ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界Sフライ級TM 徳山昌守vsエリック・ロペス

2002年08月29日 | 国内試合(世界タイトル)
WBC世界スーパー・フライ級王者の徳山昌守が、同級12位のエリック・
ロペスを6回終了TKOに破り、5度目の王座防衛を果たした。
接近してのインファイトを望む挑戦者に対し、徳山は全くその距離を
作らせず、アッパーを中心とした左パンチでロペスの右目を塞ぎ、
レフェリーストップに追い込んだ。まさに完勝と言える。

しかし試合後の徳山は、意外なことを言った。これまでの世界戦の中で、
今日は一番コンディションが悪かったというのだ。そう言われてみると、
確かに徳山の体にはハリがなかったし、パンチのスピードも今ひとつだった。
加えてロペスはラフなハードパンチャーである。間違って大きなパンチを
もらわないとも限らない。つまり今回は本来の実力差のおかげで勝てただけで、
試合内容とは裏腹に実はかなり紙一重と言うか、切羽詰った防衛戦だった
わけだ。セコンド陣はさぞかしヒヤヒヤして見守っていたのだろう。

徳山の最大の敵は、ロペスではなく自分自身だった。10キロ以上と言われる
過酷な減量。そして、戦績も悪く12位という下位ランカーを迎えたことに
よる気持ちの緩み。ロペスは真っ正直に攻めてくるファイターだから無難に
さばけたが、これが世界戦経験も豊富なベテランのテクニシャンだったら、
もしかしたらペースを奪われていたかもしれない。そうなるともう、
ランキングは関係ないのである。

長期政権を築きつつある王者が、レベルの低い相手と防衛戦を重ねることに
より攻め口が単調となり、気づかない内に全体的な力が落ちていくケースは
まま見られる。かと言って、今回の徳山陣営の挑戦者選びが間違っていたとは
僕は思わない。何かと雑音の多い日本人対決、敵地での防衛、最強の相手を
迎える指名試合と、これまでの徳山は精神的にキツイ戦いを続けてきたわけで、
ここで次に予定されている指名試合、難敵ジェリー・ペニャロサとの再戦を
前に、少し楽な相手との防衛戦を挟んでおこうというのは決して悪いこと
ではない。

ただ心配なのは、今回のようなコンディションでペニャロサとの防衛戦を
迎えた場合である。しかしこれもいい方に考えたい。なぜなら徳山自身が、
今回の試合で誰に言われるまでもなく反省点を多く挙げているからだ。

僕は徳山が心身ともに万全でリングに上がれば、もはやペニャロサは
恐れるに足りない相手だとすら思っている。今回の試合に関しても悪いこと
ばかり書いてきたが、ジャブが少なかった分ボディやアッパーを打つなど、
以前よりも左の多彩さが増していた。これは成長した点だ。もちろん、
これがそのままペニャロサに通用するものかどうかは分からないが・・・。

しかし、徳山はもう気の緩みを心配することはない。ペニャロサや
WBA王者のムニョスなど、恐らく今後は強敵ばかりと戦うことになる
だろうからだ。単純に、この両者を下せばV7、そして統一王者である。
堂々たる名王者の仲間入りだ。後は引退するもよし、減量苦を考えて
バンタム級に上げて二階級制覇を狙うもよし。いずれにせよ、
モチベーションには事欠かないはずだ。

打たせないボクシングを徹底する徳山なら、肉体的には30過ぎても
まだまだ一線でやれると思う。気力を保ち続け、ぜひとも歴史に名を刻む
名チャンピオンになってもらいたい。