ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界S・バンタム級TM マヤル・モンシプールvs仲里繁

2005年04月29日 | 国内試合(世界タイトル)
3度目の正直を狙う沖縄の強打者、仲里。今回は敵地フランスに出向いての
挑戦となった。過去2度の世界戦では、WBC王者ラリオスに真っ向からの
打撃戦を挑んだ。特に初戦は、王者のアゴを割りあわやKO勝ちかという
見せ場も作り、観客を大いに沸かせたものだ。

仲里というのは、なぜだか凄く応援したくなる選手である。
不器用で、真っ直ぐで、そして野武士のような風貌と、一発狙いだけど
とんでもない破壊力のパンチ。普通に考えて、こんな選手が世界を獲るのは
非常に難しい。しかし、彼のボクシングにはロマンがある。そう、今や
絶滅寸前ともいえる言葉である「男のロマン」、これを体現していたのが
仲里だったのだ。

この試合を一文字でいえば「嵐」。本来スロースターターの仲里が、
開始ゴング直後から王者に襲い掛かり、激しく攻め立てる。いきなり
ヒートアップする場内。判定決着など全く考えていないかのような
飛ばしようである。迫力ある攻めで、まずはポイントも奪っただろう。

やや面食らった感のあったモンシプールだが、元々打撃戦は得意中の得意だ。
2ラウンドからは堂々と打ち合いに応じる。驚くべきは王者の打たれ強さだ。
パンチ力にかけては世界でもトップクラスの仲里の豪打を食らっても、平然と
反撃してくる。王者のパンチを浴び、急速に仲里のダメージが蓄積されていく。

仲里も時折パンチを当ててモンシプールを一瞬ひるませるが、もう王者の
勢いは止まらない。仲里が、徐々にモンシプールのパワーに飲み込まれていく。

信じられないようなハイペースの打ち合いは、6ラウンドで決着を迎えた。
仲里がついにダウンし、カウント途中でレフェリーが試合の終了を宣言、
王者のTKO勝ちが告げられた。

これでモンシプールは4度目の防衛。王座を獲得した試合も含め、5度の
世界戦は全てTKOで終わらせている。強い。単純に強いチャンピオンだ。

激闘を見せた仲里に対し、敵地でありながら惜しみない拍手が贈られる。
試合前の記者会見では、アマチュア歴もなく22歳でボクシングを
始めたという経験の少なさや、ラリオスに2度も負けている選手という
こともあって冷ややかな対応を受けたらしいが、仲里は己の拳で彼らを
黙らせるどころか、むしろ敬意さえ抱かせてみせた。

32歳。3度目の世界挑戦にして、初のKO負け。その上得意の打撃戦を仕掛け、
その打撃戦で敗れてしまったわけだから、「4度目」はもうないように思う。
仲里自身、打ち合ったことには悔いがなさそうだ。

進退にはまだ言及していないが、このまま引退の可能性が高いのだろう。
しかし、ゾクゾクするような「強打のロマン」を見せてくれた仲里繁という
ボクサーを、僕は一生忘れない。

日本S・ウェルター級TM クレイジー・キムvs前田宏行

2005年04月19日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
前田はここまで、日本タイトルを3階級に渡って獲得してきた。
これに勝てば、前人未到の「日本タイトル4階級制覇」を達成
することになる。注目の試合だ。

前田は僕がボクシングを見始めた時からずっと、日本のトップで
活躍してきた選手だ。そんな前田がついにここまで来たか・・・
という感慨がまずあった。また、多くの人が、これが前田の長い
ボクシング人生のゴールになるんじゃないかと何となく感じていた
ように思う。

彼が歩いてきたライト~スーパー・ウェルター辺りの階級では、
世界レベルの選手層が物凄く厚いため、「目標は世界」と
言うことすら憚られるような雰囲気がある。世界に行くのは難しい、
じゃあどうするか・・・。前田は、自分を燃えさせるための
目標を、いつしか国内タイトルの複数階級制覇に求めていたのだ。

