ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

菊井、世界王座挑戦へ

2007年05月29日 | その他
前日本スーパー・フライ級王者で、WBC15位にランクされる
菊井徹平が、7月14日、メキシコで世界タイトルに挑戦することが
発表された。チャンピオンは、クリスチャン・ミハレス
川嶋勝重との2戦で、日本にも馴染みのある選手だ。

菊井は前の試合で河野公平に敗れて日本タイトルを失っている。
つまり、再起戦がいきなり世界タイトルマッチになったわけだ。
21勝のうちKO勝ちがわずか4度しかない菊井を、ミハレス陣営が
怖さのない「安全パイ」と見て挑戦者に指名したのだろう。
軽量級のスター選手、ホルヘ・アルセとのビッグマッチを
終えたばかりのミハレスにしてみれば、取り合えず手頃な相手との
防衛戦をこなしておこうという考えなのだと思う。


あのアルセに予想外の大差判定勝ちを収めたことで、ミハレスの
評価は急上昇している。川嶋との初戦の頃はそれほどの選手だとは
思わなかったが、川嶋との再戦、そしてアルセ戦と、ミハレスは
一試合ごとに安定感を増してきている観がある。

そんなミハレスと対戦するのだから、菊井の圧倒的不利という予想は
仕方ないことだ。おまけに敵地というハンディもある。ただ、
菊井ならミハレスと噛み合うのではないか、という期待もないではない。


これは僕の勝手な推測だが、ミハレスは川嶋との連戦で、世界レベルの
ファイターへの対処法を学び、それがアルセ戦での快勝に繋がった
のではないだろうか。初戦ではダウンを奪われた末の僅差判定勝ち、
再戦では終始ペースを握ってTKO勝ち。その経験があったからこそ、
アルセ相手にあれほど見事な試合を披露できたのでは、と思うのだ。

しかし菊井は、川嶋やアルセとはまるでタイプが違う。というより
正反対で、タイプ的にはむしろミハレスに近いテクニシャンなのだ。


もちろん、同じテクニシャンといっても、これまで戦ってきた
相手のレベルが違う。やはり菊井が勝つ可能性はかなり低いと
言わざるを得ないだろう。

ただ、菊井は前回の敗戦で評価を下げているし、失うものは何もない。
自分のボクシングがどこまで通用するか、思い切って試して来れば
いいと思う。少なくともキャリアの面では、菊井にとってこれは
とても大きな財産になるはずだ。健闘を祈りたい。

WBCユース・フライ級TM パノムルンレック・クラティンデーンジムvs久高寛之

2007年05月25日 | 海外試合(その他)
今年4月、日本王座決定戦(暫定)に敗れた久高が、2ヶ月と間をおかず
再起戦に臨んだ。しかもそれはタイのリングで、WBCユース王座に
挑戦するという大舞台だ。

チャンピオンのパノムルンレックは世界ランク1位。ここまでの戦績は
17戦全勝(10KO)。これらの数字だけを見れば、久高にとってかなり
厳しい相手だと思われた。


しかし、久高はよく健闘した。22歳同士、若い2人のボクサーが
お互いの力を存分に出し合う、素晴らしい試合だった。

1ラウンド前半はお互いに様子見という感じだったが、少しづつ打ち合いの
様相を呈してくる。サウスポーのチャンピオンの左ストレートも良かったが、
久高のボディブローもいい。ラウンド終盤には、連打と得意の右カウンターで
攻勢をかける久高。敵地で世界1位の選手を相手にしながら、全く臆する
ことのない堂々とした立ち上がりだ。

2ラウンドにはパノムルンレックもエンジンがかかり始めたのか、
ほぼ五分の展開に戻す。パンチのバリエーションも増えてきた。

3ラウンド、チャンピオンのプレッシャーが強まり、久高が下がる場面が
目立つ。カウンターで迎え撃つのは久高のスタイルの一つではあるが、
前回の日本王座決定戦ではそれが裏目に出て、相手にペースを握られて
しまった。それを思い起こさせる不吉な流れだったが、ラウンド中盤、
久高は自分から打って出る。あんな負け方はもう嫌だという、久高の
意気込みを表すかのようなシーンだった。

4ラウンドも全体的には若干パノムルンレックが優勢に見えたが、決して
久高も一方的にやられていたわけではない。ラウンド終盤には右ストレートを
続けざまに叩き込み、パノムルンレックの動きが止まる場面もあった。

