成院は村を出る。
村人と談笑して、
少しの間出かけてくると、北一族の村へと向かう。
怪しまれないように、あえてそうしろ、と
医師は教えた。
薬を探しに行くため、とは言え
それだけ聞けば西一族に忍び込む、諜報員のようだ。
医者はその姿を病院の窓から見送る。
「……嘘つきは、誰だろうな」
成院は東一族宗主の分家の人間だが、
そんな彼でも知らないことがある。
伝染病の原因も、西一族の治療薬の可能性も、
医師は本当の事を伝えた。
ただ、その伝染病に関して、一つだけ明かしていない事。
知っているのは宗主と、宗主に連なる者数人。
そして、医師だけ。
村を襲った伝染病は恐ろしい病だ。
今まで亡くなった人の中には、確かに病で息を引き取った者も居た。
でも、そうでない者もいる。
これ以上、病を広げないための手段。
最高で最低の手段。
感染者を殺してしまう事。
宗主に助言をして
そのため薬を作ったのは医師だ。
診察室の扉の向こう。
廊下の奥の病室には成院の弟が眠っている。
成院が間に合わなければ、医師はその薬を使わなくてはいけない。
あるいは、
成院が西一族の地で、命を落とすかも知れない。
それでも、と医師は思う。
「最後に助かる命は、
2つであればいいと、思っているよ」