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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」3

2015年07月31日 | T.B.1998年

 青空が、曇り空へと変わる。

 雨雲。
 すぐに、雨が降り出すのだろう。

 マユリは、風を確認する。
 音を立てる。

 鳥たちを呼ぶ音。

 マユリは、持っていた箱を地面に置く。
 目の前の止まり木を見る。
 鳥を、待つ。

 やがて

 一羽が降り立つ。
 大きな鳥。
 止まり木で、羽を広げる。

「おかえり」

 マユリが云うと、その鳥は再度、羽を広げる。

 それを合図に、空から鳥が集まってくる。

 たくさんの、鳥。
 この、山一族が、飼い慣らしている鳥。
 マユリは、この鳥たちを世話している。

 マユリは、箱から餌を取り出す。
 まず、最初にやってきた鳥に、それを与える。

「いい子ね」

 マユリが云う。

「今日の空はどうだった?」

 マユリは鳥を見る。
 鳥も、ただ、マユリを見つめる。

「……そう」

 マユリは頷く。

 と

 ふと、視線を感じて、マユリは振り返る。

「まあ」

 そこに、

 カオリがいる。

 マユリは、微笑む。

「いつからそこに?」
「いつの間にか、よ」

 カオリが云う。

「マユリの手伝いに」
「あら。ありがとう」

 マユリは、カオリに箱を渡す。
 カオリは箱から餌を取り出し、順番に餌を与える。

 マユリは、布で鳥の羽を拭う。

「雨が降りそうね」

 カオリは空を見上げる。
 風が冷たい。

「急ぎましょう」

「ねえ、マユリ」
「何?」
 カオリは、新しい餌を持ち、云う。
「私も、フタミ様のお鳥様に、さわれるかな?」

 マユリは、顔を上げる。
 カオリを見る。

 微笑む。

「どうかしら?」

 さわれるかどうか、は、鳥が決めること。

 マユリは、一歩離れる。
 手を向ける。

 どうぞ、と。

 カオリは、フタミの鳥を見る。
 少し、ためらう。
 が
 息を吐き、鳥に近付く。

 一歩。

 鳥が、カオリを見る。

 一歩。

 鳥は、微動だにしない。
 カオリは、緊張した面持ちで、さらに近付く。

 一歩。

 もう、一歩。



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