実に「つまらない」試合だった。そしてそれこそが、まさに徳山の真骨頂、
徳山ボクシングの集大成だった。
序盤はスピードとタイミングに優れた左ジャブと右ストレートで圧倒し、
スタミナの切れた後半はクリンチの連発で危機を回避。そして終盤には、
劣勢を意識し攻めにはやる挑戦者にカウンターを決めて勝負を決定づけた。
恐ろしく地味で退屈な戦法ではあるが、これが徳山の勝利の方程式であり、
最強の挑戦者ナバーロ相手にそれをやり切ってしまったところが素晴らしい。
これで世界戦12戦11勝、通算防衛回数は9。まぎれもなく名チャンピオンと
呼ぶに値する実績である。にもかかわらず、徳山の試合には常に不安と緊張がある。
1ラウンドの動きはいつもどこかぎこちなく、7ラウンドか8ラウンドには必ず失速。
時には相手の真正面にノーガードで立ち、危険な距離で打ち合って被弾することも
あった。比較的安心して見ていられたのは、柳光戦、ロペス戦、キリロフ戦ぐらいの
ものではなかっただろうか。
しかし、そんな不安定さを見せながらも、未だに世界戦で実力負けしたことがない
というのは凄いことだ。特に、チョ、ペニャロサ、キリロフ、ナバーロといった
各国屈指のテクニシャンを技術で押さえ込んだ事実は偉業としか言いようがない。
徳山の最大の武器は、相手の良さを封じる能力だ。クリンチやフットワークで距離を
潰すことによって、あるいはジャブやフェイントで攻め気を削ぐことによって、相手の
一番得意とするパンチや攻撃の起点としているパンチを打たせない。以前にもどこかに
書いたが、そのため徳山と対戦する選手は、実際より弱く見えてしまうのである。
ナバーロは川嶋戦に続き、世界戦2連敗。シドニー五輪アメリカ代表という肩書を持ち、
プロで頂点を極めることをほぼ確実視されていたであろう男にとっては、全く予想外の
結果と言えるだろう。
川嶋戦に関しては、ナバーロ陣営は「地元判定によって負けにされた」と
考えていたし、僕もあの試合はナバーロの勝ちだと思った。それゆえ再び敵地に
乗り込んだ今回、ナバーロは前回以上にアグレッシブに攻めるつもりでいたに違いない。
試合前の「KO宣言」にもそれは表れていた。KO率が5割に満たないナバーロは本来、
必ずしもKOにこだわらないスタイルのはずだが、「もっとはっきりと攻勢を
取らなければ敵地では勝てない」と判断したのだろう。
ところが試合では、ナバーロはこれといった効果的なヒットを奪うことが出来なかった。
攻めたい気持ちは充分にあるが、どう攻めたらいいのか分からない、といった感じに見えた。
豊富なアマチュア実績を誇るボクシング大国アメリカのテクニシャンが、ほとんどただの
愚直なファイターにさえ見えたのである。
もちろんリング上では、見る者には分からない高度な駆け引きが繰り返されていたに
違いない。しかし、その駆け引きの内容は分からなくとも、パンチを当てるという結果に
よって、徳山が常に駆け引きの面で上回っていたことは明らかになった。
ナバーロを自分の技術の中にすっぽり嵌めてしまうことで、見た目以上の完勝を挙げた徳山。
試合後のインタビューでは、2週間前にバイクで転倒して手や足を痛めていたという
驚きの事実を明かしていた。その間は当然ほとんど練習も出来ず、よって減量にも苦しんだ。
そんな苦しい状況の中で最強の挑戦者を破ったのは、ひとえにこれまで培ったリングキャリアの
賜物だ。調子が悪くても、悪いなりに戦う術を熟知しているのだ。これこそ真の王者と
言っても過言ではないだろう。
そしてインタビューでは、かねてからの関心事、つまり戦前から「引退」を意識させる
発言を繰り返していた徳山の今後についても話題が向けられたが、とりあえず「WBCの
スーパー・フライ級は卒業」という従来の意向を再度表明しただけだった。
一夜明けての記者会見では、現役続行を願う会長の説得などもあったようでさらに歯切れが
悪く、前夜の王座返上宣言も「まだ分からない」とトーンダウンしていた。川嶋に雪辱して
王座に返り咲いた時点で既に引退の気持ちが強かっただけに、本人の中では「今の状態では
9割がた引退」という方向に傾いているようだが、全精力を注ぎ込んだ試合が終わったばかり
ということもあるし、何も早急に結論を出す必要はないだろう。個人的には、怪我を治した
ベストの状態で、徳山のボクシングをもう一度見てみたいと思うのだが・・・。
