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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「高子と彼」1

2019年03月12日 | T.B.2002年

「あら?」

高子は首を捻る。

西一族の村の端にある墓地。
そこに、見知った、
けれど、めずらしい人影を見る。

彼の隣で
まず墓前に祈りを捧げる。

「ありがとう」
「看取った人だもの」

祈っていたのは彼の祖母の墓。

「帰って来ていたの?」
「………ああ」

彼は顔を上げる。

祈っていたのは彼の祖母の墓。

「ひさしぶり、ね」

西一族だが、南一族の村で暮らす彼は
ごく希に顔を見せる。

「弟の顔を見に来たんだ」
「そう」

高子は彼の弟を思い浮かべる。

「なかなか、大変そうよ」
「そう聞いている」
「あの子と2人、南一族の村に連れ帰ってあげたら?」
「できたら良いのだけど」
「むずかしいの?」
「………色々、ね」

うーん、とどこかうわの空で彼は答える。

彼の弟も
ああ見えて強情な所もある。

どうしてこう
物事は単純じゃないのだろう。

どうして。

「………どうして、あなた、
 あの時居なかったの?」

彼の弟が、あの子が
大変だったときに。

それは彼の弟の問題ではあるけれども。

もしかして、
彼が居たのであれば。

「俺がなんでも出来る訳じゃ無いよ」
「ごめんなさい。
 見当違いな事を言ったわ」

いや、と。

「そうだな」

彼は答える。

「多分俺は、
 肝心な時にはその場には居ることが出来ない」

そうなる事を選んだのに、と。


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