村の集会所には、村長がいる。
誠治。
紅葉。
それから、村長の補佐役。
彼は、紅葉の父親に当たる。
悠也はいない。
代わりに、悠也の父親がいる。
悠也の父親が、部屋に入ってきた涼を見て、云う。
「こいつと、狩りは、別の班にさせてくれ!」
「うちもだ!」
補佐役も続く。
「待て」
村長が云う。
「順番に話を聞く。……まず、は」
村長が、誠治を見る。
「狩りは、どこへ行ってきたんだ?」
「はい。それは」
紅葉が地図を広げ、代わりに答える。
「この、……山間の川です」
「よりによって……」
村長がため息をつく。
「怪我人がよく出るところ……」
「なぜ、わざわざ危険なところに!」
悠也の父親が、声を荒げる。
「誰だ、この場所を選んだのは! お前か!?」
悠也の父親は、涼を見ている。
涼は、何も云わない。
誠治も紅葉も、何も云わない。
「お前なんだろ?」
悠也の父親が、手を上げそうになるのを、村長が止める。
「待て!」
村長が、涼を見る。
「涼、お前が、この場所を選んだのか?」
涼が頷く。
「じゃあ、お前の責任だ!」
「やめろ!」
村長が云う。
「班長は誠治だ。班長の責任も問われる」
「……ああ」
誠治はうなだれる。
「悠也の怪我はどういう状況で? 獲物にやられたと、本人も云っていたが」
改めて、村長が訊く。
「どういう判断があったんだ、誠治」
うつむいていた誠治が、口を開く。
「獲物が二匹、同時に出て……」
紅葉が云う。
「仕留めたと思った一匹が、まだ生きていて、……油断したの」
「そうか」
「それで、こいつが……」
誠治が、涼を指差す。
「俺らがいるのに、矢を放ってきたんだ」
「なんだって!」
再度、悠也の父親が声を荒げる。
「一歩間違ってたら、三人に当たっていたかもしれない!」
「何を考えてる、お前!」
補佐役が、涼を掴む。
「だから、落ち着けと!」
村長は、補佐役を見る。
「その手を離してやれ」
補佐役は、村長を見る。
舌打ちし、涼を掴んでいる手を、離す。
村長は、ため息をつく。
「涼」
村長が、云う。
「誠治の云っていることは、本当か?」
涼は、この部屋にいる全員を見る。
けれども、誰とも、目が合わない。
「……本当だ」
「この、黒髪め」
悠也の父親は、目を細める。
「いくら、村長びいきだろうと、相応の罰が必要ですな」
悠也の父親は、村長を見る。
「ですよな、村長!」
村長は、涼を見る。
「それは、涼でなくても、どの村人でも罰が適用される」
云う。
「……謹慎、か」
「いや」
補佐役が声を上げる。
「謹慎では、村人は納得できません」
「納得?」
村長が、補佐役を見る。云う。
「この場合は、謹慎が相応だ」
「相応ではない!」
「過去の事例から見ても、」
「納得いかないのは、こいつが、黒髪だから」
村長の言葉をさえぎり、悠也の父親が云う。
張り詰めた空気。
村長は、息を吐く。
「じゃあ、なんだ?」
「東に諜報員として、行ってもらうのはどうでしょう」
悠也の父親の言葉に、誠治と紅葉は、目を見開く。
涼は、目を細める。
「その容姿だ。格好の仕事ではないですか!」
「何を云う!」
村長は、声を上げる。
「その年で危険すぎる!」
実質、殺されに行くようなもんだ、と。
「仕方ない。罰ですから」
補佐役が云う。
「いい情報を、持ち帰ってきてもらいましょう」
「彼には、常々そんな噂がありましたからな!」
村長は、顔をしかめる。
お構いなしに、悠也の父親と補佐役は、部屋をあとにする。
村長はため息をつき、誠治と紅葉を見る。
「出て行ってくれないか」
誠治と紅葉は、顔を見合わせる。
「ふたりで、話をさせてくれ」
紅葉は、涼を見る。
涼は、顔色ひとつ、変えていない。
「紅葉、行こう」
誠治に促され、紅葉は、部屋を出る。
集会所を出て、誠治が云う。
「厄介者払いだな」
「誠治……、ひどい」
紅葉は、涙声で云う。
「涼は、私たちを守ろうと、矢を打ってくれたのよ」
「獲物に当たったのは、偶然だろ」
「そんなこと……。ない」
紅葉が云う。
「悠也の怪我だって、涼が上手いこと応急処置してくれたから……」
誠治が、云う。
「悠也の様子、見に行こうぜ」
紅葉はうつむく
首を振る。
「……私、涼を待ってる」
NEXT