちらを見つめている。

「戻るか、大樹。
 早く宗主と大将に報告を」

「おま、え」

誰だ、と大樹が言う。

「………」
「どっちなんだ、まさか、戒い」

駆け寄る足音が聞こえる。
爆発音に気付いてやって来た門番達。

「医師様!!大樹様!!
 大丈夫ですか?」

「ああ、無事だ。
 それより戦術師を集めてくれ」
「一体何が」
「砂一族の襲撃だ」
「砂が、こんな所にも」

早く村の中へ、と
門番を務めていた若い東一族が
二人を誘導する。

「大樹」

混乱して歩みを止めている大樹に
『成院』は声を掛ける。

「行こう、今はそれどころじゃない」
「………ああ」

肩を叩く。

「お前が想像している通りで間違い無いよ」


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