AKB48 チームBのファンより

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坂倉昇平著『AKB48とブラック企業』(イースト新書)。(ときめき研究家)

2014-03-19 14:00:00 | ときめき研究家
本屋でたまたま見かけて購入したが、かなり面白かった。
著者は30歳の若手学者。労働問題が専門でNPO法人の理事を務めている。
AKB48はまさに「ブラック企業」であり、現代日本の労働問題の縮図となっているという論調で、いささか我田引水的ではあるが、1つのユニークな見方として的を射ている。
特に面白かったのが、AKBグループの楽曲に注目し、その歌詞に込められた労働問題を解き明かしている点だ。私も歌詞に注目して聴くタイプなので、興味を引いた。

日本企業のサラリーマンが曖昧な基準による過酷な競争に駆り立てられているのと同様、AKBグループのメンバーも人気という曖昧な基準による過酷な競争にさらされている。ブラック企業で体を壊しながらも働き続ける若者と、AKBメンバーは確かに重なり合う。映画のタイトルのように「傷つきながら夢を見る」ことが推奨されているのだ。

『チャンスの順番』『永遠プレッシャー』『そこで何を考えるか』は、競争にさらされる不安を抱くメンバーに対して、夢の実現には努力をしながらチャンスを待つことが必要だという「啓発のメッセージ」であり、ファンに対しては「美化された物語」に仕立てられている。

更に『おまたせset list』『理不尽ボール』は、メンバーの不満そのものを取り込んだ上で、感動的な物語として回収してしまっている。著者は、それを「茶番」という声は当然あるだろうと書いているが、私もそう思う。しかし、これらの曲を、メンバーや多くのファンが受け入れたことで、不条理な運命と傷に立ち向かう「労働歌」となったと説くのだ。

一方、ベテランメンバーに対する「世代交代」圧力は、企業の『追い出し部屋』同様だと説く。『Overtake』や『右へ曲がれ!』は後輩に道を譲る歌だし、『NEW SHIP』や『Waiting room』は下の世代から突き上げる歌である。これに第2回組閣後の「スタベン制度」が相俟って、自主的な「卒業」を促したと説く。

恋愛禁止については、峯岸丸刈り事件の経緯を振り返った後、『清純フィロソフィー』で彼女は「許され」た、歌詞を通じて恋愛禁止ルールは「自己責任」と修正されたと説く。
最後に、『恋するフォーチュンクッキー』は、「仕事がキビシク、イマイチなニュースばかりでも、クヨクヨしないで踊ろう!」というDJの呼びかけから始まるMVで、多くの労働者の参加型ダンスパフォーマンスを産み出した新たな「労働歌」だったと結論づけている。

いつも書いているが、AKBグループ自身のことを歌っていて普遍性がない「自己言及ソング」(「楽屋落ち」)を、私はあまり好きではない。普通のティーンエイジャーの心情を描いた曲の方が好きなのだ。しかし著者は「自己言及ソング」こそがAKBグループの真髄、醍醐味だと言うのだろう。また、多くのファンもそう思っているようだ。だからこそ、秋元康はますますそういう歌ばかり書くようになる。

しかし、秋元康が書いている限り、資本家が書く「労働歌」であり、マッチポンプ、自作自演、茶番に過ぎないのではないか。それなのに、その茶番に時として感動している私は一体何なのだろう。そんなことを思った。
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