誠治と悠也は、風上で倒れた獲物に、とどめを刺そうと、道具をとる。
紅葉も、そこへ戻ってくる。
「紅葉、こっちのとどめを先に刺してから、二匹目だ!」
「わかった!」
涼は、走る。
岩陰に入る。
獲物が追いつく前に、岩によじ登る。
岩を飛び、獲物から、離れる。
獲物は、涼を見失い、吠える。
涼は、岩を飛びながら、刀を抜く。
獲物の背後へ回る。
岩の隙間にいる獲物をめがけて、涼は、一気に岩から飛び降りる。
そのまま獲物の背中に、刀を差す。
獲物は、驚き、大きな悲痛の声を上げる。
涼は、獲物の背中に乗ったまま。
大量の返り血を浴びる。
獲物は暴れる。
吠える。
そして、
倒れる。
涼は、河原に投げ出される。
が、
すぐに起きあがり、もうひとつの刀を抜く。
獲物を見る。
獲物は、ぴくりとも動かない。
傷口から、血が溢れている。
しばらく、涼は、刀を抜いたまま、獲物を見つめる。
「あいつばっかり、……行くぞ!」
とどめを刺した誠治が、悠也に合図する。
ふたりは、涼の元へ走り出そうとする。
「待って!」
一緒にいた紅葉が、声を上げる。
「まだ、こっち生きてる!」
「え?」
突然、一匹目の熊が立ち上がる。
大きく腕を上げ、身体を振る。
思わぬことに、誰も動けない。
悠也が倒れる。
獲物が、腕を振り下ろしている。
悠也の腕から、血が流れる。
「悠也!」
「待て!」
悠也に駆け寄ろうとした紅葉に、遠くから涼が叫ぶ。
獲物はまだ、悠也に狙いを定めている。
涼が走り出そうとする。
けれども、涼の背中に、痛みが走る。
走れない。
間に合わない。
ならば。
「やめろ!」
誠治が、涼に向かって云う。
涼が、弓を構えている。
「俺たちがいるんだぞ!」
獲物は、もう片方の腕を振り下ろそうとする。
「紅葉!」
誠治は、紅葉を掴む。
そのまま、紅葉を引っ張り、獲物から離す。
紅葉をかばうように、誠治は伏せる。
ダメだ、と、目をつぶる。
獲物が吠える。
血の臭い。
雨。
誰も、
何も、動かない。
おそるおそる、
誠治は、目を開く。
顔を上げる。
雨が、顔に当たる。
と
誠治の目の前に
獲物が、大きな身体で、立ちふさがっている。
「っっ!」
その、身体をうねらせ、獲物は倒れる。
涼が放った矢が、獲物の頭を貫いている。
「……助かった、のか」
誠治は、肩で息をし、倒れた獲物を見る。
そして
「紅葉?」
紅葉は、顔を上げる。
「……大丈夫」
紅葉も、倒れた獲物を見る。
「お前っ」
誠治が、やってきた涼を見て、声を荒げる。
立ち上がる。
「俺らがいる方向に、なんで矢を放った!」
「誠治!」
紅葉は、慌てて、誠治を止めようとする。
誠治は、涼に掴みかかる。
「間違えれば、俺らに当たっていたんだぞ!」
涼は、誠治を見る。
が
その視線は、定まらない。
「やめて!」
誠治は、涼を殴る。
「ねえ! やめて!」
四人に、雨が、降り付ける。
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