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「天院と小夜子」7

2014年11月07日 | T.B.2017年

 少し昔の、

 鍛錬の途中。

 幼い彼は、木を見る。
 木の上に、花が咲いている。

 彼は、手を止めて、それを見る。

「おい、聞いているのか」

 かけられた声に驚いて、彼は振り返る。
「よそ見をするな」
 そこに、彼の父親がいる。
「ごめんなさい」
 彼の父親が云う。
「お前、試合ははじめてだったな」
「はい」
「今から行う試合。お前は従弟とだ」
「はい」

 彼が云う。

「精一杯頑張ります」

「いや」
 父親が云う。
「絶対に勝つな」
「え?」
「もう一度、云う」
 父親は、冷たい目で彼を見る。
「お前は、東一族の中で、誰に勝つこともない」
 彼は戸惑う。
 が
 父親は、彼に背を向け、歩き出す。
「でも、父さん」

 自分には、自信がある。
 少なくとも、相手の一方的な試合にならないはず。

 なのに?

 父親は、立ち止まらない。
 年長者の席に向かい、坐る。

 彼は、遠目で父親を見る。
 そして、横を見る。

 同い年の従弟がいる。

 従弟は彼を一瞥し、云う。
「お前、どれぐらい鍛錬したんだ?」
「どれぐらいって」
 彼は、考える。
「君と同じくらい?」
「ふうん」
 従弟が云う。
「俺とお前、どっちが勝つと思う?」
「それは、……」
 彼が云う。
「やってみないと判らないよ」

 ――絶対に勝つな、だって?

 自分には力がある。
 それを、父さんに見せたい。

 彼は、

 父親の言葉を守らず、

 従弟に勝つ。

 従弟を、打ち負かす。

「お前……」

 鍛錬のあと、父親は彼を呼ぶ。
「従わなかったな」
「……父さん」
 彼が云う。
「でも、見てくれた?」

 彼は、笑顔だ。

 父親は彼を見る。
 冷たい目。

「来い」
「え?」
 父親が歩き出す。
 彼は、父親に続く。

 やがて、屋敷内の、旧びた建物にたどり着く。

 誰もいない。

 父親は、扉を開ける。
 彼に、中に入るよう促す。

「東一族の宗主は、長男による絶対世襲だ」
 父親が云う。
「故に、余計な内部争いが起きないよう、呪術が存在する」
「呪術?」

 突然の話に、彼は戸惑う。

「家督が近い長男以外の者に、呪術をかける」
 そう云うと、父親は、自身の袖をまくる。

 そこに

 呪術の痕。

 彼は首を振る。

 まさか、

「……父さん」

 これを今から自分、に?

「お前が従わなかった、罰だ」
 彼の額から、汗が流れる。
「云うことに従え」

 彼の父親が、云う。

「お前はそもそも、存在しない人間だったのだから」



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