ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界Sフライ級TM 徳山昌守vsホセ・ナバーロ

2006年02月27日 | 国内試合(世界タイトル)
実に「つまらない」試合だった。そしてそれこそが、まさに徳山の真骨頂、
徳山ボクシングの集大成だった。

序盤はスピードとタイミングに優れた左ジャブと右ストレートで圧倒し、
スタミナの切れた後半はクリンチの連発で危機を回避。そして終盤には、
劣勢を意識し攻めにはやる挑戦者にカウンターを決めて勝負を決定づけた。
恐ろしく地味で退屈な戦法ではあるが、これが徳山の勝利の方程式であり、
最強の挑戦者ナバーロ相手にそれをやり切ってしまったところが素晴らしい。

これで世界戦12戦11勝、通算防衛回数は9。まぎれもなく名チャンピオンと
呼ぶに値する実績である。にもかかわらず、徳山の試合には常に不安と緊張がある。
1ラウンドの動きはいつもどこかぎこちなく、7ラウンドか8ラウンドには必ず失速。
時には相手の真正面にノーガードで立ち、危険な距離で打ち合って被弾することも
あった。比較的安心して見ていられたのは、柳光戦、ロペス戦、キリロフ戦ぐらいの
ものではなかっただろうか。

しかし、そんな不安定さを見せながらも、未だに世界戦で実力負けしたことがない
というのは凄いことだ。特に、チョ、ペニャロサ、キリロフ、ナバーロといった
各国屈指のテクニシャンを技術で押さえ込んだ事実は偉業としか言いようがない。

徳山の最大の武器は、相手の良さを封じる能力だ。クリンチやフットワークで距離を
潰すことによって、あるいはジャブやフェイントで攻め気を削ぐことによって、相手の
一番得意とするパンチや攻撃の起点としているパンチを打たせない。以前にもどこかに
書いたが、そのため徳山と対戦する選手は、実際より弱く見えてしまうのである。

ナバーロは川嶋戦に続き、世界戦2連敗。シドニー五輪アメリカ代表という肩書を持ち、
プロで頂点を極めることをほぼ確実視されていたであろう男にとっては、全く予想外の
結果と言えるだろう。

川嶋戦に関しては、ナバーロ陣営は「地元判定によって負けにされた」と
考えていたし、僕もあの試合はナバーロの勝ちだと思った。それゆえ再び敵地に
乗り込んだ今回、ナバーロは前回以上にアグレッシブに攻めるつもりでいたに違いない。
試合前の「KO宣言」にもそれは表れていた。KO率が5割に満たないナバーロは本来、
必ずしもKOにこだわらないスタイルのはずだが、「もっとはっきりと攻勢を
取らなければ敵地では勝てない」と判断したのだろう。

ところが試合では、ナバーロはこれといった効果的なヒットを奪うことが出来なかった。
攻めたい気持ちは充分にあるが、どう攻めたらいいのか分からない、といった感じに見えた。
豊富なアマチュア実績を誇るボクシング大国アメリカのテクニシャンが、ほとんどただの
愚直なファイターにさえ見えたのである。

もちろんリング上では、見る者には分からない高度な駆け引きが繰り返されていたに
違いない。しかし、その駆け引きの内容は分からなくとも、パンチを当てるという結果に
よって、徳山が常に駆け引きの面で上回っていたことは明らかになった。

ナバーロを自分の技術の中にすっぽり嵌めてしまうことで、見た目以上の完勝を挙げた徳山。
試合後のインタビューでは、2週間前にバイクで転倒して手や足を痛めていたという
驚きの事実を明かしていた。その間は当然ほとんど練習も出来ず、よって減量にも苦しんだ。
そんな苦しい状況の中で最強の挑戦者を破ったのは、ひとえにこれまで培ったリングキャリアの
賜物だ。調子が悪くても、悪いなりに戦う術を熟知しているのだ。これこそ真の王者と
言っても過言ではないだろう。

そしてインタビューでは、かねてからの関心事、つまり戦前から「引退」を意識させる
発言を繰り返していた徳山の今後についても話題が向けられたが、とりあえず「WBCの
スーパー・フライ級は卒業」という従来の意向を再度表明しただけだった。

