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「稔と十和子」9

2018年08月21日 | T.B.2003年

診断を終え、稔は前を向く。

「もしかしたら、走る事に
 少し不自由がでるかもしれません」
「そうね」
「普段の生活には問題無いと思いますが、
 狩りは……訓練次第かと」
「こういうのも遺伝するのね」

自分も、自分の母親もそうだったから、と。

「西一族とは言え、狩りが全てでは無いですよ。
 他の仕事を身につければ
 充分暮らしていけます」

例えば、医師とかどうですかね、と言い、
稔はカルテを閉じ、面談を終える。

「…………」
「…………」
「緊張したかしら?」

高子が尋ねる。

「するに決まっているじゃないですか」
「大きな声を出さない。
 ―――あぁ、琴葉。大丈夫よ」

我が子をあやす姿を見ながら
稔はため息をつく。

「先生、自分で診断できるでしょう」

もちろん、と言いながら
高子は答える。

「でも、私はお休み中だし。
 家族はどうしてもひいき目に見てしまうから
 冷静に診断できる他人が良いのよ」
「そんなものですか?」
「そんなものよ」

ふーむ、と納得が出来かねると言う稔。

「随分さまになってきているわよ。
 近々私も復帰するから
 もう少し頑張って」
「まだお休みください、と言いたいですけど
 助かります」

ええ、と高子は立ち上がり
診察室を後にする。

「次の方」

普段ならば入り口から顔を出し、
そう呼ぶのだが、
稔が何も言わずに出てきたので
高子もおや、と振り返る。

休憩だろうか、と思っていると
待合室の腰掛けに近寄っていく。

あぁ、確か
耳の聞こえない患者だった。

高子が思い出していると
稔は彼女に声をかける。

彼女の言葉である手話で。

「………」

稔に関して高子が感じている事。

患者との会話は基本笑顔で物腰も柔らかい。
だが、どこか一線を引いて冷静な所がある。

医師と患者という関係なので
そうあるのが良いのだろうが、
それとは少し違う何かがある様な気もする。

「あら」

ああいう風にも笑うのね、と
見ていて少し驚く。

「これは、もしかすると
 もしかするのかしら」

 
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