新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

マンハッタンを歩こう

2020年08月09日 | 日記

 ニューヨークシティー、マンハッタンを歩いている。
 1983年3月20日日曜午後、スティーブ・ジョブズはカーライルホテルに宿泊していた。当時、猛烈にほしがっていた人材ジョン・スカリーに会うためだった。過去4か月、すでに何度か顔を合わせており、二人はともに相手の頭脳を尊敬し、信頼し合っていたが、ペプシのマーケティング責任者スカリーはアップルに移籍する決心をしかねていた。
 カーライルホテルは、西にセントラルパーク、東にニューヨーク一の高級住宅街パークアベニューをひかえる79番街にある。スカリーは車を76番街の駐車場に入れ、2ブロック歩いてジョブズを迎えた。午後1時半、散歩をはじめる。ホテルを出るとすぐに見知らぬ人が「横にいるのはスティーブ・ジョブズさんですか」と尋ねてくる。マディソンストリートを横切るとまた、若者がジョブズにあいさつしていた。スカリーには超有名人と歩いている実感があった。
 セントラルパークに入る。北へ行くとメトロポリタン美術館があった。階段を上がり、ガラスのドアを抜け、左へ曲がるとギリシャ、ローマの彫刻群が現れる。ジョブズは紀元前4、5世紀のペリクレス朝時代の彫刻に魅せられた。美術館を出て南へ下ると不思議の国のアリス像が見えてくる。そのまま南へ下る。セントラルパークの南西端からブロードウェイが始まる。他のまっすぐな道路の間をぬってゆるやかにカーブする道路だ。ブロードウェイを南下して49番街にあるコロニーレコードへ立ち寄る。ジョブズはボブ・ディラン、ジョーン・バエズやジャズのレコードを指でくっている。その後ブロードウェイを北へ戻り、セントラルパークの西側をさらに北へ行く。75番街にダコタハウスがある。すぐ東はセントラルパークだ。ジョン・レノンが暗殺された場所として一躍有名になった。数ブロック北にサンレモがある。ここのペントハウス(最上階のベランダ付きの部屋)をジョブズが購入しようと考えていた。眺めは抜群によい。西側にはハドソン川が流れ、その向こうにはニュージャージー州が広がる。ハドソン川の下流には自由の女神像が鎮座するし、上流にはジョージワシントン橋がかかり、橋から車でまっすぐ走るとラガーディア空港へつながる。東はもちろんセントラルパークだ。サンレモからまたセントラルパークを横切ってカーライルホテルに戻った。4時半だった。
 3時間歩きながら、さまざまな話をしたあとでも、スカリーはまだアップル入りを表明しない。ジョブズはしばらく目を落としてから、こういった。「このまま一生、砂糖水を売りますか。それとも世界を変えるチャンスをつかみますか」。





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