一夜明けての記者会見では、現役続行を願う会長の説得などもあったようでさらに歯切れが
悪く、前夜の王座返上宣言も「まだ分からない」とトーンダウンしていた。川嶋に雪辱して
王座に返り咲いた時点で既に引退の気持ちが強かっただけに、本人の中では「今の状態では
9割がた引退」という方向に傾いているようだが、全精力を注ぎ込んだ試合が終わったばかり
ということもあるし、何も早急に結論を出す必要はないだろう。個人的には、怪我を治した
ベストの状態で、徳山のボクシングをもう一度見てみたいと思うのだが・・・。

ボクシングニュースあれこれ

2006年02月18日 | その他
・試合を行うことすら把握していなかったが、16日、WBC世界フライ級王者の
 ポンサクレック・ウォンジョンカムがタイで13度目の防衛戦を行い判定勝ちした。
 試合内容は分からないが、安定感は相変わらずのようだ。

・かつての名古屋のホープの一人、日本スーパー・フライ級2位の小懸(おがた)新が
 網膜剥離で引退するという。小懸は4月に日本王座決定戦への出場が予定されて
 いたが、志半ばでリングを去ることになった。浅井勇登との名古屋対決では後半に
 追い上げられドロー、2度の東洋王座挑戦に失敗。ここ一番で勝てず評価を落とした
 小懸だが、石原英康が引退した後の松田ジムを引っ張る存在だった。

・フィリピンのナンバーワン・ホープ、ロデル・マヨールの世界挑戦がついに実現。
 1月に行われたWBC挑戦者決定戦で圧勝し(4ラウンドKO)、改めてその
 強打を見せつけたマヨール。4月か5月にイーグル京和に挑戦する見通しだ。
 日本のジムに所属し、世界王座を掴んで極貧状態を脱したタイ人のイーグル。
 攻防ともレベルの高い王者だが、マヨールも強い。緊張感を孕んだ一戦になりそうだ。

・昨年1月、WBA王者パーラに判定負けした直後に引退を表明していた
 トラッシュ中沼が引退を撤回。3月に再起戦を行うようだ。国内ではトップレベルの
 選手であった中沼だが、2度の世界挑戦では一発狙いのスタイルが通用せず空転。
 果たしてスタイル改造はあるのだろうか。

・今月発売の「ボクシング・マガジン」に、現役世界王者同士の豪華スパーリングの
 模様がレポートされていた。WBC世界スーパー・フライ級王座に返り咲いた
 徳山昌守と、WBC世界バンタム級王者・長谷川穂積という、今の日本を代表する
 テクニシャン同士のスパーだ。内容は徳山が圧倒していたというので驚いた。

 より試合が近い徳山の方がコンディションの面で上回っていたことも確かだが、
 初防衛戦で鮮烈なTKO勝利を収めて評価を高めた長谷川と、かつてはWBC王座を
 8度も守りながら、地味な試合振りのせいで評価の上がらなかった徳山。しかし
 そのキャリアは伊達ではなかったようだ。これはますますナバーロ戦が楽しみだ。

・最後に、今月初めに行われた2試合の結果を遅ればせながら報告。
 4日の西岡利晃とウーゴ・バルガスの一戦は、西岡が決め手を欠きながらも
 無難に判定勝ち。世界1位の貫禄は見せられなかった。

 湯場忠志が巻き返しを狙って世界ランカーのマサ・バキロフに挑んだ8日の
 試合は、湯場がダウンを奪って見せ場を作りながら、技術で圧倒され判定負け。
 これで2連敗となった湯場は、引退を匂わせる発言も。

日本フライ級TM 内藤大助vs中広大悟

2006年02月13日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
毎年、国内の実力者同士が拳を交える「チャンピオン・カーニバル」。
その中で今回最も注目を集めたこの試合だが、期待通りの熱戦とまでは行かず、
両者ベストパフォーマンスを見せ切れないまま判定で内藤が辛くも勝利を
収めた。内藤はこれで日本タイトル3度目の防衛。

