燕の所に、山一族から花嫁が来る。
西一族と山一族の協定を確かな物にするために。
「燕……、いつ」
燕にはすでに話があっていたのだろう。
だが、そんなそぶりは少しも見せなかった。
「うん、いつだったかな。
一ヶ月前ぐらい」
「そんなに」
どうして気がつかなかったのだろう、と
規子は言葉を詰まらせる。
「相手の人はどんな人?」
「分からない、会ったこと無いから」
「名前や歳は?」
「さぁ、村長は知っているんじゃないのかな」
それは、犠牲じゃないかと規子は思う。
燕も相手の花嫁も。
お互いのことは何も知らされず、
ただ、村のために。
それでも、燕は言っていた。
自分の事は色々考えていると。
「燕、は、誰か好きな人いないの」
それならば、つらいのではないだろうか、
そう思って規子は口を開くが、燕が驚いた顔で振り返る。
「……えぇえ。
それ!!規子が聞くかな!!」
「―――大変だなお前」
2人の会話を黙って聞いていた山一族が
たまりかねて口を挟む。
「何よ、二人して」
「いいのいいの。
それでこそ規子だなーって感じ」
燕の言葉に山一族も笑う。
「燕と言ったか、お前、変わったやつだな」
「……よく言われる」
そのまま山一族は燕をのぞき込む。
「お前のその瞳は混ざり物か?」
西一族にも山一族にもあるはずのない。
敵対する東一族の色。
「血が混ざっている訳じゃないんだ。
でも、俺だけこんな色」
「ふぅん、つまり、
やっかい払いついでに、
変わり者に押しつけたって事か」
「ちょっと!!」
声を上げかけた規子を制して、
山一族は続ける。
「でも、お前なら
安心できそうだ」
どこか満足そうに言い、山一族は燕に頭を下げる。
「嫁ぐのは俺の妹だ。よろしく頼む」
そうか、と燕は笑う。
「大事にするよ、約束する」
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