TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院とあの人」5

2014年06月10日 | T.B.1999年

成院が西一族の病院に辿り着いた頃には
もう、ずいぶん遅い時間になっていた。

それでもいくつかの窓に明かりが灯っている。
医者か、患者か、人が居る証拠だ。

無人であれば良かったのにと思いながら
成院は身を潜め刻が過ぎるのを待つ。

「―――よし」

やがて全ての明かりが消えた後
立て付けの悪い窓を探し、そこから侵入する。

村に入る前から西一族の病院の位置は確認をしていた。
だから、
村に潜入してそこに辿り着く事も
建物の内部に入り込む事もそれほど難しいことではない。

問題はその後。

「…………」

暗闇の中、成院の灯した小さな明かりが
薬品棚を照らす。

そこに並ぶ薬品のラベルを確認するように
右に左にと目を滑らせる。

東一族の医師は成院に言っていた。
薬の名は効き目に応じて付けられる傾向がある。
だから、感染病の薬があるのであれば
その名前は限られてくる。

「………っ」

成院は焦る。

「まさか」

医師に言われた名前がどこを探しても見つからない。

考えないようにしていた
それでもずっと気がかりだった。

もしかしたら

弟が助かる手段など、どこにも無いのではないか、と言うこと。

「違う!!」

成院は目眩を覚えながらも
棚にしがみつく。

自分がきちんと探せていないだけ。
名前が違うかもしれないだけ。
違う棚に入っているかもしれないだけ。

そう思って振り返った成院の視界に白い人影が飛び込む。
いつの間にか部屋の扉が開いていた。

「……誰……だ…?」

成院の物でない声が
静かな部屋に響く。


NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。