徳山ボクシングの集大成だった。
序盤はスピードとタイミングに優れた左ジャブと右ストレートで圧倒し、
スタミナの切れた後半はクリンチの連発で危機を回避。そして終盤には、
劣勢を意識し攻めにはやる挑戦者にカウンターを決めて勝負を決定づけた。
恐ろしく地味で退屈な戦法ではあるが、これが徳山の勝利の方程式であり、
最強の挑戦者ナバーロ相手にそれをやり切ってしまったところが素晴らしい。
これで世界戦12戦11勝、通算防衛回数は9。まぎれもなく名チャンピオンと
呼ぶに値する実績である。にもかかわらず、徳山の試合には常に不安と緊張がある。
1ラウンドの動きはいつもどこかぎこちなく、7ラウンドか8ラウンドには必ず失速。
時には相手の真正面にノーガードで立ち、危険な距離で打ち合って被弾することも
あった。比較的安心して見ていられたのは、柳光戦、ロペス戦、キリロフ戦ぐらいの
ものではなかっただろうか。
しかし、そんな不安定さを見せながらも、未だに世界戦で実力負けしたことがない
というのは凄いことだ。特に、チョ、ペニャロサ、キリロフ、ナバーロといった
各国屈指のテクニシャンを技術で押さえ込んだ事実は偉業としか言いようがない。
徳山の最大の武器は、相手の良さを封じる能力だ。クリンチやフットワークで距離を
潰すことによって、あるいはジャブやフェイントで攻め気を削ぐことによって、相手の
一番得意とするパンチや攻撃の起点としているパンチを打たせない。以前にもどこかに
書いたが、そのため徳山と対戦する選手は、実際より弱く見えてしまうのである。
ナバーロは川嶋戦に続き、世界戦2連敗。シドニー五輪アメリカ代表という肩書を持ち、
プロで頂点を極めることをほぼ確実視されていたであろう男にとっては、全く予想外の
結果と言えるだろう。
川嶋戦に関しては、ナバーロ陣営は「地元判定によって負けにされた」と
考えていたし、僕もあの試合はナバーロの勝ちだと思った。それゆえ再び敵地に
乗り込んだ今回、ナバーロは前回以上にアグレッシブに攻めるつもりでいたに違いない。
試合前の「KO宣言」にもそれは表れていた。KO率が5割に満たないナバーロは本来、
必ずしもKOにこだわらないスタイルのはずだが、「もっとはっきりと攻勢を
取らなければ敵地では勝てない」と判断したのだろう。
ところが試合では、ナバーロはこれといった効果的なヒットを奪うことが出来なかった。
攻めたい気持ちは充分にあるが、どう攻めたらいいのか分からない、といった感じに見えた。
豊富なアマチュア実績を誇るボクシング大国アメリカのテクニシャンが、ほとんどただの
愚直なファイターにさえ見えたのである。
もちろんリング上では、見る者には分からない高度な駆け引きが繰り返されていたに
違いない。しかし、その駆け引きの内容は分からなくとも、パンチを当てるという結果に
よって、徳山が常に駆け引きの面で上回っていたことは明らかになった。
ナバーロを自分の技術の中にすっぽり嵌めてしまうことで、見た目以上の完勝を挙げた徳山。
試合後のインタビューでは、2週間前にバイクで転倒して手や足を痛めていたという
驚きの事実を明かしていた。その間は当然ほとんど練習も出来ず、よって減量にも苦しんだ。
そんな苦しい状況の中で最強の挑戦者を破ったのは、ひとえにこれまで培ったリングキャリアの
賜物だ。調子が悪くても、悪いなりに戦う術を熟知しているのだ。これこそ真の王者と
言っても過言ではないだろう。
そしてインタビューでは、かねてからの関心事、つまり戦前から「引退」を意識させる
発言を繰り返していた徳山の今後についても話題が向けられたが、とりあえず「WBCの
スーパー・フライ級は卒業」という従来の意向を再度表明しただけだった。
一夜明けての記者会見では、現役続行を願う会長の説得などもあったようでさらに歯切れが
悪く、前夜の王座返上宣言も「まだ分からない」とトーンダウンしていた。川嶋に雪辱して
王座に返り咲いた時点で既に引退の気持ちが強かっただけに、本人の中では「今の状態では
9割がた引退」という方向に傾いているようだが、全精力を注ぎ込んだ試合が終わったばかり
ということもあるし、何も早急に結論を出す必要はないだろう。個人的には、怪我を治した
ベストの状態で、徳山のボクシングをもう一度見てみたいと思うのだが・・・。