5ラウンドはボディの打ち合いで幕を開け、そのまま激しい接近戦が続いた。
敵地ゆえ、久高がパンチを当てても全く歓声はなく、逆にパノムルンレックの
パンチには、当たろうが当たるまいが観客が一体となって声を上げる。

6ラウンド。久高には疲れが見え、それを感じたチャンピオンが猛攻を
仕掛ける。久高も意地で打ち返して何とか踏みとどまったが、ここは明白な
パノムルンレックのラウンド。

7ラウンド。前のラウンドの流れを見る限り、このまま一気にチャンピオンが
押し切る可能性も考えられたが、ここから久高が奮起。それまでの接近戦から
一転、足を使ってリズムを立て直し、パンチにもキレが戻ってきた。

8ラウンドにはアウトボクシングから再び接近戦へと展開を変えたが、
いずれの局面でも、久高は一歩も譲ることがなかった。6ラウンドの
ピンチを思えば、それは驚異的とも思えた。

9ラウンド。パノムルンレックもさすがに疲れて手数が減り、タイ人の
歓声が上がる機会も少なくなっている。ひたすら前進を続けてきた
パノムルンレックが、後退する場面すら出てきた。

10ラウンドには、久高が更にパノムルンレックを攻め立てるが、
チャンピオンも弱気になることなく打ち返す。そしてゴングが鳴り、
試合は判定へ。

4ポイント差が2人、残りの1人は2ポイント差で、ジャッジは
いずれもパノムルンレックを支持。チャンピオンが防衛を果たした。
ラウンドごとにポイントを振り分ければ、それくらいの差になるのも
納得は出来るが、数字ほどの差があった試合ではない。印象的には、
むしろ接戦であったと言ってもいいだろう。


大雑把に言うと、6ラウンドをピークとして前半はパノムルンレックが
徐々に優勢、その後は逆に少しづつ久高が盛り返すという展開だった。

前回の試合では、相手にペースを握られてそのままズルズルとラウンドを
重ねてしまい、「気持ちの弱さ」という課題を露呈した久高だったが、
今回はそれを見事に克服していた。前回とは段違いの内容だったと言える。

敗れはしたものの、弱い相手を簡単に倒して終わるよりも遥かに大きな
収穫を得たに違いない。試合後の久高は、爽やかな笑顔を浮かべていた。

ノンタイトル戦あれこれ

2007年05月24日 | 国内試合(その他)
21日。現日本スーパー・バンタム級王者・下田昭文と、
前王者・山中大輔の両方に勝った男として知られる
「無冠の強豪」瀬藤幹人が、タイ人相手にKO勝ち。
下田が、この瀬藤の挑戦を受けたら注目のカードになるだろう。

同じ興行。先月、日本ランキングが12位までに拡大
されたばかりだが、フェザー級12位の加治木亮太
ノーランカーの鈴木将にいきなり敗北。


翌22日。35歳の世界ランカー・嶋田雄大が、
インドネシア王者にKO勝ち。この2年、嶋田は格下選手
ばかりを相手に戦っている。世界戦のチャンスは果たして
来るのだろうか。

同じリングで、ベテランの日本ランカー阿部元一
ノーランカー上野則之に敗れた。阿部は33歳。嶋田といい
西澤ヨシノリといい、ヨネクラジムの選手は息が長い。


23日。WBA世界フライ級1位の亀田興毅が、
インドネシア選手を相手に4試合ぶりのKO勝ち。
しかし、KOを意識しすぎたのか非常に雑な戦い振りで、
スランプにあるのではないか、とさえ思わせた。

この日の前座では、日本ウェルター級1位の牛若丸あきべぇ
インドネシア人にKO勝ち。浜田剛史氏(元WBC世界
スーパー・ライト級王者)の持つ連続KOの日本記録「15」に
あと1つと迫ったが、胡散臭い相手ばかりなので比較にならない。
ちなみに、次の相手は柏樹宗。4連続KO負け中の選手だ。


24日、元日本フェザー級王者の渡邊一久が、判定勝利で
7か月振りの再起戦を飾った。日本タイトルを奪われた試合では
ラフファイトの末に自滅した観があったが、この日の試合では
反則行為を抑えたという。まだ24歳、充分にやり直しは効くだろう。

WBA&WBO世界ミドル級TM ジャーメイン・テイラーvsコーリー・スピンクス

2007年05月20日 | 海外試合(世界タイトル)
テイラーが、スピンクスの3階級制覇を阻み、統一王座の防衛に成功。
判定は2-1と割れたが、まずは順当なテイラーの勝利だったようだ。

