雨が降っている。
琴葉は、部屋の中から、外を見る。
窓を閉め、部屋の長椅子に転がる。
歌を口ずさむ。
横になったまま、部屋の隅の棚を見る。
そこには、父親からの贈りものが置いてある。
どれも、見慣れないものばかり。
村の外で働く父親は、めずらしいものを見つけてくる。
そして、帰るたび、おみやげとして置いていく。
けれども、
父親が、どこで手に入れたものなのか、琴葉は知らない。
棚に並んだそれらは、
本当に、並べているだけで、
それっきり、手に取らないものばかり。
琴葉は目を閉じる。
歌うのをやめる。
ただ、時が過ぎる。
いつも、ひとりで、こうしている。
家には誰も、訪ねてこない。
両親も、ほとんど帰って来ない。
琴葉は耳を澄ます。
かすかに聞こえていた雨の音が、しない。
雨が上がったのだろうか。
そう思いながらも、琴葉は横になったまま。
どれくらい、時間が経ったのだろう。
琴葉は身体を起こす。
足を引きずって、扉に近付く。
外を見る。
雨は上がっている。
琴葉は外へ出る。
外を歩く。
西一族の家からは、煙が上がっている。
どこも、食事の支度をしているのだろう。
琴葉は、村のはずれへと向かう。
誰にも会わない。
琴葉は歌い出す。
歌いながら、歩く。
歌いながら、やってきたのは、馬車乗り場。
ここから馬車に乗れば、ほかの村へ行くことが出来る。
琴葉は近くにあった石に腰掛ける。
馬車乗り場の様子を見る。
馬車に積み込まれる、荷物。
馬車に乗る、他一族。
もちろん、西一族も、乗り込んでいる。
これに、乗れば
馬車に乗れば
どこか、違う場所へ、行ける。
琴葉は立ち上がる。
足を引きずって、馬車に近付く。
馬車を見る。
「乗る?」
馬車乗りは、出る準備をしながら、声をかけてくる。
「まだ、空いているよ」
琴葉は何も云わない。
ただ、馬車乗りを見る。
「もうすぐ出発だ」
馬車乗りが云う。
「乗るなら、早く」
琴葉は動かない。
「乗らないのかい?」
馬車乗りは首を傾げる。
やがて、
馬車は、
琴葉を置いて、出発する。
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