果たして試合は・・・残酷なまでの結果となってしまった。
わずか2ラウンドでのKO負け。これまで打たれ強さには
定評のあった前田が、まさかこんな形で負けるなんて・・・。

ライト級で最初の王座を獲った前田に対し、ずっとこの辺りの階級で
戦ってきたキム。技術以前に、その「肉体の差」が、明確に表れて
しまったようだ。試合後の前田も、「こんな強いパンチを受けたのは
初めて」と驚いていた。

ここまで前田を中心にして書いてきたが、僕はキムのことも決して
嫌いではない。これ以上ないほど露骨に「在日」であることを前面に
押し出したリングネームと、それに負けず劣らずの強烈な個性。
日本のジムの選手にしては珍しいくらい相手を罵り、記者にまで
食ってかかる激烈さは、見えない何かに対する怒りをぶつけて
いるようで、なぜだか切なささえ感じさせる。そして何より、
次々と相手を打ち倒す圧倒的な強さが魅力だ。

そんなキムにとっても世界の頂はあまりにも高く、だからこそ彼は
みっともないくらいに吠え、叫ばずにはいられないのかもしれない。
敗れた前田、そして勝ったキム。二人はこれから、どこへ向かって
いくのだろうか。

長谷川、新井田、W世界戦

2005年04月16日 | 国内試合(世界タイトル)
これまで、日本では何度も「ダブル世界タイトルマッチ」という
形の興行が行われてきたが、日本人選手が揃って勝ったのは
実は今回が初めてである。


挑戦者としてリングに上がり、見事「快挙」と言える勝利を得たのが
関西の若きホープ、長谷川穂積。ここまで実に14度もの防衛を
果たしてきた歴戦の雄ウィラポンを攻略し、WBC世界バンタム級
王座を奪取したのだ。

名古屋では残念ながらこの試合を見ることは出来なかったのだが
(頼むよ中京テレビ・・・)、ネットで試合の模様を実況して
くれる人がいたので、手に汗握ってリロードを繰り返した
(大昔の「ラジオ中継」ってこんな感じだったんだろうか)。

序盤から、好調な長谷川が持ち前のスピードを生かしポイントを
奪っていく。しかし、最初は様子を見るのが王者ウィラポンの
いつものやり方だ。実際、中盤にはウィラポンがボディ責めで
優位に立ち始める。そういえば、一度はウィラポンをいい所まで
追い詰めた西岡利晃も、このボディ攻撃で失速したのだった。

しかしここからが素晴らしかった。どちらが勝っているか
分からなくなってきた終盤、長谷川が猛攻。これが勝敗を分けた。
接戦ではあったが、判定は長谷川・・・! ここまで45連勝、
6年半の長きに渡ってベルトを守ってきたウィラポンが、ついに
落城した瞬間だった。

確かに、ウィラポンには衰えがあったようだ。衰えたウィラポンにとり、
スピードが身上の長谷川は相性の悪い相手でもあったのだろう。
しかし、強打の王者に真っ向から立ち向かった長谷川の勇気、そして
それに打ち勝った技術の高さには感服するしかない。本当に、今後が
楽しみな新チャンピオンが誕生した。


なお、その前に行われたWBAミニマム級戦では、王者の新井田豊が
意外な苦戦を強いられながら、こちらも打ち合いに勝って2度目の
防衛を果たした。世界戦では未だにスカッとした勝ち方を
見せられていない新井田だが、個人的には彼の実力はまだまだこんな
もんじゃないと信じている。今後の成長に期待したいと思う。


日本チャンピオンの死

2005年04月15日 | その他
起こって欲しくなかったことが起こってしまった。
先日の試合でTKO負けし、重態に陥っていた
前日本スーパー・フライ級チャンピオン、田中聖二選手が
亡くなった
のだ。僕は彼とは一面識もないのだが、
非常にショックで、何とも言えない重たい気持ちだ。

ボクシングは、頭部を集中的に打撃する危険な格闘技だが、
普段はそのことを忘れて、いや忘れたふりをしている自分がいる。
だから余計にショックなのだろう。非情な現実を目の前に
突きつけられたのだから・・・。ましてや、大切な家族を亡くされた
方々の気持ちは、察するに余りある。

