TOBA-BLOG 別館

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「成院と戒院」5

2014年05月06日 | T.B.1999年

成院は村を出る。
村人と談笑して、
少しの間出かけてくると、北一族の村へと向かう。

怪しまれないように、あえてそうしろ、と
医師は教えた。

薬を探しに行くため、とは言え
それだけ聞けば西一族に忍び込む、諜報員のようだ。
医者はその姿を病院の窓から見送る。

「……嘘つきは、誰だろうな」

成院は東一族宗主の分家の人間だが、
そんな彼でも知らないことがある。

伝染病の原因も、西一族の治療薬の可能性も、
医師は本当の事を伝えた。
ただ、その伝染病に関して、一つだけ明かしていない事。

知っているのは宗主と、宗主に連なる者数人。
そして、医師だけ。

村を襲った伝染病は恐ろしい病だ。
今まで亡くなった人の中には、確かに病で息を引き取った者も居た。
でも、そうでない者もいる。

これ以上、病を広げないための手段。
最高で最低の手段。

感染者を殺してしまう事。

宗主に助言をして
そのため薬を作ったのは医師だ。

診察室の扉の向こう。
廊下の奥の病室には成院の弟が眠っている。
成院が間に合わなければ、医師はその薬を使わなくてはいけない。
あるいは、
成院が西一族の地で、命を落とすかも知れない。

それでも、と医師は思う。

「最後に助かる命は、
 2つであればいいと、思っているよ」
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