ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界Sウェルター級TM オスカー・デラ・ホーヤvsフロイド・メイウェザー

2007年05月06日 | 海外試合(世界タイトル)
本当にハイレベルな試合だった。派手なノックアウトやダウンシーンは
なかったが、ボクシングの魅力を充分に堪能できた。

もちろんこのスーパーボクサー同士の対戦に胸を躍らせてはいたが、
正直なところ、ある意味でピークを過ぎた選手同士の試合ではないか、
という思いもあった。デラ・ホーヤは34歳、しかもブランクがある。
メイウェザーは階級を上げたことにより、スピードは多少落ちるだろう。
両者ともに、身体的には必ずしも最高の状態だとは言い切れない。

実際の試合でも、やはりそういったマイナス面は出ていた。
しかしそれ以上に、両者の持っている技術、経験、頭脳などが、
実にスリリングな戦いを演出してくれたのである。

なお、ラウンドごとのポイントは個人的なもので、公式の
ジャッジとは違うのでご了承いただきたい。


第1ラウンド、デラ・ホーヤがいい。メイウェザーのパンチをがっちり
ブロックする。さすがに全てかわし切ることは出来ないが、これだけ
メイウェザーの速いパンチをブロックした選手は過去にいただろうか。
そしてプレッシャーをかけながら接近し、クリンチ際でボディを連打。
ただし、手数ではメイウェザーが上回る。ほとんど差のないラウンドだが、
ボディブローを評価してデラ・ホーヤの10対9。

2ラウンド、デラ・ホーヤが更にプレッシャーを強め、後手に回った
メイウェザーの動きが若干バタバタし始める。デラ・ホーヤの、軽くは
あるが速い連打の中のいくつかが当たり、一方のメイウェザーの
パンチはほとんどブロックされる。10対9でデラ・ホーヤ。

3ラウンド。前進するデラ・ホーヤ、下がるメイウェザーという形が続く。
この戦法に手応えを感じたデラ・ホーヤが強いパンチを狙うが、さすが
メイウェザー、それにはきっちりとカウンターを返す。しかし、体格差の
せいか、1発当たったくらいではデラ・ホーヤはひるまず、逆に連打で
攻め立ててペースを渡さない。このように、メイウェザーのヒットも
いくつかあったのだが、攻勢度の差でデラ・ホーヤのラウンド。

4ラウンド、デラ・ホーヤの勢いが止まらない。メイウェザーの放つ
パンチは距離が遠く、デラ・ホーヤには当たらない。デラ・ホーヤにも
スピードはあるから、一歩間違えばカウンターを浴びかねない。それを
警戒しているのか、メイウェザーのパンチにいつものキレがない。
ロープ際でメイウェザーに腕をホールドされると、もう片方の手で
しつこくボディを連打するデラ・ホーヤ。強いパンチではないが、
何が何でも攻めてやろうという意思が感じられる。デラ・ホーヤの10対9。

ジリ貧の印象が濃くなるメイウェザー。ボクシングは、いかに自分が
攻めやすく守りやすいポジションを確保するかという「陣取り合戦」の
要素もあると思うが、そのポジション争いで完全にデラ・ホーヤが
優位に立っている。

5ラウンドは面白いラウンドだった。このままではマズいと感じたのか、
あるいはデラ・ホーヤの攻撃パターンに慣れてきたのか。メイウェザーが、
若干パンチに力を込めて反撃し始める。それを察知し、警戒感を強めた
デラ・ホーヤの手数が少し減る。とはいえ、ここまで積み上げてきた
いいペースを崩すわけにはいかない。デラ・ホーヤが再び攻めて出て、
メイウェザーをロープに詰める。

そこへ、メイウェザーの右カウンターが2発。1発目は当たりが浅かったが、
2発目は効いた。ガクッと腰を落とすデラ・ホーヤ。そこは踏みとどまった
デラ・ホーヤだが、明らかにペースが落ち、その後も何発かメイウェザーの
ヒットを許す。10対9、メイウェザー。

6ラウンド、ここから一気にペースを引き戻したいメイウェザーだが、
そうそう上手くは行かない。手数こそ減ったものの、決してプレッシャーを
かけることは止めないデラ・ホーヤの前に、効果的なヒットを奪えない。
メイウェザーの方も突然の好機到来に焦ったのか、リング中央で大きな
右を3発、立て続けに空振りする。こんなメイウェザーは珍しい。
逆に、デラ・ホーヤの細かいパンチを浴びるシーンもあり、ここは
10対9でデラ・ホーヤ。

攻めの意識が高まれば、その分守りがおろそかになる。しかしそれも、
ほんの少しのことだ。お互い、ほんの少し攻防のバランスが崩れただけで、
すかさず相手に付け込まれる。何とも気の抜けない戦いだ。

7ラウンド。今度は少し意識を修正してきたのか、メイウェザーの
防御勘が再び冴える。デラ・ホーヤが立て続けに放つジャブを、ほんの
半歩のバックステップでことごとく外し、ロープやコーナーに
詰められても、デラ・ホーヤの嵐のような連打を全てかわし切る。
攻めるデラ・ホーヤ、引くメイウェザーという図式は序盤と同じだが、
何やら形勢が変わってきたようだ。それとともに、ボディへ顔面へと、
メイウェザーのパンチがヒットする。攻勢をかけていたのはデラ・
ホーヤだが、当てていたのはメイウェザー。メイウェザーの10対9。

