ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

W世界戦(イーグルvs小熊坂、徳山vs川嶋)

2004年06月28日 | 国内試合(世界タイトル)
今日行われた横浜でのダブル世界戦には、「あっけない結末」という
共通点があった。いずれも、まさかこんな形で終わるとは予想していなかった。


まずはWBC世界ミニマム級タイトルマッチ。イーグル共和が文句なしに
初防衛に成功したのだが、挑戦者の小熊坂諭の頭からの出血により、8ラウンド
途中で試合が止められ、負傷判定での決着となってしまった。

試合は、ちょっと不思議なムードの中で進んでいた。クリーンヒットの数では
明らかに王者イーグルが上回っているのだが、にもかかわらず明確にペースを
握っていたとは言えない。小熊坂のつかみ所のないボクシングに、本来の
小気味いいスタイルを封じられているといった印象だった。足をつかって
逃げ回っていたかと思えば、唐突にサウスポースタイルからの左を放つ。
近づくと、がっちりとクリンチ。そしてその離れ際にパンチを狙ってくる。

一方の小熊坂は、評判通りの飄々としたボクシングを展開して見せたが、
時折いい左を当てるものの、イーグルの隙のなさに圧倒されたのか、それ以上の
攻撃を仕掛けることが出来なかった。お互いどうにかして突破口を開こうと
している間に、試合が終わってしまった感じだ。見ていた方もそうだし、
やっていた当人同士も不完全燃焼だっただろう。

もしあのまま試合が進んでいたらどうなっただろう。相変わらず噛み合わない
まま終わっていた可能性もあるが、どちらかがペースを握りかけ、もう少し
白熱した展開が見られたかもしれない。小熊坂も悪い選手ではないと思うが、
いかんせん攻撃に一貫性がないというか、勝ちに結びつけるための戦略が
あまり感じられなかった。となれば、恐らくイーグルが混戦から抜け出し、
さらにはっきりとポイント差を広げていったのではないだろうか。

いい意味で「教科書通りのボクシング」と評価されるイーグルは、いきなりの
右ストレートをジャブのように打つなど、小熊坂の変則的な試合運びに手こずり
ながらもサウスポー対策の常道を実行していた。見栄えはあまり良くなかったが、
そういう中でも苛立たずにきっちりとポイントを上げていった冷静さは
素晴らしかった。彼のテーマは「美しいボクシング」のようだが、これからは
もう少し老獪なテクニックも身に付けていけば、基本がしっかりしているだけに
長期防衛も十分に可能だと思う。

                                
そして次のWBC世界スーパー・フライ級タイトルマッチでは、安定王者
徳山昌守が、まさかの1ラウンドTKO負けを喫するという、近年の国内
ボクシング界でも稀に見る波乱が起こった。

まるで漫画の世界である。冗談半分に空想することはあったが、もちろん実際に
こんな結果になることは予想していなかった。判定で徳山が9度目の防衛を
果たす、というのが大方の予想だったはずだ。

ただ、川嶋が勝つとしたらKOだろう、いやKOしかない、という声もあった。
何しろ抜群の安定感を誇る王者である。仮に1度くらいダウンを奪ったところで、
そこで耐え切られてしまえば次第に巧みな試合運びでポイントを挽回されてしまう
だろう。しかし徳山にも隙はある。後半ややバテること、そして試合開始直後は
いつも動きが硬い、ということだ。つまり川嶋の勝機は序盤と終盤にあり、
その千載一遇のチャンスを川嶋は見事にものにしたわけだ。

そういった意味でこれはラッキーパンチなどではなく、ある種の必然に導かれた
結果だったと思う。かねてより言われている徳山の減量苦やモチベーションの
低下なども、わずか3分足らずの時間では試合にどう影響したのか分からない。
正直な所、2人の攻防をもう少し長く見たかったという気持ちはある。
テクニシャンとパンチャーの試合は、いつでも非常にスリリングだからだ。

派手なKOシーンを見たければ、K-1にでもチャンネルを合わせればいい。
しかし何が起こるか分からないボクシングだからこそ、こういった結果には
K-1では味わえない興奮があることも確かだ。ラウンド数が短く、ある意味で
安定したレベルのエキサイトメントを楽しめるK-1のやり方は素晴らしい。
その点ボクシングは凡戦と熱戦の落差が激しく、やはりエンターテイメントと
しては不完全な面がある。そこがまた、ボクシングの醍醐味でもあるわけだ。

川嶋の不器用なスタイルを考えると、長く王座を防衛するのは難しいだろう。
技巧派に空転させられ続けて煮え切らないままタイトルを失うよりも、いっそ
WBA王者のハードパンチャー、アレクサンデル・ムニョスとの統一戦が見て
みたい。一発のパンチ力とディフェンスではムニョスに分があるかもしれないが、
打たれ強さとスタミナでは川嶋が優っているように思う。どちらが勝つにせよ、
凄い打撃戦になることは間違いない。

