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「西一族と巧」1

2019年03月15日 | T.B.1996年


 向(むかい)が獲物を追い
 華(はな)が、その逃げ道を塞ぐ。

 驚いた獲物は、大きく鳴き、進行方向を変える。

 また、逃げる。

 が、

 そのまま倒れる。

 その胴体に、矢が刺さっている。

 動けない。

 向と華は、獲物に駆け寄る。

 とどめ。

「…………」
「…………」
「どう?」
「油断しないで」

 向と華は、獲物を見る。

「どうだ?」

 もうひとり、駆け寄る音。

「矢は当たったか?」
「もちろん」
「狩りは成功よ!」
「ならよかった」
「他の班はどうかしら?」
「おい。早いうちに村へ戻ろうぜ」

 西一族の3人は、獲物を持ち帰る支度をし
 荷物をまとめる。

 山の天気は変わりやすい。

 狩りが終わったら、すぐに村へと戻るのが原則。

 山に泊まり込むこともあるが、今回は獲物が捕れたのだ。
 その必要は、ない。

「よし」
「ああ」

 男2人の頷きに、華はだれる。

「どうせ、公平じゃんけん、でしょ!」
「当たり前だ!」
「獲物2人、荷物1人」
「男なら、女子の荷物ぐらい持ってよ!」
「それ、華に必要ある?」
「ははっ!」
「その言葉、許さん!」
「なら、華はどれを持ちたいんだ」
「先に選ぶ権利をあげよう」
「えー!!」

 と、云われても

 結局、どれも重たい。

 …………。

 3人は手を出す。

「せーのっ」
「じゃんけんっ」
「ほい!」

 結果。

 男2人、獲物。
 女1人、荷物。

「ちょっと! 今日の荷物多くない!?」
「でも、一番荷物が多いの、華だろう?」
「行くぞ!」
「重たいし、はずれだし……」

 華はため息をつく。

 西一族は、狩りの一族。
 男女問わず、狩りを行う。
 力仕事だって、女も負けない。
 その仕事に、男女差はほとんどない。

 それが、西一族。

「華!」

 先を歩き出したひとりが、手を出す。

「ほら荷物。半分持ってやるよ」
「…………っ!」
「早く」

「巧(たくみ)!」

 ありがとう、と、華は荷物を託す。

「何だよ~」

 先頭を歩く向が云う。

「巧は優しいな」




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