前半の攻防はなかなか見応えがあった。話題の新鋭・中広は確かにいいものを
持った選手で、ガードがルーズになる内藤の打ち終わりに、右クロスがよく当たる。
ただいかんせん単発で、一発のパンチ力に欠ける中広としては、やはり連打で
崩したかったところだ。逆に言えば、もし中広にもう少しパンチ力があれば
内藤がぐらつくシーンもあったのではないかと思わせた。

一方の内藤も、顔面へのパンチがなかなか当たらないと見るやボディを中心に
攻め立て、キャリアの豊かさを印象づける。また、打ち終わりのガードこそ
低いものの、中広に連打を許さないだけのディフェンスの巧みさも見せた。

ところが、終盤に入って両者は失速する。それが特に目立つのは内藤の方だ。
前半で強烈なボディを再三もらった中広の失速は理解できるが、内藤のこの
疲れ具合はどういうことなのだろう。もともとスタミナに難があると言われて
きた内藤だが、それだけでは説明がつかないような気がする。疲れというより、
この終盤の戦いぶりにはどうも覇気が感じられないのだ。

とにかく、相対的には中広の方がまだ元気に見える。やはり攻めは雑になって
きているものの、細かいパンチを当てていく。しかし内藤も時折反撃し、決して
相手に完全にペースを渡してしまうわけではない。この辺りはベテランらしい
したたかさと言えるだろう。

判定は2対1。ジャッジ3者のうち1人は中広を4ポイント優勢とし、
残る2人は僅差で内藤の勝ちと見ていた。中広の勢いを取るか、内藤の巧さを
取るかで見方が分かれたようだ。確かにどちらを優勢とするか迷うような
微妙なラウンドも多く、決して内藤が王者の風格を示したとは言いがたいが、
結局、苦しい展開でもどうにか凌ぎ切ったチャンピオン内藤が、経験値の面で
一枚上手だったということだろう。

試合前も試合後も、内藤は「モチベーションが上がらない」というようなことを
語っていたが、それがそのまま試合に出てしまったのかもしれない。世界戦での
敗北がまだ尾を引いているのか、それとも、内藤にとって世界戦はあまりにも
刺激的で、もう日本タイトルマッチくらいでは燃えることが出来なくなって
しまっているのか。いずれにせよ、本調子でなかったことだけは確かだ。

しかし、世界戦のチャンスなどはそう簡単に巡ってくるものではない。
試合後、内藤は東洋太平洋チャンピオンの小松則幸との対戦に意欲を示していたが、
それも、今の内藤がどうにかして高いモチベーションを得ようと苦心している
ことの表れではないだろうか。

惜しくも敗れた中広に関してだが、正直に言って期待したほどではなかった。
身体能力の高さが評判の選手だったので、もっと見る者を驚かせるような
パフォーマンスを期待してしまったが、あくまで普通の好選手という印象だった。

攻防ともそれなりに高い能力を持っているが、挑戦者としてジャッジに充分アピール
するだけの攻勢をかけることは出来なかった。内藤に疲れが見えた後半はいい
ペースを掴みかけたのだから、そこでもう少し大胆に攻めるべきだったと思う。
こういったタイプの選手は、それこそ小さくまとまってしまう可能性もあるが、
何かのきっかけで大きく成長することもある。今後の中広にも注目したいところだ。

日本Sバンタム級TM 福原力也vs酒井俊光

2006年02月11日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
前回、世界ランカーでもあった無敗の木村章司を破って王座を奪った
福原が、やや苦しみながらも8回TKOで初防衛に成功した。

福原を初めて見たが、ずいぶん動きの硬い選手だ。筋骨隆々とした
体つきが目を引くが、その筋肉がむしろ動きを硬くしているように
感じた。パンチは力まかせで、空振りも少なくなかった。
しかし確かにパンチ力はありそうだ(17勝13KO)。

対する酒井はひたすら前へ出るファイター・タイプ。しかし前に出るだけで、
いかんせんこれはというヒットがない。パンチ力にも欠けるようだ。
序盤は相手のやみくもな突進に距離を潰され空回りしていた福原だが、
足を使うなどして少しづつ距離を掴んできたようだ。酒井の入り際に、
いかにも硬そうなアッパーなどをヒット。3ラウンド辺りから、流れは
はっきりと王者に傾いた。

