TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」3

2015年08月04日 | T.B.1998年


船着き場に戻ってきたトーマとミナトを
カンナが出迎える。

「もう、2人ともなにやってるの
 びしょ濡れじゃない」

自分で洗ってよね、というカンナに
ミナトは弁明する。

「悪い悪い。
 俺がトーマを少しからかってな、
 でも、何も舟から突き落とすことはないだろう」

冗談めかしていうミナトに
はぁ?とトーマは息巻く。

「そういうミナトこそ
 俺を舟から引っ張り落としたじゃないか」

2人は
舟を岸辺に固定すると
やっと陸地に足を踏み入れる。

「あぁ、でも
 これは一度着替えないとな」
「じゃあ、今日は解散だな」

魚がわずかしか捕れていないのも
そういう理由だが、
元々漁の日ではないので気にする必要はない。

海一族である証の金髪が
それぞれ顔に張り付いている。

「もう、2人とも風邪ひかない様にね」
「早いところ帰るか」
「それじゃあな」

トーマはミナトとカンナに手を振り
自宅へと向かう。

海一族は自立が早い。
トーマほどの年になると
独り立ちする様になる。

家族とは同じ敷地内だが
別に家を構える事が多い。

家に戻り着替えると
トーマは母屋に向かう。

「ただいま、昼飯だけど」

「あら。お帰りトーマ」

姉のアキノが居間でくつろいでいる。
尋ねてきた恋人と話をしていた様だ。

「お昼なら貴方の分もあるわよ
 食べて行きなさいよ」

姉に言われて、トーマは席に着く。

「トーマ、お邪魔しているぞ」
「チヒロさん、ひさしぶり」

2人はすでに昼食を済ませている。
同じテーブルで食事をとるトーマの前で
姉と恋人はたわいもない話を続ける。

「それで、その鳥が、な」

「鳥?」

トーマは思わずその言葉に反応する。

「鳥がどうかしたのか?」
「ああ、山一族からの使いの鳥が来て」
「チヒロがその場に居たんですって」

「山一族からだって?」

彼ら海一族とは一定の距離感を持って接している
土地を隣接する一族の一つだ。

彼らは山で猟を行い、
トーマ達、海一族は
海で漁を行う。

狩り場が違うので
そうそう対峙することも少ない。

「山一族から、何が」
「さぁな、あまり言うなとも言われたし」

おいおい、とトーマは呆れる。

「チヒロさん、言ってるじゃないか」
「控えろ、と言われただけだ
 それに、誰彼かまわずって訳じゃない。
 お前を信頼しているから話しているんだ」

分かっているよな、言うなよ。と
自分の事をさておいて
チヒロはトーマに釘を刺す。

はいはい、と返事をしながら
トーマは食事を続ける。

「ふぅん、山、からねぇ」


NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。