本を読んでいると、主題から外れたところに興味を奪われることがよくある。マケドニアの国名問題がそうだった。
北マケドニアを正式国名にしたのは、つい最近のことだった。それまでの国名は、なんとThe Former Yugoslav Republic of Macedoniaだった。分かりやすく解説ふうに訳せば、「マケドニア地方の旧ユーゴスラビア領だった部分」ということになる。じつは南に隣接する国ギリシャの北部にマケドニア人が多く居住している。だから旧ユーゴスラビアが崩壊し、マケドニアが独立国になったとき、ギリシャがマケドニア共和国という国名に強硬に反対した。米国はさまざまな理由からギリシャに肩入れした。
おおざっぱにいえば、マケドニアは東をブルガリア、西をアルバニア、南をギリシャに接している。そして民族事情は複雑に絡み合い、互いを憎み合っている。マケドニアの国名に関しては、NATOもブルガリアを迎え入れようとしていた矢先だったので、ブルガリアが毛嫌いするマケドニアを支持することを差し控えた。結局マケドニアは1993年以来ずっと「旧ユーゴスラビア共和国マケドニア」という屈辱的国名を使用することを強いられた。米国のことを「旧イギリス植民地アメリカ」というようなものだ。これが米国の正式な国名なら、鼻っ柱の強いトランプも、すこしはへりくだることがあるかもしれない。
ブルガリアはマケドニア語の存在を認めない。マケドニアの言語はブルガリア語の一方言にすぎないと主張する。しかもa bastardizationだと。つまり正式な家系とは別系統で生まれてきた非嫡出子だというわけだ。これに対抗してマケドニアの首相は、ブルガリアの大統領と会談する際、通訳を介在させることを要望することさえあったという。国家間の泥仕合とはまさにこのようなことをいうのだろう。
米国からマケドニアに赴任したリンゼー・モランが、自宅の庭木の手入れをアルバニア人にやらせていると、「おたくはアルバニア人びいきなんですね」と隣の人にいわれた、と著書「私はCIAのスパイだった」に書いている。外国では人種によほど気を使わないといけない。