ハードパンチャーというと防御に甘さのある選手が多いが、福原は比較的
ディフェンスもいいようだ。早々に距離感を掴むキャリア、ディフェンス力、
そしてパンチ力。あらゆる面で福原が上であることが分かってきた。

パンチも回を追うごとにヒット率を増し、こうなると「いつ倒すか」が
焦点となってくるが、酒井は異常なまでに打たれ強かった。何度も
ぐらつきながら、ダウンすることは拒否。しかし反撃の手も減り、
かといってガードも緩いため福原に打たれっぱなしで、危険な雰囲気も
漂い始める。ただ、福原の方も序盤からよく動き、よく打っているせいか
かなり疲れが出て来て、なかなかフィニッシュに持っていけない。

そして8ラウンド。リング中央で放った右アッパー、左フックで酒井の
動きが止まり、それを見た福原が一気にスパート。疲れた体にムチを打ち、
「ここで倒し切る」という強い意志を前面に出した気迫の連打だ。
酒井も手を出すが、それはもうガードががら空きになるというマイナスの
効果しか生み出さなかった。カウンター気味にチャンピオンのパンチを
貰い続け、20秒ほど連打にさらされ、ようやくレフェリーが試合を止めた。

ちょっとストップが遅いのではとも感じたが、酒井も手を出しており、
止めるタイミングは難しかったのだろう。酒井の打たれ強さと、ピンチの
時にも手を出す気の強さが、かえって危険な状態を作ってしまった。
担架で運ばれた酒井に不安がよぎったが、大事には至らなかったようだ。
KO劇の興奮より、酒井のダメージへの心配の方が先立った試合だった。


なお、この試合のセミファイナルでは、世界ランカーのプロスパー松浦が
何と日本ランカーの河野公平にKO負けするという波乱があった。
松浦は全く調子が出ず、終始河野の突進を止め切れない展開での惨敗だった。
不調を差し引いても、松浦は線が細すぎると感じた。いい素質を持っては
いるのだが、ファイター型の選手には必ず力負けし、押し込まれてしまう。
このまま引退の可能性もあるが、もし再起するのなら、もう少し頑丈な
体作りが求められるだろう。

2月のボクシング(海外編)

2006年02月04日 | 海外試合(その他)
海外では、ボクシングの試合日程は目まぐるしく変動する。
雑誌で情報を仕入れ、いよいよかと楽しみにしていても結果が
伝わってこず、調べてみたら延期になっていた、なんてケースが
嫌になるほど多い。

とりあえず、専門誌「ワールド・ボクシング」のサイトから、
今月の予定を拾ってみた(日付は現地のものと思われる)。


3日、WBC世界フェザー級暫定タイトルマッチ。
王者ウンベルト・ソト対ホルヘ・ソリス。

4日、ノンタイトル戦。WBC&WBOライト級王者の
ホセ・ルイス・カスティージョ対ロナルド・レイジェス。

同じく4日。WBA世界スーパー・バンタム級暫定タイトルマッチ、
王者セレスティノ・カバジェロ対ロベルト・ボニージャ。

18日、WBO世界ウェルター級タイトルマッチ。
王者アントニオ・マルガリート対マヌエル・ゴメス。

同興行で、WBC世界ライト・フライ級タイトルマッチ。
王者ブライアン・ビロリア対ホセ・アントニオ・アギーレ(元WBCミニマム級王者)。

同興行でもう一つ。WBO世界ミニマム級タイトルマッチ、
王者イバン・カルデロン対イサック・ブストス(元WBC王者)。

25日、元世界王者同士、スター選手同士のビッグマッチ。
シェーン・モズリー対フェルナンド・バルガス。

同じく25日、WBA世界スーパー・フェザー級挑戦者決定戦。
エドウィン・バレロ対ワイベル・ガルシア。


実は今月、既に2つのビッグマッチが延期されている。4日に
インドネシアで行われるはずだったWBA世界フェザー級タイトルマッチ、
クリス・ジョン対ファン・マヌエル・マルケスの試合と、同日アメリカで
開催予定だったWBC&WBO世界ライト級タイトルマッチ、
ホセ・ルイス・カスティージョ対ディエゴ・コラレスの試合だ。

