ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界バンタム級TM 長谷川穂積vsシンピウェ・ベチェカ

2007年05月03日 | 国内試合(世界タイトル)
長谷川が、小差の判定勝ちで4度目の防衛を果たした。
しかしその内容は、「日本ボクシング界のエース」としての
期待度からすれば、やや盛り上がりに欠けるものだった。


南アフリカの選手として初めて日本人の世界王者と対戦した
ベチェカのやりにくさ、捉えどころのなさに手こずった部分が
大きいのだろう。試合全体を通じて手数は少なく、レフェリーから
もっと積極的にパンチを交換するようにと注意を受けたり、
長谷川の試合にしては珍しくブーイングまで出る始末だった。

途中、パンチを受けたり当てたり、部分的に観客を沸かせる
シーンはあったものの、全体としては平坦な展開のまま迎えた
最終ラウンド。長谷川が意を決して、少々ラフではあるが
ラッシュに出た。ポイントはリードしており、ここで危険を冒す
必要もなかったわけだが、どうにかして盛り上げたいという
気持ちは痛いほど伝わった。


確かに、エキサイティングな展開を期待するファンには不満だった
だろう。ただ、個人的にはこの「手を出さない空間」でのやり取りが、
たまらなくスリリングだった。モーションこそ忙しくかけるものの、
手を出す頻度が両者とも極端に少ない。確かにそれは異様な光景では
あるのだが、曲がりなりにも長谷川は世界チャンピオン、そして
ベチェカは無敗の世界ランカーなのである。そんな二人が手を出せない
ということは、お互いがお互いにとって相当なレベルの「脅威」を
持っており、また相当に高度なせめぎ合いが行われていることの証に
他ならない。凡戦には違いないが、これも世界レベルの攻防なのだ。


とはいえ、前回のヘナロ・ガルシアとの防衛戦に続き、今回も
長谷川は、試合運びの面で未熟な点があることを露呈してしまった
のも事実である。KOを意識しすぎて、パンチの打ち方が単調に
なっていたという部分もあるのだろう。もう少し、スピード重視の
「探り針」を入れてみることも出来たのではないだろうか。
それによって相手の反応を確かめ、次は違った種類のパンチを
試してみる。そのような技術に長けていたのが、長谷川が対戦を
回避した徳山昌守であった。

例えば、老練なウィラポン・ナコンルアンプロモーションに対しては、
若さと勢いで勝ることが出来た。ヘラルド・マルチネスには圧倒的な
スピード差で優位に立つことが出来た。今回のベチェカには、長谷川が
圧倒的に劣っている部分はなかった反面、抜きん出ている部分もなかった。
ある意味では似たタイプ、そして最も噛み合わせの悪いタイプで、
凡戦になってしまうのも無理はないのかもしれない。


長谷川穂積は、素晴らしい素質を持ったボクサーであるが、まだ
そのボクシングは完成されていない。そこがまた、この選手の
面白いところでもある。

ガルシア戦では、相手のペースに巻き込まれて戦ってしまった。
このベチェカ戦では、相手の良さを殺すことには成功したものの、
自分の良さも出し切れなかった。

今後は、いかにして自分の良さを出すか、つまり、いかにして
試合のペースを握るか、その辺りを考えた練習が求められるだろう。
ただ、そうした経験は練習ではなかなか積みにくい。逆に言えば、
これらの苦戦が、長谷川にとって非常にいい財産になるに違いない。


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最後に・・・この日のリングは、非常に滑りやすかった。
リング中央にプリントされた「ロッキー・ザ・ファイナル」の
ロゴ部分で、多くの選手が足を滑らせていた。彼らが強打を
振り抜けなかった原因の一つには、間違いなくこれがあったと思う。

WBA世界Sフェザー級TM エドウィン・バレロvs本望信人

2007年05月03日 | 国内試合(世界タイトル)
全勝全KO勝ちのチャンピオン・バレロが、本望を8ラウンド
TKOに下して2度目の防衛に成功。しかしそれは本望の
負傷による出血がひどくなったためのレフェリーストップで、
形の上では全KO記録を守ったものの、バレロは結局、1度の
ダウンも奪えず試合を終えることになった。


残念ながらテレビでは前半のほとんどのラウンドがカットされていたが、
会場が最も大きな歓声に包まれていたのがこの試合だったのでは
ないだろうか。それは何より、本望の健闘によるものだろう。