それにしてもこのテイラー、やりにくい相手とばかり戦っているせいで
どうもスカっとした試合を提供できていない。5度の世界戦は全て判定、
しかもその内の一つは引き分け防衛だ。

バーナード・ホプキンスに2連勝、ロナルド・ライトに引き分け、
そしてスピンクスに勝利。名うての試合巧者たちと戦い、未だに無敗
なのだから、その実力の高さは疑いようがない。

それだけに、その実力を広く世間にアピールできていないのが惜しい。
次の防衛戦は、もう少し楽な相手を選んでもいいのではないだろうか。

日本&東洋太平洋Sフェザー級TM 小堀佑介vs村上潤二

2007年05月19日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
字数の関係で書けなかったが、これは正確には「日本スーパー・
フェザー級タイトルマッチ」であると同時に、「東洋太平洋
スーパー・フェザー級王座決定戦」でもある、という試合。
小堀が勝てば、日本王座4度目の防衛とともに東洋王座も獲得。
村上は、勝てば一気に2本のベルトが手に入るわけだ。


そして結果の方は、小堀が4度のダウンを奪い7ラウンドTKO勝ち
しかし、攻防とも雑で、必ずしも快心の出来というわけではなかった。
もともと小堀はガードも低く、攻撃にもラフな面があるが、この日は
村上の巧さもあって、いつも以上に雑さが目立つ試合となった。

初回は、サウスポーの村上のアウトボクシングが冴えた。巧みな
フットワークで小堀を空転させ、シャープな右ジャブをヒットさせる。
しかし続く第2ラウンド、プレッシャーを強めた小堀が素晴らしい
タイミングの右フックでダウンを奪う。そしてすぐに2度目のダウン。
村上はかなり効いている。

もはや勝負あったかと思われたが、KOを意識した小堀の追撃が
雑になったことにも助けられ、ここから村上が踏ん張る。3ラウンド、
再び足を使ってダメージ回復に努めるとともに、ジャブ、右ストレートを
いくつか小堀の顔面に当てた。

同じような展開の第4ラウンドを過ぎ、5ラウンド。小堀がまたしても
ダウンを奪った。左ボディからの右フック。それほど強いパンチでは
なかったが、立ち上がった村上の足元がおぼつかない。フットワークで
上手くごまかしてきたが、ここまでのダメージが尾を引いているのだろう。

6ラウンド。村上の足のスピードが鈍り、小堀に簡単に懐に食い込まれて
しまう。そして7ラウンド。前のラウンド辺りから、足を止めて強い
パンチを打ち込む場面が増えてきた村上。足が鈍ったために開き直ったのか、
あるいはポイント上での劣勢を挽回しようとしたのか。いずれにせよ、
この距離に入ったことは命取りだった。

小堀の右、左、右のフック連打で、村上が頭をロープに打ち付ける痛烈な
ダウン。ここで試合を止めても良かったと思うが、立ち上がった村上を見て、
レフェリーは続行の判断。しかし後は、ただ小堀の連打にさらされるだけの
凄惨な時間となった。ほどなくレフェリーストップ。小堀が、7ラウンド
TKO勝ちで日本王座を防衛するとともに、東洋王座も手に入れた。


終わってみればやはり小堀は強かった、ということになったわけだが、
村上のアウトボクシングに手を焼いた場面もあった。ただ、最初に「雑」と
書いたが、多少の被弾も厭わずに前へ出たからこそ生まれたKO劇でも
あったわけで、小堀にすれば、この雑さは計算の上だったのだろう。

しかし、小堀は上を狙っていくべき選手だ。もし、この日の相手に
もっとバンチ力があったら危なかったかもしれない。出来れば今後は、
攻防ともに正確さを向上していってもらいたいが、それによって
小堀の持ち味である奔放さが失われてしまっては元も子もない。
豪快さと繊細さ、その辺りの兼ね合いは難しいところだ。

小堀のもう一つの美点に、「アジャスト能力」があると言われている。
試合をしながら相手に適応し、徐々にペースを握っていく能力だ。
確かにこの日も、村上のテクニックに苦しみつつも、終わってみれば
最後は完全に小堀のペースになっていた。


一戦ごとに評価、人気も高まりつつある小堀。世界に挑むにはまだまだ
ボクシングが粗い気もするが、逆に、その「粗さ」を持ったままで
どこまで通用するのか見てみたい、という思いもある。WBA王者の
エドウィン・バレロ(先日、小堀のジムの先輩である本望信人をTKOに
下して2度目の防衛に成功したばかり)となら、勝敗はともかく、
噛み合って面白い試合になるのではないだろうか。

