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「西一族と涼」7

2014年05月16日 | T.B.2019年

「雨上がりで、足下が悪いのよ!」

 涼が、村長の屋敷へと戻ると、村長の妻と幼い子が、外にいる。
 村長の妻は、遊びに行きたがる子どもをなだめている。

「あそびいくー!」
「今、忙しいし! 足下も悪いんだから!」
「でもー、……あ!」
 子どもが、涼に気付き、指を差す。
「おにいちゃん!」
「あら」
 母親が、顔を上げる。
「お帰りなさい。一日がかりの狩りだったのね。……どうしたの、その血?」
 涼は、血だらけだった。
 それに気付いた子どもが、泣き出す。
「俺の怪我じゃない」
 涼が云う。
「……獲物の返り血が」
「そう。それは安心したわ」
 母親は、涼を手招く。
「早く入って着替えて!」
「おにいちゃんけがー!」
「にいちゃん、怪我はしてないから! 泣かない!」
「でもー!」
「泣ーかーなーい!」
 子どもは泣き続ける。

 涼は屋敷に入り、自分に当てられている部屋へと戻る。

 服を脱ぎ、身体を拭く。
 血だらけになった身体中の包帯も、巻き直す。
 怪我の治療用ではない。
 完治はしているが、傷跡を隠すために、包帯を巻いている。

 そして、
 自分の片足にされている、装飾品を見る。

 西一族では見られない、装飾品。
 それが、ふたつ、つけられている。
 本来は、東一族が、腕につけるものである。

 涼は、それも隠すように、服を着る。

 立ち上がる。

 水を飲む。

 が、吐く。

 涼は、少しだけ、横になる。
 目をつぶる。

 ふと気付くと、日が傾いている。

 起き上がり、部屋の外をのぞく。
 誰もいない。

 まだ、狩りの報告の招集は、出ていないようだ。

 涼が、屋敷の入り口に向かうと、子どもがいる。
 豆をむいている。
 母親の手伝いだろうか。

「おにいちゃん!」
 弟が、兄に気付く。
「たいへん!」
 向かってきた兄に、弟が、云う。
「まめ、ころがってるの」
「え?」
「ふんだら、たいへん」
 兄は、屈んで、手探りで足下を確認する。

 いくつかの豆が転がっている。

「これ、おいしーね」
 弟が笑う。
「おにいちゃんも、すき?」
 兄が頷く。

 弟の豆むきを、手伝う。

「じょうず?」
 弟が、むいた豆を、兄に見せる。
「うん」
「おにいちゃんも、じょうず」
「……ありがとう」
「どうやると、はやくむけるの?」
「こつがあるんだよ」
「こつ?」

 兄は、弟を見ようとする。
 けれども、
 すぐに、目をそらす。

 弟は、その様子に気付かない。

 弟が、豆をつまみ食いする。
 と
 慌てて、はき出す。

「これ、おいしくない」
「……料理する前だから」
 兄が云う。
「母さんが料理したら、おいしいだろう?」
「うん」
 弟が笑顔になる。
「きょうのごはんは、なにかなー」

 兄は、黙々と豆をむく。

 豆がむき終わると、弟が云う。

「ね、ね。そといこう!」
 兄は、弟を見る。
「おそと!」
「……いや」
 兄は、首を振る。
「やめておこう」
「だめ?」
「日は、どうなってる?」
 兄は、弟に訊く。
「そと、ゆうやけ」
「ほら」
 兄が云う。
「遅いから、また明日」
「だめ?」
 兄が頷く。
 豆の入ったかごを、弟に持たせる。
「母さんに、これを持っていくんだ」
「うん」
 弟は、素直に従う。

 廊下を曲がり、子どもの姿が見えなくなると、
 涼は、屋敷の入り口を見る。

 そこに、村長の補佐役がいる。

「来い。狩りの報告だ」

 涼は立ち上がる。
 云われた通り、外へと出る。



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