ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界S・ライト級TM アルツロ・ガッティvsフロイド・メイウェザー

2005年06月25日 | 海外試合(世界タイトル)
現在のボクシング界において「天才」を見たいのなら、
フロイド・メイウェザーを見るべきだ。とりわけこの試合では、
舞台の大きさ、ガッティとの噛み合わせの良さなどが相まって
最高のパフォーマンスを披露している。

メイウェザーの何が凄いのか。一言で言えば「速さ」である。
手の速い選手はたくさんいる。連打のスピードだけでいえば、
メイウェザーに並ぶ選手もいるかもしれない。彼の速さは、
反射速度の速さなのだ。相手の顔が空いたと思ったら顔に、
ボディが空いたと思ったらもうボディにパンチが入っている。
と言うより、メイウェザーのパンチが当たった後に初めて、
観戦者はガッティの空いていた場所に気付くという感じだ。

まるで相手の時だけが止まっているようだ。相手が止まって
いるから、メイウェザーは好きな時に好きな場所を打てるし、
相手の繰り出すパンチもことごとく避けることができる。
まるで漫画の世界だが、そんな感覚さえ覚えるほど、
常人離れしたスピード差を見せ付けられる。

専門家に言わせると、パンチの打ち方自体は決して良くはない
のだそうだ。確かに打つ時にガードは空いているし、アゴが
上がっている時もある。ただ、あまりに速いのでそれが危ない
感じを与えない。「大振りは駄目だ」「パンチは小さく打て」
普通の選手がトレーナーによく言われる言葉だ。それは、
パンチを出す時にガードが空いて危険だから、あるいは
モーションが大きいパンチは滅多に当たらないからだろう。
そういったセオリーを無にするのがメイウェザーの速さなのだ。

この日の立場は、ガッティがチャンピオンでメイウェザーは
挑戦者。そんなことを忘れさせるほど、メイウェザーの強さは
圧倒的だった。なお、元スーパー・フェザー級、ライト級
チャンピオンのメイウェザーはこれで3階級制覇を達成。
戦績は34戦無敗、しかも驚くべきことにまだ28歳である。
ボクサーとして、まさに脂の乗り切った時期と言えるだろう。

メイウェザー自身は、ウェルター級に上げての4階級制覇も
視野に入れているという。体格やパンチ力、耐久力の差などが
気になるところだが、この日の完成度を見る限り、そんじょそこらの
ウェルター級には負けないような気もする。スーパー・フェザー級
時代には、自分より遥かに体の大きなディエゴ・コラレス相手に
何もさせず一方的なTKO勝ちを収めた実績もある。

ただライト級の時にはタフでしつこいホセ・ルイス・カスティージョに
苦戦していることからも、決して完全無欠のボクサーというわけではない
ことが分かる。しかし逆に言えば、そんな中でも勝ちを拾える技術レベルの
高さをも持ち合わせているということでもある。怖いのは油断だけだが、
ビッグマウスや試合中の相手をあざけるようなパフォーマンスとは裏腹に、
実は相当練習熱心な選手としても知られるメイウェザーである。やはり
まだしばらくは無敗を保ち続けるだろう。

もちろん、人は誰でも年を取る。メイウェザーにだって、いつかは衰えを晒し
無残にノックアウトされる日が来るかもしれない。しかしそんなことより、
今は彼の至上のボクシングを存分に楽しんでおきたいと思う。