突然の訃報

2007年05月08日 | その他
何気なくボクシングサイトを見た。思わず「えっ!?」と
声を上げてしまった。

2階級制覇の元世界王者、ディエゴ・コラレスが、
バイク事故により死去。まだ29歳だった。

僕はこの選手が好きだった。日本にも、彼のファンが大勢いる。
ここ最近は3連敗、またウェイト調整に苦しんだりと、あまり
芳しい状況ではなかったが、アメリカのボクサーは息が長いものだ。
また調子を戻し、いずれは王座に復帰するものだと思っていた。


どんな相手にも常に真っ向から立ち向かい、激闘を繰り広げた。
そんなコラレスのベストバウトは、何と言ってもちょうど2年前の
ホセ・ルイス・カスティージョ戦だろう。初回から激しく打ち合って
観客を沸かせた好勝負。そのクライマックスは、間違いなく
ボクシング史に残るような、劇的なものだった。

10ラウンドに2度のダウンを奪われたコラレス。マウスピースを
吐き出して時間稼ぎをし、ダメージを回復させようとするが、
誰もがもう終わりだと思っただろう。KOを確信しきって仕留めに
かかるカスティージョ。しかしそこへ、コラレスの起死回生のパンチが
炸裂、そのまま連打で大逆転。奇跡的なTKO勝ちを収めたのだ。


あの雄姿はもう見ることは出来ない。非常に残念だし、まだ彼が
亡くなったという実感も湧かないが、まずはご冥福をお祈りしたい。

WBC世界Sウェルター級TM オスカー・デラ・ホーヤvsフロイド・メイウェザー

2007年05月06日 | 海外試合(世界タイトル)
本当にハイレベルな試合だった。派手なノックアウトやダウンシーンは
なかったが、ボクシングの魅力を充分に堪能できた。

もちろんこのスーパーボクサー同士の対戦に胸を躍らせてはいたが、
正直なところ、ある意味でピークを過ぎた選手同士の試合ではないか、
という思いもあった。デラ・ホーヤは34歳、しかもブランクがある。
メイウェザーは階級を上げたことにより、スピードは多少落ちるだろう。
両者ともに、身体的には必ずしも最高の状態だとは言い切れない。

実際の試合でも、やはりそういったマイナス面は出ていた。
しかしそれ以上に、両者の持っている技術、経験、頭脳などが、
実にスリリングな戦いを演出してくれたのである。

なお、ラウンドごとのポイントは個人的なもので、公式の
ジャッジとは違うのでご了承いただきたい。


第1ラウンド、デラ・ホーヤがいい。メイウェザーのパンチをがっちり
ブロックする。さすがに全てかわし切ることは出来ないが、これだけ
メイウェザーの速いパンチをブロックした選手は過去にいただろうか。
そしてプレッシャーをかけながら接近し、クリンチ際でボディを連打。
ただし、手数ではメイウェザーが上回る。ほとんど差のないラウンドだが、
ボディブローを評価してデラ・ホーヤの10対9。

2ラウンド、デラ・ホーヤが更にプレッシャーを強め、後手に回った
メイウェザーの動きが若干バタバタし始める。デラ・ホーヤの、軽くは
あるが速い連打の中のいくつかが当たり、一方のメイウェザーの
パンチはほとんどブロックされる。10対9でデラ・ホーヤ。

3ラウンド。前進するデラ・ホーヤ、下がるメイウェザーという形が続く。
この戦法に手応えを感じたデラ・ホーヤが強いパンチを狙うが、さすが
メイウェザー、それにはきっちりとカウンターを返す。しかし、体格差の
せいか、1発当たったくらいではデラ・ホーヤはひるまず、逆に連打で
攻め立ててペースを渡さない。このように、メイウェザーのヒットも
いくつかあったのだが、攻勢度の差でデラ・ホーヤのラウンド。

4ラウンド、デラ・ホーヤの勢いが止まらない。メイウェザーの放つ
パンチは距離が遠く、デラ・ホーヤには当たらない。デラ・ホーヤにも
スピードはあるから、一歩間違えばカウンターを浴びかねない。それを
警戒しているのか、メイウェザーのパンチにいつものキレがない。
ロープ際でメイウェザーに腕をホールドされると、もう片方の手で
しつこくボディを連打するデラ・ホーヤ。強いパンチではないが、
何が何でも攻めてやろうという意思が感じられる。デラ・ホーヤの10対9。