一方、3年9ヶ月の長きに渡って王座を保持してきた徳山の今後にも興味がある。
決して突出した能力があるわけではないので評価はそれほど上がらなかったが、
相手の良さを殺し自分のパンチを当てるテクニックに優れた名王者だったと思う。
ただ今になって思えば、最初の頃の防衛戦に比べ、やや動きが悪くなっていた
ことは否定できない。今のところ進退は明らかにしていないが、再起するなら
階級を上げることになるだろう、とも語っている。

限界に来ていたと言われる減量や、「守り続ける側」としてのプレッシャーから
解放され、もう一度あの伸び伸びとしたボクシングを見せてくれるなら、
ファンとしてもぜひ再起を願いたいものだ。

6・28ダブル世界戦展望

2004年06月23日 | その他
悲しいことに、最近は世界戦が決まるとまず「名古屋で放送あるのかな・・・」と
いうことが気になってしまう。今回は「幸運にも」テレビ放送があるようだ。

いよいよ今月28日のダブル世界戦が迫ってきた。WBC世界ミニマム級、そして
WBC世界スーパー・フライ級タイトルマッチが横浜で同時開催される。


ミニマム級王者イーグル共和はタイ人であるが、日本人と結婚し日本で暮らし、
日本のジムに所属するチャンピオンだ。今年1月、非常に評価の高かった
ホセ・アントニオ・アギーレを圧倒的大差の判定で下し、プロ12戦目にして
頂点に上り詰めたハイレベルなボクサーで、今回が初防衛戦となる。

その相手は、小熊坂諭。日本タイトルを3度防衛し、そのまま世界タイトルに
初アタックすることになった。パンチ力と変幻自在な攻撃が売りの俊英である。
しかしボクシングがまだ雑なところがあり、予想では完成度の高いイーグルの
優位を唱える声がほとんどだ。

真面目で練習熱心と評判のチャンピオンだけに、気が緩んで体調を崩すことも
考えにくい。また、実は熱くなりやすい性格だというイーグルだが、試合で
その欠点が現れたことはない。技術や精神力など、総合力ではやはりチャンピオンが
一枚も二枚も上のような気がする。挑戦者が上回っている点があるとすれば、
パンチ力ぐらいだろうか。しかしそれが当たるのかどうか。

正直言って、僕の興味は「イーグルが見れること」、この一点に尽きる。
偉そうに色々書いておきながら、僕は両者のボクシングを一度も見たことが
ないのだ。だから噂のイーグルがどんな選手なのか、それが見てみたい。
というわけでここで小熊坂の勝機を探るつもりもないが、挑戦者の危険な
パンチが最後まで緊張感を呼び、イーグルの技巧が一層冴えて見えるならそれほど
喜ばしい展開はないと思うので、その意味では小熊坂の健闘を期待したい。


アレクサンデル・ムニョスと小島英次の連戦に続いて、またしても金沢ジムの
「意味の分からない再戦」がやってきた。WBC世界スーパー・フライ級戦、
徳山昌守と川嶋勝重の戦いだ。

両者の初対決は昨年6月、徳山の7度目の防衛戦だった。川嶋は最初から最後まで
前に出続けたが、内容は王者の完勝だったように感じた。確かにポイントの上では
それほど差はなかったし、徳山が川嶋の突進力に戸惑ったり、いくつかパンチを
もらうようなシーンもあった。しかし川嶋の攻撃はあまりに単調すぎ、特に後半は
チャンピオンの冷静な危機回避能力の高さが目立つばかりだった。だからこそ、
この再戦を行う理由がよく分からないのだ。

しかしだからと言って、今回も川嶋にはまるで勝ち目がないとは言い切れない。
川嶋は前回の敗戦の理由として、腰を痛めていたことを挙げている。そのために
練習が不足し、後半にバテてしまったのだという。もし体調が万全なら、序盤に
見せたような怒涛の責めを12ラウンドに渡って展開できるかもしれない。
そうすれば、そのプレッシャーがいずれ徳山を押し潰すという場面が訪れるかも
しれない。ただ、前回のような単調な責めでは、試合巧者である徳山に読まれて
しまうだろう。問題はスタミナ以前に、川嶋がこの一年でどこまで攻撃の幅を
広げられたかにかかってくるのではないだろうか。

また、今回が9度目の防衛戦となる徳山に、体力や気力の面で衰えはないかどうか。
そういった要素が交錯すれば、勝敗はどう転ぶか分からない。最初にこの再戦には
興味がないようなことを書いたが、やはりスリリングな部分は確実にある。
とは言え、徳山のコンディションが取り立てて悪くなければ、無難に王座を
守りきるのではないだろうか。


というわけでこのダブル世界戦は、両王者とも判定で防衛成功と予想する。