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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「規子と希と燕」7

2014年11月11日 | T.B.1961年


「いくぞ」

小さく放った希の声に皆が頷く。
白い熊は相変わらずこちらを見たまま動かない。
お互いに相手の出方を伺っている。

山一族が馬の手綱を引き、希・燕の前に立つ。
馬には山一族と規子。
後ろに乗り込んだ規子は静かにボウガンを構え矢の先を熊に向ける。

「全然、引かないわね」

熊の様子に規子は冷や汗をかく。
小さな熊ならば人の姿を見たり、攻撃の意志を見せれば逃げ出す物が多い。
「……俺たちの一族では」
山一族が言う。
「熊は……特に白い熊は神の使いと言われている」
「使い」
この状況では嫌な例えだ、と規子は思う。
「そりゃあ、おっかない」
ふと、会話に燕が入ってくる。
「―――出来た」
狩った獲物を運ぶ準備を整えた希、燕が2人を見上げる。
規子も思わず息をのむ。
「無事で」
「そっちもな」
それから、規子達は前を
希達は後ろを振り向く。

「走れ!!」

誰の物ともとれない声に
獲物を抱えた希と燕が走り出す。

と、背中を見せた希達に反応して
白い熊が走り出す。
ぐんっと大きな巨体が迫ってくる様子に規子は思わず身を震わせる。

早い。

「―――っ!!」

それでも、と放った矢はわずかに逸れ
近くの木に当たる。
「くっ!!」
山一族が馬の手綱を引き熊をかわす。

次の瞬間、それは規子達の横を通り過ぎる。
嫌な感覚だと規子は思う。
一瞬でも違っていたら今どうなっていたのか。

適わない獲物を相手にするのは
恐ろしいことだ。

でも、通り過ぎた熊がそのまま向かって行くのは
希と燕達の方向だ。

「待ちなさい!!」
規子は再びボウガンを構える。

「あんたの相手はこっちよ!!!」

規子が引き金を引く。

熊がうなり声を上げて立ち止まる。
規子が放った矢が後ろ足に当たっている。

「上手いもんだ」
山一族が言う。
「さて」
うなり続けたまま白い熊は規子と山一族の方に向き直る。
山一族は馬をなだめながらしっかりつかまれと規子に言う。

「次はこっちだぞ」

獲物を無事に持ち帰るため、
希と燕は獲物を運ぶ役割を請け負った。
ひたすら走り安全な所まで逃げる。

規子と山一族は2人を安全に逃すため
おとり、の役になる。
山一族の馬があったからそこ出来たことだ。

「頼んだわよ」
あぁ、と山一族は頷く。

「揺れるぞ、落ちるなよ!!」


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