ジリ貧の印象が濃くなるメイウェザー。ボクシングは、いかに自分が
攻めやすく守りやすいポジションを確保するかという「陣取り合戦」の
要素もあると思うが、そのポジション争いで完全にデラ・ホーヤが
優位に立っている。

5ラウンドは面白いラウンドだった。このままではマズいと感じたのか、
あるいはデラ・ホーヤの攻撃パターンに慣れてきたのか。メイウェザーが、
若干パンチに力を込めて反撃し始める。それを察知し、警戒感を強めた
デラ・ホーヤの手数が少し減る。とはいえ、ここまで積み上げてきた
いいペースを崩すわけにはいかない。デラ・ホーヤが再び攻めて出て、
メイウェザーをロープに詰める。

そこへ、メイウェザーの右カウンターが2発。1発目は当たりが浅かったが、
2発目は効いた。ガクッと腰を落とすデラ・ホーヤ。そこは踏みとどまった
デラ・ホーヤだが、明らかにペースが落ち、その後も何発かメイウェザーの
ヒットを許す。10対9、メイウェザー。

6ラウンド、ここから一気にペースを引き戻したいメイウェザーだが、
そうそう上手くは行かない。手数こそ減ったものの、決してプレッシャーを
かけることは止めないデラ・ホーヤの前に、効果的なヒットを奪えない。
メイウェザーの方も突然の好機到来に焦ったのか、リング中央で大きな
右を3発、立て続けに空振りする。こんなメイウェザーは珍しい。
逆に、デラ・ホーヤの細かいパンチを浴びるシーンもあり、ここは
10対9でデラ・ホーヤ。

攻めの意識が高まれば、その分守りがおろそかになる。しかしそれも、
ほんの少しのことだ。お互い、ほんの少し攻防のバランスが崩れただけで、
すかさず相手に付け込まれる。何とも気の抜けない戦いだ。

7ラウンド。今度は少し意識を修正してきたのか、メイウェザーの
防御勘が再び冴える。デラ・ホーヤが立て続けに放つジャブを、ほんの
半歩のバックステップでことごとく外し、ロープやコーナーに
詰められても、デラ・ホーヤの嵐のような連打を全てかわし切る。
攻めるデラ・ホーヤ、引くメイウェザーという図式は序盤と同じだが、
何やら形勢が変わってきたようだ。それとともに、ボディへ顔面へと、
メイウェザーのパンチがヒットする。攻勢をかけていたのはデラ・
ホーヤだが、当てていたのはメイウェザー。メイウェザーの10対9。

それを誰よりも感じていたのはデラ・ホーヤだったろう。さすがに
歴戦の勇者だ。8ラウンド、テンポアップした攻撃を仕掛けてペースを
取り戻しにかかる。しかし、それも長くは続かない。この辺りから、
デラ・ホーヤには疲れが出始めたからだ。前進するものの手数は出ず、
ガードも少し緩くなる。そこにメイウェザーのパンチを浴びる。
ただ、集中力や闘志は衰えておらず、メイウェザーの攻撃を最小限に
抑えたところもある。微差でメイウェザーのラウンド。

9ラウンド。前のラウンドでは疲れの見えたデラ・ホーヤだが、再び
気を締め直し、動きに張りが出てきた。この男、やはり只者ではない。
しかし、それを上回ったのがメイウェザーだ。デラ・ホーヤの強い
プレッシャーに煽られ、前半は動きを制限されていた観があったが、
ここへ来て、いつもの滑らかな動きが出始めた。デラ・ホーヤのパンチは
ますます当たらなくなり、数こそまだ少ないものの、メイウェザーは
ヒットを奪った。メイウェザーの10対9。

10ラウンド。デラ・ホーヤが鈍ってきたことで、相対的にそう見える
という部分もあるのだが、メイウェザーのスピードが増してきた。
前半には当たるパンチのバリエーションが極端に限られていたが、
ジャブや左フック、いきなりの右など多彩なパンチをヒット。そして
ラウンド終了間際には、左フックから右ストレートのコンビネーションを
当ててデラ・ホーヤを仰け反らせて、はっきりと優勢をアピール。
メイウェザーのラウンドだ。

11ラウンド。メイウェザーの、ボディへ左、そして顔面へ右という
コンビネーションがよく当たる。ボディが効いたのか、更に動きの落ちた
デラ・ホーヤだが、それでも時おり鋭いパンチを放つため、メイウェザー
としても不用意には詰めて行けない。打っては離れ、打っては離れを
繰り返し、リスクを抑える戦い方だ。最後にデラ・ホーヤも右を当てて
意地を見せるが、全体的にはやはり、メイウェザーのラウンドだった。

