ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界ミニマム級王座決定戦 ジョマ・ガンボアvs星野敬太郎

2002年01月29日 | 国内試合(世界タイトル)
KOはボクシングの華、とよく言われる。しかしKOばかりがボクシングではない。
ボディ一発で簡単にうずくまってしまうような格下相手に、2ラウンドくらいで
KO勝ち。そんな試合を見たところで、面白くも何ともない。要は内容である。

星野敬太郎の試合は面白い。決してKOパンチャーではない。しかしその
鉄壁のディフェンス、シャープで多彩なジャブ、冷静で緻密な試合運びは
極めて上質で、まるで優れた芸術作品を見るような気分にさせてくれる。

そんな星野の「最高傑作」とも思えたのが、昨日のWBA世界ミニマム級
王座決定戦、ガンボア小泉を相手に繰り広げた12ラウンズだ。
この両者は昨年12月、ガンボアが王者、星野が挑戦者という形で初対戦し、
星野が僅差の判定勝ちで新チャンピオンに輝いている。

しかし星野は初防衛戦で、大ベテランのチャナ・ポーパオインに微差ではあるが
判定負けを喫し、ベルトを失った。この試合の星野は、本調子には程遠かった。
初防衛のプレッシャーや周囲の環境の変化によって思うように練習できず、
おまけに風邪まで引いてしまった。しかしそれより大きかったのは、星野の
スタイルの変化だと思う。

本来は技巧派の星野が、「勝って当然」とまで言われたチャナをKOするために
筋力トレーニングに励み、攻撃的なボクシングを身に付けようとしたのだ。
結果として試合では、倒そうと力んだ星野の大振りが目立ち、ガードが甘くなった
所にチャナの小さなパンチを浴び続けてポイントを失った。

31歳という年齢もあって、周囲だけでなく本人も「引退」を考えたというが、
結局、星野はリングに戻ってきた。「まだ強くなれる」という確信があったからだ。
その後、チャナからベルトを奪った新井田豊が突然の引退。王座は空位となった。
この間に32歳になっていた星野に、またチャンスが巡ってきた。WBA2位に
ランクされていた星野は、3位のガンボアと王座決定戦を行うことになったのだ。

「まだ強くなれる」という星野の言葉は、このガンボアとの再戦で見事に証明された。
「前回は油断があった」と万全を期してきたガンボアだが、そのスタイル自体は前回と
変わりなかった。それに対し、星野はガンボアの動きをすでに読み切っていたのだ。
星野のような頭のいいボクサーに、同じ戦い方は二度と通じない。ガンボアのパンチを
最小限の動きでかわし、逆にカウンターを次々と当てていった。

一つ一つの動きに、星野の自信が見て取れた。ガンボアは右に驚異的な破壊力を
秘めている。だから不用意に左を出すと、右カウンターの餌食になる危険がある。
にもかかわらず星野は、左ジャブを3連発でヒットさせた。ガンボアのカウンター
など、とっくに見切っていたのだ。そして4発目はすかさずボディへ。

チャナ戦では裏目に出ていたパワーアップも、ここへ来て実を結びつつあった。
本来の堅いガードを取り戻した上に、接近戦でもこれまで見せなかったような
ショート連打を放つ。しかもそれがことごとくカウンターとなって、ガンボアの
アゴにヒットするのだ。「国内屈指のテクニシャン」と呼ばれる星野。それは
言い方を変えれば「すでに完成された選手」という評価でもあったのだが、
星野は32歳となった今になっても、間違いなくレベルアップしていたのだ。

後半はもう星野の独壇場。強打を誇るガンボアを、慎重なテクニシャンの星野が
大胆に攻め立てる。これは余程の余裕、力の差を感じなければ出来ないことだ。
もはやガンボアには成す術もなく、逆転KO狙いの大振りは空を切るばかり。
そこをさらに星野のカウンターが捉え、大歓声の内に試合終了のゴングが鳴った。
あと1ラウンドあれば倒せただろうが、判定は文句なく星野。王座奪回に成功した。

32歳でベルトを巻いた日本人は、他にはあの輪島功一しかいない。明らかに偉業
なのだが、星野の動きは年齢を感じさせないどころか、今まさに全盛期にある、
とさえ思わせるものだった。「40歳になっても現役でいたい」という試合後の
星野の言葉も、決してオーバーには聞こえない。事実、テクニシャンはパンチを
あまりもらわないので、海外でも長く選手生活を続けているボクサーが多いのだ。

星野、徳山、小林と、奇しくも今世界のベルトを巻いている3人は、確かな
テクニックを持った「職人」たちばかりである。これは実に素晴らしいことだ。
倒し倒されの無骨な打撃戦を喜ぶ傾向にある日本のファンだが、これを機に
もっとディフェンスや駆け引きの妙を堪能してもらいたい。
実はそこにこそ、ボクシングの醍醐味があるのだから・・・。