しかし、同時にこうも思うのだ。田中聖二という人は
心から夢中になれるものに出会い、己の全てを注ぎ込んだ。
それは男として尊敬すべきことだ、と。だからといって、
残された周りの人間の悲しみが軽減されるわけではない
だろうが・・・。

確かに、「ボクシングは危険だからやるべきではない」というのも
正論ではある。何も自分から危険に身を投じる必要は
ないじゃないか、と。しかし、男が命を掛けて取り組んだことを
そう簡単に放棄できるはずがない。田中選手にとって、
ボクシングは本当に大事なものであったはずだ。

人はいつ死ぬか分からない。だからこそ、その時まで
精一杯「生」を燃焼させるべきだと思うのだ。
精一杯生きること、それだけが残された人間の努め
なのではないだろうか。とにかく、ご冥福をお祈りします。

有名なのに無名

2005年04月13日 | その他
ヤフーのトップニュースに、亀田の入札の件が出ていた。
相変わらずマスコミに人気のようだ。まだ何者でもない
ボクサーがここまで話題になるなんて、実に変な感じがする。

ついでに彼のブログを見てみた。イメージとは違い、
なかなかの好青年じゃないかと思った。自分が有名になったり
有名人に会えたりするのを素直に喜んでいる様は、やはり
子供なんだなあと思わせてくれる。

WBC世界ミニマム級TM イサーク・ブストスvs高山勝成

2005年04月04日 | 国内試合(世界タイトル)
今日行われたWBC世界ミニマム級タイトルマッチで、挑戦者の
高山勝成が王者イサーク・ブストスから判定で王座を奪取、
日本ボクシング史上50人目の世界チャンピオンになった。

何もしない間に前王者イーグル京和が負傷してしまった
ことによる幸運な王座奪取を果たし、チャンピオンでありながら
ある意味未だにその実力がベールに包まれていたブストスだが、
やはりどうしようもなく弱かったことが判明した。

ニュースでの断片的な映像を見る限り、高山は持てる能力を発揮し、
本当によくやったと思う。しかし相手が相手だけに、どうも素直に
喜ぶことができない。もちろん、高山本人には何の文句もないわけだが・・・。

初防衛戦はイーグルとやることがほぼ確定しているそうだ。
早くもほとんどの人があっさり王座を失うと予想しているが、
果たしてどうなるんだろうか。まあ仮に負けたとしても、高山が
世界チャンピオンとして歴史に名を刻んだ事実は変らないのだが。
それに高山はまだ21歳。負けても充分に巻き返しの利く年齢だ。

とっても弱いチャンピオンに挑戦するという、まさに一生に
一度かもしれないチャンスを見事に生かした高山。その意味では、
確かによくやったと言えるだろう。


日本S・フライ級TM 田中聖二vs名城信男

2005年04月04日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
新鋭・名城信男が、6戦目で衝撃の王座奪取を果たした。
最終ラウンドTKOで田中聖二を破り、日本スーパー・
フライ級王座を獲得したのだ。

あくまで雑誌やネットでの観戦記を見ただけでの感想だが、
わずか6戦目なのに、最後まで切れないスタミナが
まず凄いと思った。名城は前々回の試合で日本ランカーの
竹田津を、そして前の試合では何と世界に2度挑んで善戦した
本田秀伸を下し、一気に名を上げた選手だ。

これで、資格の上では充分に世界挑戦してもいい実績を作ったと
言える名城。実際に次で世界タイトルに挑む計画もあるそうだが、
これだけの逸材は滅多に現れるものではないのだから(亀田なんて、
少なくとも現時点では話題先行の色物に過ぎない)、大事にキャリアを
積んで、満を持して挑戦してもらいたいと個人的には思う。

もう一つ衝撃的だったのは、前王者となった田中が
試合後に倒れ、意識不明の重態になってしまったこと。
日本タイトルマッチでこういった事故が起こるのは
非常に稀なことだ。田中選手の回復を祈ります。