天然居士のとっておきの話

実生活には役に立たないけど、知っていると人生が豊かになるような話を綴りたいと思います。

男なら

2018-06-26 | Weblog
 山口県に「男なら」と民謡があるのはご存知の方も多いかと思います。
 歌詞は下記の通りです。

  男なら お槍担いで お中間となって 付いて行きたや下関
  国の大事と聞くからは 女ながらも武士の妻
  まさかの時には締め襷 神功皇后の雄々しき姿が 鑑じゃないかな
  オーシャリシャリ

  女なら 京の祗園か長門の萩よ 目もと千両で鈴をはる
  と云うて国に事あらば 島田くずして若衆髷
  紋付袴に身をやつし 神功皇后のはちまき姿が 鑑じゃないかな
  オーシャリシャリ

  男なら 三千世界の鳥を殺し 主と朝寝がしてみたい
  酔えば美人の膝枕 醒めりゃ天下を手で握り 咲かす長州桜花
  高杉晋作は男の男よ 傑いじゃないかな
  オーシャリシャリ

 幕末の長州藩では尊皇攘夷運動が高まり、
 それを受けて1863年(文久3年)には朝廷より攘夷令が出され、
 藩士の多くが外国船攻撃のために下関に集結しました。
 一方、萩で留守を守る藩士の妻や子供たちも、
 外国船の報復攻撃に対抗するため、
 萩の菊ヶ浜沿いの海岸に女台場(おなごだいば)という土塁を築き、
 現在でもその遺構の一部が残っています。

 この民謡の「男なら」はその女台場を築く際工事に携わった、
 長州藩士や奇兵隊をはじめとする諸隊士の妻や子供たちによって
 謡われたとされています。
 最後の「オーシャーリシャーリ」との囃子言葉は、
 おっしゃるとおり、という意味との事です。
 地元でも一部の伝承者を除いて長らく忘れられていましたが、
 1936年(昭和11年)に音丸のレコードがヒットして
 広く知られるようになりました。

 ただし、3番の歌詞は、1・2番とだいぶ雰囲気が違いますので、
 高杉晋作が作ったとされる都都逸の文句を入れて、
 後代に付け加えられたのかも知れません。

 その高杉晋作ですが、萩の留守を守るマサ夫人宛の手紙の中で、
 「余りよろしき事にもこれなく候間、そもじには御出でござ無き方よろしくと
  存じまいらせ候」と書いて、この作業に加わらないように伝えています。
 長州藩では、この工事に出る夫人たちの意識を鼓舞するため、
 それまで厳禁してきた絹類の着用を工事参加の時に限り許可します。
 絹の着物で工事が出来るのか、少し気にはなりますが。
 戸外に出る事が少なかった武家の夫人たちは、
 禁じられていた絹の着物姿で出掛けられる訳ですから、
 尊王攘夷とは全く関係なしに多くの人が集まりました。
 解放感に浸った女性たちは、互いの着物を競うようになります。
 これが過熱してしまったようで、
 長州藩では、絹類着用は持ち合わせのものならば良いが、
 新たに誂えることは不心得であるとの通知を出しています。
 高杉晋作は、この事情を知っていたので、夫人に行くなと指示したようです。

 以上、前に書いた「招魂場」の話と同じように、
 一坂太郎さんの「長州奇兵隊」に載っていた話です。

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2 コメント

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Unknown (井頭山人)
2018-07-15 10:25:20
一坂太郎さんの本は、以前に天然居士さんが引用されていた本を買って読みました。面白ですよね。今回は「長州騎兵隊」ですか。「男なら」なんか演歌にその様な歌も有った様な気がしますが、民謡なのですね。
三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい。(長州萩の烏は、早朝から騒いで居たのでしょうか?、我が家の森でも、春先にはカラスがうるさくて眠れませんでした。あのガア、ガア声で、一時間近くも騒がれては寝不足に成って仕舞います。それが2週間も騒がれては、いい加減忍耐が切れます)
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有難うございました (天然居士)
2018-07-29 18:38:58
井頭山人さん コメント有難うございました。

一坂さんの本をお買いになりましたか。
まだ若い学者ですが、実証的に物事を述べているので、何度か目から鱗が落ちる思いをさせてもらっています。

「男なら男なら未練残すな・・・」と歌うのは演歌で、民謡の「男なら」とは別な曲です。

三千世界の烏ですが、
遊女が誓詞を書いた熊野神社の使いとしての烏のようです。
誓詞を破ると、1羽の烏が死ぬと言われているとの事です。

朝から烏に騒がれては大変ですね。
何か駆逐する方法があると良いですね。
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