ジョン対マルケスはこれまで何度も延期されていて、またかという印象。
カスティージョとコラレスは3度目の対戦で、過去2度はいずれも大激闘を
繰り広げた人気のカードだった。カスティージョはその日にノンタイトル戦を
行うことになったので、どうやらコラレス側に何か問題があったのだろう。

個人的に注目したいのはスーパー・バンタム級の動きだ。長らく固定されていた
トップの座が、ここへ来て変動を見せつつあるのだ。WBA王者のマヤル・
モンシプールが、相次ぐ激闘の影響かブランクを作り、それによっていつの間にか
暫定王者が誕生していた。また、WBC王座を9度も防衛してきたオスカー・
ラリオスが、昨年12月にIBF王者イスラエル・バスケスとの統一戦に敗れた。
統一王者が生まれると、両団体の様々な思惑が絡み合い、タイトルマッチが
頻繁に行われなくなることが多く、そうなると暫定王者が立てられるかもしれない。

スーパー・バンタム級といえば、日本人で最も高ランクに位置しているのが
西岡利晃である。WBCでは1位、WBAは3位。両団体とも正規のチャンピオンの
動向が不透明な代わりに、暫定王座にチャレンジできる可能性も高まってきた。
これはますます、今日(4日)の試合を落とすわけにはいかないだろう。

2月のボクシング(国内編)

2006年02月04日 | 国内試合(その他)
2月の試合予定をざっと拾っておきたいと思う。


まずは今日(4日)、WBC世界スーパー・バンタム級1位の西岡利晃が
WBC同級22位のウーゴ・バルガスとノンタイトル戦を行う。
バルガスはWBCカリブ王座というよく分からないタイトルを持っており、
今までの戦績は27戦13勝9敗1分、うちKO勝ちが7つだそうだ。
ちなみに西岡は、33戦26勝(15KO)4敗3分。戦績から言っても
ランキングから言っても明らかに西岡が格上であり、すっきり勝たなければ
いけない相手だと言える。

前回の試合では元東洋太平洋王者のペドリト・ローレンテに苦戦している西岡。
「世界に最も近い男」と言われ続けながら、ウィラポンへの挑戦は4度に渡って
失敗し(2敗2引き分け)、いつの間にか29歳になってしまった。若手という
イメージがあったが、もうとっくにベテランである。ウィラポンに敗れた後
バンタム級からスーパー・バンタムにクラスを上げ、大した実績も挙げていないのに
なぜかすぐ1位にランクイン。その後も大した実績を残していないのにずっと
1位のままなのは不可解だが、ともかく5度目の世界挑戦を実現させるためには、
22位の選手「ごとき」に手こずるわけにはいかない。


そして明日5日は、名古屋でダブル東洋太平洋タイトルマッチ。杉田竜平が
ランディ・スイコに、大場浩平がマルコム・ツニャカオにそれぞれ挑戦する。
これはずっと楽しみに待っていた試合だ。出来れば生で観たかったが、既に
チケットは完売らしい。名古屋のボクシング興行で「ソールド・アウト」なんて
あまり聞いたことがない。次代のスター候補である大場への期待感は、僕の
予想以上に高まっているのかもしれない。最近はやや見限られてきた感のある
杉田にしても、まだ根強いファンは多いのだろう。

相手はいずれも世界レベルの強豪である。当然楽観的な予想は立てられないが、
マッチメークだけでドキドキさせられる試合なんて名古屋では実に稀なのだから、
その興奮を純粋に楽しみたいと思う。本当に、一体なぜこんな興行が実現したのか
不思議なほどだ。噛ませ犬ばかりを連れてくる弱気なマッチメークや、悪名高い
地元判定の酷さなどで、これまで名古屋のボクシングファンは肩身の狭い思いを
してきたが、今回ほど「名古屋にいて良かった」と思える試合も少ない。

明日は全国のボクシングファンの注目が名古屋に集まる。両者の健闘を期待するのは
もちろんだが、それ以上に、とにかく公正なジャッジメントをお願いしたい。
ここで「名古屋判定」など起きようものなら、もう永遠に名古屋は笑いものだ。


