成院(せいいん)は森を抜ける。
西一族の村は、北一族の村から案外近い。
正式な道を辿ればもっと早いのかも知れない。
狩りの一族というから、物々しい所を想像していたが
血の匂いがするわけでもない。
小さいけれども畑も点々とある。
思っていたよりも静かな所だった。
人の姿は見えない。
それでも成院は茂みに身を隠す。
成院は東一族で
敵対する西一族に見つかったら、どうなるかは分からない。
「動くなら、暗くなってから」
上手くいく保証は何も無いが
夜になれば少しは動きやすくなるだろう。
「……喉が渇いたな」
日が落ちるまで、まだ時間はかかる。
成院は水辺に降りる。
村の外れなのだろう、一軒だけぽつりと家がある。
そこから成院の場所は見えにくいだろうが、
気をつけるに越したことはない。
家がある方に注意を向けながら手早く水を飲む。
そのまま水辺を立ち去ろうとして
成院は動きを止める。
住人が窓から顔を出したからだ。
幸い成院には気付いていない。
けれども、成院は動けない。
見えたのは、黒い髪に、瞳。
西一族とは違う、成院と同じ東一族の特徴。
「……どうして、ここに」
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