本望は、自らのボクシング人生の集大成を披露し、その技術が
世界王者にも通用することを示した。バレロはなかなか手応えのある
ヒットを奪えず、空振りを続けた。巧みなポジション取りで相手の
パンチ力を殺す、本望のテクニックのせいだ。

しかし一方で、本望のかねてよりの課題であるパンチ力のなさも
やはり浮き彫りになってしまっていた。何度かパンチを
ヒットさせても、バレロの迫力ある攻めの前に印象は薄れ、
ポイントも8ラウンドまでほぼフルマークで取られていた。
どれだけバレロの攻撃力を殺しても、「技あり」のカウンターを
決めても、それが勝ちに繋がらない。本望は悲しい奮闘を続けた。
その姿に、観客は感動を覚えたのかもしれない。


結局、バレロのパンチによって出来た目の上の傷がラウンドを
追うごとに悪化し、最後は止められてしまった。本望の顔の皮膚の
「切れやすさ」も、以前から心配されていたことだ。攻撃力のなさと
カット癖、それらの本望の「負の要素」が予想通り勝敗を決めて
しまったわけだが、初の世界戦、それもバレロという強打者を相手に、
自分の培った技術で堂々と渡り合った8ラウンズの緊張感は、
恐らく本望にとってとても充実した時間だったはずだ。

本望は、試合前の公言通り引退を表明。自分の持っている技術を
存分に世界王者にぶつけ、それでも勝てなかったこと、そして
どれだけ治療を施しても良くならない切れやすさを考えれば、
その決断にも納得できる部分はある。

一方、決して快勝とは言えなかったバレロだが、稀代のテクニシャン
相手にある程度空回りすることは、内心予想していたようにも思える。
試合後のインタビューでも、「いい経験を積んだ」ことを幸いと
捉えていたようだ。何しろバレロはその強打ゆえに、これまで
ほとんどの試合を1~2ラウンドで終わらせてしまっているのだ。
試合が長引いたことは、確かにバレロにとって良かったかもしれない。


不完全燃焼の結果とは裏腹に、両選手、また観客も、一定の満足感を
得ることが出来た試合だった、と言えるのかもしれない。

WBA世界Sフライ級TM 名城信男vsアレクサンデル・ムニョス

2007年05月03日 | 国内試合(世界タイトル)
GWのお楽しみの一つ、トリプル世界戦が終わった。
勝敗に関しては、ほぼ大方の予想通りだったと思うが、
その内容は、どれも少々意外だったのではないだろうか。


まず名城は、健闘空しくムニョスに判定負けで王座陥落。

序盤は、意外にも静かでスローな立ち上がりに。リングに
上がったムニョスの体が汗で光っていたことから、控え室で
既に体を温め、いきなり襲い掛かる作戦かと思ったが、
そうではなかった。名城の強打を警戒しているのか、それとも
スタミナ配分に気を使っているのか。

名城の方も慎重だ。「一発もらえば終わり」という意識が
強いのだろうか、丁寧にムニョスのパンチを外す、あるいは
ブロックする。警戒しながらのため、それほど強くはないが、
いくつかパンチもヒットさせた。そのようにして、お互いが
KOを予告した第6ラウンドまでが何事もなく終わった。

しかしやはり、クリーンヒットでなくても、ムニョスの強打は
徐々に名城の体を蝕んでいたようだ。後半に入ると、名城の
動きに緩慢さが出はじめた。そしてガードも緩くなり、ムニョスの
パンチをもらう場面が目立ってきた。それでも連打させることは
少なく、大ピンチというほどのピンチには至らないのだが、
均衡を保っていた序盤から、ゆっくりと下降線をたどって
いくような形でムニョスに押され、そのまま勝負は判定へ。
結局、ポイントは大差がついていた。


大きなパンチを振り回していた頃に比べればまだ良かったとはいえ、
後半はムニョスにも疲れが見えたし、名城のパンチも随所で被弾していた。
決して楽勝というわけではない。

しかし、各ラウンドごとに見てみれば、やはりムニョスの攻撃力の
方が見栄えが良かった。今回のムニョスは強打をむしろ小出しにし、
負けるリスクを少なくするスタイルで勝利をものにしたようだ。
以前に比べ迫力は減ったが、よりクレバーな戦い方になった。


一方の名城もよく考えた戦い方を見せ、成長の跡がうかがえた。
結局それは結果には繋がらなかったわけだが、何と言ってもまだ
10戦しかしていない選手なのだ。このムニョス戦、そして練習の
過程でも、今後の大きな糧になるような経験を積んだように思える。
本人も引退など全く考えていないようだし、これからの名城の
ファイトにも期待したい。