いよいよ最終、12ラウンド。劣勢を意識しているのか、あるいは
はっきりしたポイントを挙げて終わりたいのか、デラ・ホーヤが
激しく攻勢をかける。しかし、すっかり波に乗ったメイウェザーは
それを冷静にいなし、シャープなパンチを続けざまに当てる。
それでもデラ・ホーヤの気力は萎えず、最後は乱打の打ち合いで
試合は終わった。メイウェザーの10対9。


判定は割れた。2ポイント差でデラ・ホーヤ、4ポイント差で
メイウェザー、そして最後のジャッジは2ポイント差でメイウェザー。
2対1でメイウェザーが勝利し、5階級制覇を成し遂げた。

ちなみに僕の採点では、115対113でメイウェザーの勝ち。
ただし、微妙なラウンドもいくつかあるし、常に前に出続けた
デラ・ホーヤの攻勢をもう少し評価することも出来るだろうから、
ジャッジ3氏いずれの採点にも理はあると思う。


いずれにせよ、とても面白い試合だった。デラ・ホーヤ陣営が
練りに練ったであろうメイウェザー対策は、かなりの部分で
的を射ていた。メイウェザーは、いつものような奔放な動きが
出来なかった。

しかし、メイウェザーは、ただ運動能力に長けているだけの
ボクサーではない。デラ・ホーヤと同様、数々の強敵と戦うことで、
様々な実戦的スキルを身に付けているのだ。劣勢を強いられた
前半戦を経て、後半にはきっちりペースを引き戻して見せた。
上手く事が運んでいる時だけ強い、のではなく、上手く行かない時でも、
何とか挽回の手を打つことが出来る。それが真の強さだろう。

一方、ポイント上はリードを許した後半のデラ・ホーヤだが、
決していいようにやられていたわけではない。こちらも修羅場を
くぐってきた男の強みを見せ、果敢にメイウェザーに応戦した。


どちらかが勝てば、どちらかが負ける。それが勝負の常だが、
この敗戦は、決してデラ・ホーヤの価値を下げるものではないと思う。

デラ・ホーヤが評価されるとすれば、それは胡散臭い「6階級制覇」
という記録によってではなく、勝つか負けるか分からない強敵に
次々と立ち向かっていった戦歴によるものだろう。その意味では、
敗戦もまた、この男の勲章なのだ。


長らく世界のボクシング界をリードしてきた両雄が繰り広げた、
実に深みのある12ラウンズ。どちらかが無残に打ちのめされる
というようなシーンはなかったわけだが、個人的にはむしろ
その方が良かったとさえ思える。


採点は微妙だった。自分では勝ったと思っていたはずだ。
しかしデラ・ホーヤは、敗れてもなお、爽やかな笑顔を
浮かべていた。今の自分の力は出し切ったという、ある程度の
満足感はあったのだろう。

試合前は悪役に徹していたメイウェザーだが、ボクシングに
取り組む際の、その真摯な姿勢は、多くのボクシングファンが
知っている。

勝った者、敗れた者。両方が称えられるべき好勝負だった。

スーパーファイト直前情報

2007年05月05日 | その他
現地時間の明日行われるスーパーファイト、
オスカー・デラ・ホーヤとフロイド・メイウェザーの一戦。
直前情報として、前日計量の様子が伝わってきた。

デラ・ホーヤはスーパー・ウェルター級のリミットいっぱいの
69.85キロ(154ポンド)、メイウェザーは68.04キロ。
これは大方の予想通りだろう。デラ・ホーヤは体格のアドバンテージを
最大限に活かし、メイウェザーはスピードを重視した戦い方を
考えている、ということのようだ。

こういったビッグマッチは、試合前が一番楽しいのかもしれない。
二人のスペシャルなボクサーがリングに上がり、コールを受ける
その瞬間。例え試合が凡戦に終わろうとも、その雰囲気を感じられる
だけで幸せなことだ。

WBC世界バンタム級TM 長谷川穂積vsシンピウェ・ベチェカ

2007年05月03日 | 国内試合(世界タイトル)
長谷川が、小差の判定勝ちで4度目の防衛を果たした。
しかしその内容は、「日本ボクシング界のエース」としての
期待度からすれば、やや盛り上がりに欠けるものだった。


南アフリカの選手として初めて日本人の世界王者と対戦した
ベチェカのやりにくさ、捉えどころのなさに手こずった部分が
大きいのだろう。試合全体を通じて手数は少なく、レフェリーから
もっと積極的にパンチを交換するようにと注意を受けたり、
長谷川の試合にしては珍しくブーイングまで出る始末だった。