それを誰よりも感じていたのはデラ・ホーヤだったろう。さすがに
歴戦の勇者だ。8ラウンド、テンポアップした攻撃を仕掛けてペースを
取り戻しにかかる。しかし、それも長くは続かない。この辺りから、
デラ・ホーヤには疲れが出始めたからだ。前進するものの手数は出ず、
ガードも少し緩くなる。そこにメイウェザーのパンチを浴びる。
ただ、集中力や闘志は衰えておらず、メイウェザーの攻撃を最小限に
抑えたところもある。微差でメイウェザーのラウンド。

9ラウンド。前のラウンドでは疲れの見えたデラ・ホーヤだが、再び
気を締め直し、動きに張りが出てきた。この男、やはり只者ではない。
しかし、それを上回ったのがメイウェザーだ。デラ・ホーヤの強い
プレッシャーに煽られ、前半は動きを制限されていた観があったが、
ここへ来て、いつもの滑らかな動きが出始めた。デラ・ホーヤのパンチは
ますます当たらなくなり、数こそまだ少ないものの、メイウェザーは
ヒットを奪った。メイウェザーの10対9。

10ラウンド。デラ・ホーヤが鈍ってきたことで、相対的にそう見える
という部分もあるのだが、メイウェザーのスピードが増してきた。
前半には当たるパンチのバリエーションが極端に限られていたが、
ジャブや左フック、いきなりの右など多彩なパンチをヒット。そして
ラウンド終了間際には、左フックから右ストレートのコンビネーションを
当ててデラ・ホーヤを仰け反らせて、はっきりと優勢をアピール。
メイウェザーのラウンドだ。

11ラウンド。メイウェザーの、ボディへ左、そして顔面へ右という
コンビネーションがよく当たる。ボディが効いたのか、更に動きの落ちた
デラ・ホーヤだが、それでも時おり鋭いパンチを放つため、メイウェザー
としても不用意には詰めて行けない。打っては離れ、打っては離れを
繰り返し、リスクを抑える戦い方だ。最後にデラ・ホーヤも右を当てて
意地を見せるが、全体的にはやはり、メイウェザーのラウンドだった。

いよいよ最終、12ラウンド。劣勢を意識しているのか、あるいは
はっきりしたポイントを挙げて終わりたいのか、デラ・ホーヤが
激しく攻勢をかける。しかし、すっかり波に乗ったメイウェザーは
それを冷静にいなし、シャープなパンチを続けざまに当てる。
それでもデラ・ホーヤの気力は萎えず、最後は乱打の打ち合いで
試合は終わった。メイウェザーの10対9。


判定は割れた。2ポイント差でデラ・ホーヤ、4ポイント差で
メイウェザー、そして最後のジャッジは2ポイント差でメイウェザー。
2対1でメイウェザーが勝利し、5階級制覇を成し遂げた。

ちなみに僕の採点では、115対113でメイウェザーの勝ち。
ただし、微妙なラウンドもいくつかあるし、常に前に出続けた
デラ・ホーヤの攻勢をもう少し評価することも出来るだろうから、
ジャッジ3氏いずれの採点にも理はあると思う。


いずれにせよ、とても面白い試合だった。デラ・ホーヤ陣営が
練りに練ったであろうメイウェザー対策は、かなりの部分で
的を射ていた。メイウェザーは、いつものような奔放な動きが
出来なかった。

しかし、メイウェザーは、ただ運動能力に長けているだけの
ボクサーではない。デラ・ホーヤと同様、数々の強敵と戦うことで、
様々な実戦的スキルを身に付けているのだ。劣勢を強いられた
前半戦を経て、後半にはきっちりペースを引き戻して見せた。
上手く事が運んでいる時だけ強い、のではなく、上手く行かない時でも、
何とか挽回の手を打つことが出来る。それが真の強さだろう。

一方、ポイント上はリードを許した後半のデラ・ホーヤだが、
決していいようにやられていたわけではない。こちらも修羅場を
くぐってきた男の強みを見せ、果敢にメイウェザーに応戦した。


どちらかが勝てば、どちらかが負ける。それが勝負の常だが、
この敗戦は、決してデラ・ホーヤの価値を下げるものではないと思う。

デラ・ホーヤが評価されるとすれば、それは胡散臭い「6階級制覇」
という記録によってではなく、勝つか負けるか分からない強敵に
次々と立ち向かっていった戦歴によるものだろう。その意味では、
敗戦もまた、この男の勲章なのだ。


長らく世界のボクシング界をリードしてきた両雄が繰り広げた、
実に深みのある12ラウンズ。どちらかが無残に打ちのめされる
というようなシーンはなかったわけだが、個人的にはむしろ
その方が良かったとさえ思える。


採点は微妙だった。自分では勝ったと思っていたはずだ。
しかしデラ・ホーヤは、敗れてもなお、爽やかな笑顔を
浮かべていた。今の自分の力は出し切ったという、ある程度の
満足感はあったのだろう。

試合前は悪役に徹していたメイウェザーだが、ボクシングに
取り組む際の、その真摯な姿勢は、多くのボクシングファンが
知っている。

勝った者、敗れた者。両方が称えられるべき好勝負だった。