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「小夜子と天院」2

2014年06月06日 | T.B.2016年

 彼女が、はじめて彼に会ったのは

 彼女が、東一族宗主の屋敷に、果物を運んでいたときだった。

 足下の段差に気付かず、彼女は、道の真ん中で転ぶ。
 慌てて、彼女は起き上がり、慌てて、落とした果物を拾う。

 いったい、いくつ落としたのか。

 これで、全部拾えたのか。
 いや、まだ足りない。

 困った彼女は、果物を探す。

 果物は、見つからない。

 彼女は焦る。

 このままでは、日が暮れる。
 宗主の食卓に、間に合わない。

 どうしよう。

「……はい」

 突然、声がして、彼女は顔を上げる。

「はい」

 ひょっとして、これは

「落ちてたよ」

 果物を、拾ってくれたのだろうか。

「どうぞ」

 同じ年頃の、男の声。

「ありがとう」
 彼女はそう答える。
 が、果物を受け取らない。

 ……受け取れない。

 彼は、彼女の手を取る。
 彼女の手に、果物を握らせる。

「探してたの、これでしょ?」

「……ありがとう」

 彼女は微笑み、お礼を云う。

 おそらく、はじめて会う彼、が、云う。
「君、目が、……見えないの?」

 彼女は顔を赤らめる。

「まったく見えないわけでは」
 彼女は云いながら、受け取った果物をかごに収める。

 そして、彼を見ようとする。

「あの……、お名まえは」
「あ、いや」
 彼が、云う。
「いいんだ」
「急ぎですか?」

 そう云って、彼女は、首を傾げる。

 あれ?

 このにおい?

 そうは思うけれど、
 彼女には、よく見えない。

「どうかした?」

 もしかして

「怪我を、……してる?」
「え?」

 慌てて、彼女は、布を持っていなかったかと探す。
「血のにおいがする、から!」
「まさか」
 彼が、笑う。

「ところで、君も、急ぐんじゃないの?」

 そう云われて、彼女ははっとする。

 そうだ。
 宗主の屋敷に急がないと。

 でも。

「怪我は」
「してないよ」

 彼女は首を傾げる。

「じゃあ。また会えたら、お名まえを教えてください」
 彼女は、そう云う。
 頭を下げる。

「気を付けてね」

 彼女は、歩き出す。

 この道の先の向こう。
 東一族の宗主の屋敷へ。



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