途中、パンチを受けたり当てたり、部分的に観客を沸かせる
シーンはあったものの、全体としては平坦な展開のまま迎えた
最終ラウンド。長谷川が意を決して、少々ラフではあるが
ラッシュに出た。ポイントはリードしており、ここで危険を冒す
必要もなかったわけだが、どうにかして盛り上げたいという
気持ちは痛いほど伝わった。


確かに、エキサイティングな展開を期待するファンには不満だった
だろう。ただ、個人的にはこの「手を出さない空間」でのやり取りが、
たまらなくスリリングだった。モーションこそ忙しくかけるものの、
手を出す頻度が両者とも極端に少ない。確かにそれは異様な光景では
あるのだが、曲がりなりにも長谷川は世界チャンピオン、そして
ベチェカは無敗の世界ランカーなのである。そんな二人が手を出せない
ということは、お互いがお互いにとって相当なレベルの「脅威」を
持っており、また相当に高度なせめぎ合いが行われていることの証に
他ならない。凡戦には違いないが、これも世界レベルの攻防なのだ。


とはいえ、前回のヘナロ・ガルシアとの防衛戦に続き、今回も
長谷川は、試合運びの面で未熟な点があることを露呈してしまった
のも事実である。KOを意識しすぎて、パンチの打ち方が単調に
なっていたという部分もあるのだろう。もう少し、スピード重視の
「探り針」を入れてみることも出来たのではないだろうか。
それによって相手の反応を確かめ、次は違った種類のパンチを
試してみる。そのような技術に長けていたのが、長谷川が対戦を
回避した徳山昌守であった。

例えば、老練なウィラポン・ナコンルアンプロモーションに対しては、
若さと勢いで勝ることが出来た。ヘラルド・マルチネスには圧倒的な
スピード差で優位に立つことが出来た。今回のベチェカには、長谷川が
圧倒的に劣っている部分はなかった反面、抜きん出ている部分もなかった。
ある意味では似たタイプ、そして最も噛み合わせの悪いタイプで、
凡戦になってしまうのも無理はないのかもしれない。


長谷川穂積は、素晴らしい素質を持ったボクサーであるが、まだ
そのボクシングは完成されていない。そこがまた、この選手の
面白いところでもある。

ガルシア戦では、相手のペースに巻き込まれて戦ってしまった。
このベチェカ戦では、相手の良さを殺すことには成功したものの、
自分の良さも出し切れなかった。

今後は、いかにして自分の良さを出すか、つまり、いかにして
試合のペースを握るか、その辺りを考えた練習が求められるだろう。
ただ、そうした経験は練習ではなかなか積みにくい。逆に言えば、
これらの苦戦が、長谷川にとって非常にいい財産になるに違いない。


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最後に・・・この日のリングは、非常に滑りやすかった。
リング中央にプリントされた「ロッキー・ザ・ファイナル」の
ロゴ部分で、多くの選手が足を滑らせていた。彼らが強打を
振り抜けなかった原因の一つには、間違いなくこれがあったと思う。

WBA世界Sフェザー級TM エドウィン・バレロvs本望信人

2007年05月03日 | 国内試合(世界タイトル)
全勝全KO勝ちのチャンピオン・バレロが、本望を8ラウンド
TKOに下して2度目の防衛に成功。しかしそれは本望の
負傷による出血がひどくなったためのレフェリーストップで、
形の上では全KO記録を守ったものの、バレロは結局、1度の
ダウンも奪えず試合を終えることになった。


残念ながらテレビでは前半のほとんどのラウンドがカットされていたが、
会場が最も大きな歓声に包まれていたのがこの試合だったのでは
ないだろうか。それは何より、本望の健闘によるものだろう。

本望は、自らのボクシング人生の集大成を披露し、その技術が
世界王者にも通用することを示した。バレロはなかなか手応えのある
ヒットを奪えず、空振りを続けた。巧みなポジション取りで相手の
パンチ力を殺す、本望のテクニックのせいだ。

しかし一方で、本望のかねてよりの課題であるパンチ力のなさも
やはり浮き彫りになってしまっていた。何度かパンチを
ヒットさせても、バレロの迫力ある攻めの前に印象は薄れ、
ポイントも8ラウンドまでほぼフルマークで取られていた。
どれだけバレロの攻撃力を殺しても、「技あり」のカウンターを
決めても、それが勝ちに繋がらない。本望は悲しい奮闘を続けた。
その姿に、観客は感動を覚えたのかもしれない。


