ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

戸高秀樹と私

2000年10月20日 | その他
前WBA世界スーパーフライ級チャンピオン、戸高秀樹は
僕と同じ1973年生まれの27歳だ(学年は向こうが一つ上)。
またボクシングを見るようになってまだ日が浅い僕にとっては、
辰吉丈一郎や飯田覚士は「ちょっと上の世代の人」という感じなので、
そういう意味でも初めての「僕らのヒーロー!」なのである。

戸高選手の一番の魅力は、何と言ってもその闘志あふれる戦いぶりだ。
技術的にそれ程ズバ抜けたものを持っているようには見えないが、
攻めていても守っていても常に気持ちが前に出ていることが分かる。

ボクサーとしては27歳という年齢は決して若くはないのだが、
戸高にはいい意味での「青臭さ」が多分に感じられる。
僕の周りでも「もう27なんだし・・・」みたいな、言葉は悪いが
やや守りに入ろうとする人が増えてくる、そういう年齢である。

だから余計に、「まだ何かできるんじゃないか」と思っている
僕みたいな人間にとって、彼の姿はとても励みになるのだ。
プロスポーツは人々に夢を与える商売だ、とよく言われるが、
今まで僕は「なんのこっちゃ」と思っていた。しかし戸高秀樹の
出現によって、初めてそのことが実感できたのだった。

先日の試合で残念ながら敗れ、王座を失ってしまった戸高選手。
自分の応援する選手が負けるのがこんなに辛いことだとは思わなかった。

年齢と蓄積されたダメージのせいで、「もうそろそろ・・・」の
声もチラホラ聞こえるが、嬉しかったのは周りのスタッフや
何より戸高本人が、「このままでは終われない」と力強く再起を
宣言していることだ。

今は充分に休んで欲しい。そしていつかまた、あの熱いファイトを
見せて欲しいと思う。


WBA世界S・フライ級TM 戸高秀樹vsレオ・ガメス

2000年10月07日 | 国内試合(世界タイトル)
こと人気の面に関しては、戸高はついてない男だと思う。

前回のヨックタイ戦で、日本人世界王者としては川島郭志
(対ドミンゴ・ソーサ)以来実に3年半ぶりとなるKO防衛を
果たし、さあこれからという時にガメスに敗れてしまった。
この試合の2日後には、畑山隆則が坂本博之をKOして、
にわかにボクシング人気が復活してきたのである。
ここでガメスに印象的な勝ち方をしていれば、畑山に次ぐ
スターになっていたかもしれない。

この試合、とにかく戸高の調子は悪かった。1ラウンドこそ
まずまずの立ち上がりだったが、2ラウンド以降はあまりに
無防備にガメスの強打を浴びてしまう。しかしこの時点ではまだ、
ヨックタイ戦同様の逆転KOも十分に有り得ると思われた。

しかしラウンドが進んでも、一向に戸高の反撃の狼煙が上がらない。
さすがに「ちょっとヤバいんじゃないか・・・」と不安になる。
インターバル中の様子を見ると、口から異常なほどの出血。
顎を割られてしまったのであろうということが、容易に察せられる。
その後も、いいように打たれる戸高。もう直視できなくなってきた。

そして7ラウンド。ガメスのパンチで、ついに戸高がふらつきを見せる。
ここまで打たれて耐え続けてきたこと自体が凄いが、さすがに
限界のようだ。その直後、戸高が血を吐きながら雄叫びを上げた。
それが最後の抵抗だった。あとはもう、数発のパンチを浴びて
糸が切れたように崩れ落ちてしまった。壮絶なシーンだった。
ボクシングの試合で、こんな壮絶なシーンは今まで見たことがない。

試合後、戸高はそのまま入院。顎は粉々に砕けていた。
それよりも驚いたのは、試合前に既に、眼に負傷を抱えていたことだ。
角度によっては、物が2重3重に見える状態だったという。
絶望的な状況の中、敗れはしたものの凄まじい闘志を見せた戸高。
眼の状態さえ良ければ・・・という思いだけが残った。