TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」2

2015年07月28日 | T.B.1998年


「鳥だ」

空を見上げていたチヒロは
ぽつりと呟く。

「山の鳥?」

天気が漁の全てを左右する為、
海一族は空の変化には
常に目を凝らしている。

頭上を旋回して飛んでいる鳥は
普段ここいらを飛ぶ鳥ではない。

そして、
野鳥ではなく、飼い慣らされた鳥だ。

チヒロは布を腕に巻き水平に掲げる。
すると、
その鳥はゆっくりとチヒロの腕に停まる。

「利口な鳥だな」

その足には何かが巻き付けてある。
手紙、だ。

「あぁ、チヒロ、そちらに降りたか」

「ミツグさん」

駆け寄ってきたのは
長の補佐を務める若者だ。

ミツグが腕を差し出し
指笛を吹くと、
鳥はそちらに飛び移る。

「……ミツグさん、それ」

「山一族からの知らせを運ぶ鳥だ」

「―――山一族から」

ミツグの言葉が終わらないうちに
使いの鳥は彼の腕を離れる。

「なんだ、餌でもやろうと思ったが
 もう帰るのか」

そうこうしないうちに
鳥は飛び去っていく。

「賢いですね」

「だが、いけ好かない。
 業務的な鳥だな」

さて、と
手紙を開封しないまま、ミツグは踵を返す。

「チヒロ、いずれこの事は
 長から話があるだろう。
 混乱を避けるため、それまでは他言は控える様に」

チヒロと別れた後、
ミツグは足早に村の中心に向かう。
海一族の長が住まうその家だ。

「おかえり、やっぱり山一族から?」

同じく長の補佐を務めるコズエが
彼を出迎える。

「あぁ、間違いない。
 鳥の使いが来たことを長はご存じだろう?」
「えぇ報告済みよ。
 行きましょう、待っておられるわ」

二人は揃い、長の前に顔を出す。

「山一族からの手紙です」

ふむ、と
海一族の長は、手紙の風を開けると
ゆっくりとそれに目を通す。

「決まった様だな。
 もう、何十年ぶりだろうか」

ふとため息をつくと
長は2人の補佐に告げる。

「近々、山に登らねばならん。
 該当する者には声を掛けておく様に」


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