TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と涼」5

2014年05月02日 | T.B.2019年

 誠治と悠也は、風上で倒れた獲物に、とどめを刺そうと、道具をとる。
 紅葉も、そこへ戻ってくる。

「紅葉、こっちのとどめを先に刺してから、二匹目だ!」
「わかった!」

 涼は、走る。

 岩陰に入る。
 獲物が追いつく前に、岩によじ登る。
 岩を飛び、獲物から、離れる。

 獲物は、涼を見失い、吠える。

 涼は、岩を飛びながら、刀を抜く。
 獲物の背後へ回る。

 岩の隙間にいる獲物をめがけて、涼は、一気に岩から飛び降りる。
 そのまま獲物の背中に、刀を差す。

 獲物は、驚き、大きな悲痛の声を上げる。

 涼は、獲物の背中に乗ったまま。
 大量の返り血を浴びる。

 獲物は暴れる。
 吠える。

 そして、

 倒れる。

 涼は、河原に投げ出される。
 が、
 すぐに起きあがり、もうひとつの刀を抜く。
 獲物を見る。

 獲物は、ぴくりとも動かない。
 傷口から、血が溢れている。

 しばらく、涼は、刀を抜いたまま、獲物を見つめる。

「あいつばっかり、……行くぞ!」
 とどめを刺した誠治が、悠也に合図する。
 ふたりは、涼の元へ走り出そうとする。

「待って!」

 一緒にいた紅葉が、声を上げる。
「まだ、こっち生きてる!」
「え?」

 突然、一匹目の熊が立ち上がる。

 大きく腕を上げ、身体を振る。

 思わぬことに、誰も動けない。

 悠也が倒れる。

 獲物が、腕を振り下ろしている。
 悠也の腕から、血が流れる。

「悠也!」
「待て!」

 悠也に駆け寄ろうとした紅葉に、遠くから涼が叫ぶ。
 獲物はまだ、悠也に狙いを定めている。

 涼が走り出そうとする。
 けれども、涼の背中に、痛みが走る。

 走れない。

 間に合わない。

 ならば。

「やめろ!」
 誠治が、涼に向かって云う。
 涼が、弓を構えている。
「俺たちがいるんだぞ!」

 獲物は、もう片方の腕を振り下ろそうとする。

「紅葉!」
 誠治は、紅葉を掴む。
 そのまま、紅葉を引っ張り、獲物から離す。

 紅葉をかばうように、誠治は伏せる。
 ダメだ、と、目をつぶる。

 獲物が吠える。

 血の臭い。

 雨。

 誰も、
 何も、動かない。

 おそるおそる、

 誠治は、目を開く。
 顔を上げる。

 雨が、顔に当たる。

 と

 誠治の目の前に
 獲物が、大きな身体で、立ちふさがっている。

「っっ!」

 その、身体をうねらせ、獲物は倒れる。

 涼が放った矢が、獲物の頭を貫いている。

「……助かった、のか」
 誠治は、肩で息をし、倒れた獲物を見る。
 そして
「紅葉?」
 紅葉は、顔を上げる。
「……大丈夫」
 紅葉も、倒れた獲物を見る。
「お前っ」
 誠治が、やってきた涼を見て、声を荒げる。
 立ち上がる。
「俺らがいる方向に、なんで矢を放った!」
「誠治!」
 紅葉は、慌てて、誠治を止めようとする。
 誠治は、涼に掴みかかる。
「間違えれば、俺らに当たっていたんだぞ!」

 涼は、誠治を見る。
 が
 その視線は、定まらない。

「やめて!」

 誠治は、涼を殴る。

「ねえ! やめて!」

 四人に、雨が、降り付ける。


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