天然居士のとっておきの話

実生活には役に立たないけど、知っていると人生が豊かになるような話を綴りたいと思います。

日本一美しい古墳

2022-11-29 | Weblog
 僕は、高校時代に、
 栃木県立図書館が主催した考古学関係の講座を受講した事があります。
 その時の講師はO先生と言う新進気鋭の考古学者でした。
 その後O先生は栃木県を去りましたが、
 年配の栃木県内の考古学者の間ではその名が語り継がれています。

 多くの事を教わり、今でも記憶している事が沢山ありますが、
 その中の1つに、旧湯津上村(現大田原市)にある下侍塚古墳は、
 日本一美しい古墳と言われているとの話がありました。
 誰が日本一美しいと言ったのかはO先生から教わった記憶がなく、
 一般に言われている事なのかと思っていました。

 先日、大田原市なす風土記湯津上資料館で行われた、
 「日本考古学発祥の地」との企画展を観に行き、
 そこで、「日本一美しい」と言ったのが、
 日本の代表的な考古学者であり、古墳研究の権威であった
 元同志社大学の名誉教授の森浩一が、その著書で述べている事を知りました。
 1965年(昭和40年)発刊の中公新書「古墳の発掘」で述べられていました。
 森浩一は、1955年(昭和30年)に湯津上村に来ていますが、
 その時の様子を次のように述べています。
 「私はこれまで天皇陵をも含めて多くの古墳を見てきたが、
  その中で一番美しい古墳を選べと言われたら即座に下侍塚と答えよう。
  上侍塚もよく保護されているが、
  付近の人たちによって毎年下草が刈り込まれている下侍塚こそ、
  日本の古墳の白眉である。
  光圀の配慮はこんにちにも継承されている。」

 下侍塚古墳は、徳川光圀が、古墳の発掘調査を命じたことで有名です。
 当時の湯津上村など八溝地域は水戸藩領でした。
 地元の庄屋から、那須国造碑の存在が報告され、
 光圀は、碑を那須国造の墓ではないかと考え、
 1687年(貞享4年)に佐々宗淳に調査を命じました。
 佐々は1692年(元禄5年)、碑の近くにあり、
 那須国造のものと伝承される侍塚(上侍塚古墳と下侍塚古墳)を発掘して、
 鏡、甲冑、石釧、管玉などを見つけましたが、
 埋葬者を明記した墓誌などはなく、
 光圀は出土品を松の箱に収めて埋め戻させています。
 更に小松を数十本植えさせて、墳丘の維持保全を命じていますが、
 それが現在にも継承されて来ています。

 現在、下侍塚古墳と上侍塚古墳の発掘調査が行われています。
 まだ光圀が埋めたとされる遺物は見付かっていませんが、
 日本考古学発祥の地としての碑も立てられ、
 文化財を活用した地域振興を図ろうとしています。
 その中で、「日本一美しい古墳」は大きな力になると思います。
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和歌と俳句の始まり

2022-11-10 | Weblog
 和歌は、古事記や日本書紀に載っている、
 素盞嗚尊が詠んだ下記の歌が始まりとの伝説があります。
 やくもたつ いづもやへがき つまごみに やへがきつくる そのやへがきを
 古今集の仮名序には、
 「人の世となりて、素盞嗚尊よりぞ、三十文字あまり一文字は詠みける。」とあり、
 仮名序を書いたとされる紀貫之や当時の人々の認識はそんな感じだったのでしょう。

 これに対して、和歌は中国からもたらされたとの話があります。
 「論語」の顔淵第十二に
 「司馬牛憂曰、人皆有兄弟。我独亡。」と言う話が出ています。
 読み下し文は、
 「司馬牛が 憂えて曰く 人はみな 兄弟あれど 我独りなし」
 きちんと五七五七七になっています。

 俳句も中国からもたらされたもので、
 「春秋左氏伝」巻一の冒頭
 「夏五月 鄭伯 段に 鄢に克つ」が始まりとの話があります。
 鄢は地名で、鄭伯が、段に鄢で勝ったとの意味です。
 こちらは夏五月との季語も入っています。

 この話、桜痴居士福地源一郎の父親苟庵(こうあん)が若い頃、
 ある日催された詩会の席で
 和歌の始まりを得意がって披露したようです。
 苟庵は晩年は長崎で逼塞してしまいましたが、
 若い頃は才気煥発で漢学にも造詣が深く江戸や大阪で遊学していました。
 ところが、その席に、頼山陽が居合わせていました。
 山陽も才気と山気では相当な人物です。
 苟庵の稚気に反撃に出たのが、俳句の起源説でした。
 これには苟庵も天狗の鼻をへし折られた形だったようです。

 福地源一郎は晩年、父親の自慢話をするのが癖だったようで、
 この話もその中の一つだったとの事です。

 もちろん、和歌も俳句もそのような起源ではありません。

コメント (2)
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