結局、バレロのパンチによって出来た目の上の傷がラウンドを
追うごとに悪化し、最後は止められてしまった。本望の顔の皮膚の
「切れやすさ」も、以前から心配されていたことだ。攻撃力のなさと
カット癖、それらの本望の「負の要素」が予想通り勝敗を決めて
しまったわけだが、初の世界戦、それもバレロという強打者を相手に、
自分の培った技術で堂々と渡り合った8ラウンズの緊張感は、
恐らく本望にとってとても充実した時間だったはずだ。

本望は、試合前の公言通り引退を表明。自分の持っている技術を
存分に世界王者にぶつけ、それでも勝てなかったこと、そして
どれだけ治療を施しても良くならない切れやすさを考えれば、
その決断にも納得できる部分はある。

一方、決して快勝とは言えなかったバレロだが、稀代のテクニシャン
相手にある程度空回りすることは、内心予想していたようにも思える。
試合後のインタビューでも、「いい経験を積んだ」ことを幸いと
捉えていたようだ。何しろバレロはその強打ゆえに、これまで
ほとんどの試合を1~2ラウンドで終わらせてしまっているのだ。
試合が長引いたことは、確かにバレロにとって良かったかもしれない。


不完全燃焼の結果とは裏腹に、両選手、また観客も、一定の満足感を
得ることが出来た試合だった、と言えるのかもしれない。

WBA世界Sフライ級TM 名城信男vsアレクサンデル・ムニョス

2007年05月03日 | 国内試合(世界タイトル)
GWのお楽しみの一つ、トリプル世界戦が終わった。
勝敗に関しては、ほぼ大方の予想通りだったと思うが、
その内容は、どれも少々意外だったのではないだろうか。


まず名城は、健闘空しくムニョスに判定負けで王座陥落。

序盤は、意外にも静かでスローな立ち上がりに。リングに
上がったムニョスの体が汗で光っていたことから、控え室で
既に体を温め、いきなり襲い掛かる作戦かと思ったが、
そうではなかった。名城の強打を警戒しているのか、それとも
スタミナ配分に気を使っているのか。

名城の方も慎重だ。「一発もらえば終わり」という意識が
強いのだろうか、丁寧にムニョスのパンチを外す、あるいは
ブロックする。警戒しながらのため、それほど強くはないが、
いくつかパンチもヒットさせた。そのようにして、お互いが
KOを予告した第6ラウンドまでが何事もなく終わった。

しかしやはり、クリーンヒットでなくても、ムニョスの強打は
徐々に名城の体を蝕んでいたようだ。後半に入ると、名城の
動きに緩慢さが出はじめた。そしてガードも緩くなり、ムニョスの
パンチをもらう場面が目立ってきた。それでも連打させることは
少なく、大ピンチというほどのピンチには至らないのだが、
均衡を保っていた序盤から、ゆっくりと下降線をたどって
いくような形でムニョスに押され、そのまま勝負は判定へ。
結局、ポイントは大差がついていた。


大きなパンチを振り回していた頃に比べればまだ良かったとはいえ、
後半はムニョスにも疲れが見えたし、名城のパンチも随所で被弾していた。
決して楽勝というわけではない。

しかし、各ラウンドごとに見てみれば、やはりムニョスの攻撃力の
方が見栄えが良かった。今回のムニョスは強打をむしろ小出しにし、
負けるリスクを少なくするスタイルで勝利をものにしたようだ。
以前に比べ迫力は減ったが、よりクレバーな戦い方になった。


一方の名城もよく考えた戦い方を見せ、成長の跡がうかがえた。
結局それは結果には繋がらなかったわけだが、何と言ってもまだ
10戦しかしていない選手なのだ。このムニョス戦、そして練習の
過程でも、今後の大きな糧になるような経験を積んだように思える。
本人も引退など全く考えていないようだし、これからの名城の
ファイトにも期待したい。

大曲選手の近況

2007年05月01日 | その他
大曲輝斉選手が、眼筋マヒの治療により日本ウェルター級王座を
返上して3ヶ月ほど経った。その後の情報がまるでないので
心配になり、ジムにメールを送って問い合わせてみた。

すぐに返事を頂いた。スパーリングはまだ医師の許可が下りて
いないため出来ないが、練習はしているとのこと。
復帰にはもうしばらく時間がかかりそうだが、取りあえず
安心した。

「当たれば倒れる」破格のハードヒッター大曲。じっくり治して、
ぜひその豪打を再びファンに披露して欲しいものだ。