この他にも2月は注目カードが目白押しだ。8日には前日本ウェルター級王者の
湯場忠志が、世界8位のマサ・バキロフと対戦する。湯場はこれが再起戦。
前回は衝撃の1ラウンドKO負けで王座を失った湯場。再起戦といえば、普通は
「手頃な相手」を呼んでくるものだが、いきなり世界ランカーに挑むとは驚きだ。
その素質を常に高く評価されながらも、大事なところで星を落としてきた湯場に
してみれば、「もう後がない」という思いもあるのだろう。また、バキロフが
肩書きの割には強さを感じさせないのも事実で、世界ランクを手に入れようと
思った時、これほどおいしい相手もいない、と陣営は考えているのかもしれない。

追い込まれた湯場が潜在能力を発揮するのか、あるいはバキロフが世界ランカーの
意地を見せるのか。正直に言って、どんな展開になるのか読めない試合である。


11日は、日本スーパー・バンタム級チャンピオン福原力也の初防衛戦。
これは毎年恒例の「チャンピオン・カーニバル」の一環のため、いきなりランキング
1位の酒井俊光が相手だ。原則的に「最強の挑戦者」を迎えるのがチャンピオン・
カーニバルの理念である。

また、この日のセミファイナルも興味深い。先日の日本タイトルマッチ(同時に
世界挑戦者決定戦でもあった)で惜しくも敗れたプロスパー松浦が、日本ランカーの
河野公平と対戦するのだ。松浦は世界6位、河野は日本7位。松浦は格の違いを
見せたいが、同時に足元をすくわれないように気をつけなければならない。


13日はそのチャンピオン・カーニバルの中でも屈指の好カードの一つが見られる。
日本フライ級タイトルマッチ、王者の内藤大助と、1位の中広大吾の激突だ。
内藤は2度の世界挑戦に失敗しているとはいえ、世界王者以外には未だ負けなし。
国内トップの評価は揺らいでいない。しかし中広も期待の新鋭だ。元世界ランカーを
KOし、日本ランカーにも圧勝。ここまで無傷の13連勝を誇る。

キャリアでは王者が圧倒的に上回るが、気になるのはメンタル面だ。内藤にとっては、
防衛戦でありながら世界戦に敗れた後の「再起戦」でもある。気持ちの持っていき方は
なかなか難しいのではないだろうか。一方の中広には、無敗で駆け上がってきた
「勢い」がある。ましてや挑戦者であるから、気持ちの面で迷いはないだろう。
とはいえ、両者のこれまで辿ってきた道筋が違い過ぎるので、現時点での戦力比較は
しにくい。終わってみれば「やっぱり内藤は強かった」ということになるのか、あるいは
「噂通り中広は凄かった」ということになるのか。とにかく非常に楽しみだ。


これだけではない。18日には日本ミドル級タイトルマッチ、20日には日本
バンタム級タイトルマッチ。そして27日には、WBC世界スーパー・フライ級
タイトルマッチが控えている。王座に返り咲いた徳山昌守が、「2度目の初防衛戦」で
いきなり1位のホセ・ナバーロと対戦するのだ。これも、もうずっと前から楽しみに
していた試合である。世界戦10勝1敗のキャリアを誇る実践派テクニシャンの徳山と、
シドニー五輪アメリカ代表という肩書きを持ち、アマチュアの王道を歩んできた
ナバーロ。果たしてどちらのテクニックが優れているのか。ボクシングの粋を集めた、
緊迫感のある技術戦になるだろう。

ただ、心配なのは徳山のコンディションだ。前回の川嶋戦ではパワーとスピード、
テクニックを融合させた素晴らしいボクシングを展開したが、川嶋のパワーに対抗する
ために敢行した筋力アップに伴い、ただでさえ長身の徳山の減量苦はもはや極限にまで
来ているはずだ。また、川嶋に雪辱し返り咲きを果たした直後には「引退宣言」まで
飛び出したほどだから、モチベーションの低下も気になるところだ。最終的には
「スーパー・フライ級はこれで卒業」という発言に落ち着いた徳山が、果たして
「徳山ボクシングの集大成」を見せてくれるのか。好試合を期待したい。