ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

亀田興毅の世界戦は8・2

2006年05月30日 | 国内試合(世界タイトル)
亀田興毅の世界戦が、いよいよ正式決定した。昨日(29日)午後、
東京・赤坂で記者会見が行われ、ファン・ランダエタとのWBA世界
ライト・フライ級王座決定戦が8月2日に開催されることが発表された。

対戦相手は誰か、どの階級で行くのか、などについては割と長い間
バタバタしていたような印象もあるが、決まってからは早かった。
当初は11月に・・・という話もあったから、唐突な感じさえする。
協栄ジム陣営としては、ここが絶好の好機と判断したのだろう。
かつて9人もの世界チャンピオンを生み出しているジムだけに、
チャンスをものにする手腕はさすがと言うべきだろう。

実際、亀田の勝機はかなり高いと思う。彼の実力については未だに
未知数な部分もあるが、ここまでの試合を見る限り、自分より体の
小さい相手には磐石の強さを発揮しているからだ。ずっとフライ級で
試合をしてきた亀田に対し、ランダエタはミニマム級から上がってきた
選手だ。体格の面に限って言えば、かつて亀田がほぼ一方的に粉砕した
ノエル・アランブレットに近いものがある。

もちろんランダエタの力を侮ることは出来ないが、少なくともこれまで
数多く日本で行われてきた「無謀挑戦」に比べれば、決して無茶な
マッチメイクではない。

ただでさえ体脂肪の少ない亀田が階級を落とすわけだから、当然減量は
厳しいとは思うが、19歳の若い肉体ならば回復も早いだろう。
前日に計量を終えて食事を取れば、それなりのコンディションは
取り戻せるのではないだろうか。


試合とは直接関係ないが、一つ感心する話もあった。何と、500円という
格安席が設けられるようなのだ。ボクシングの入場料としては文字通り
けた違いの安さだ。会場は広い(15000人収容)横浜アリーナだが、
今の亀田の人気とこの安さで、ほぼ満員になるだろう。これは非常にいい
アイディアだと思う。マニア以外の目に触れる試合は、なるべく満員に
なった方がいいからだ。

客席がスカスカでは、見る方のテンションも下がってしまうし、会場の
熱気も薄まってしまう。極端な話、売れ残りそうな場合はタダでもいいから
チケットをさばき切るべきだと思う。実際には難しいかもしれないが・・・。

亀田がそれほど弱いとは思わないが、これだけのハイペースで現在の地位を
手に出来たのは、一重にこの営業戦略のおかげだ。あまりの露骨さに
嫌悪感を示す人も多いようだが、僕はむしろ、たくましいなあと思って
見ている。そもそも、批判など気にしていてはこんなことは出来ないだろう。

もちろん、結果が伴わなければ単なるピエロだ。ファンとアンチ、両方の
視線を背に、まず最初のトライアルが行われる。

ボクシングニュース3本

2006年05月26日 | その他
亀田興毅がライトフライ級で世界挑戦

 一時は具体的な日時まで示した記事が掲載されたが、いつの間にか
 削除されていた。まだまだ不確定な部分が多いようだ。そもそも
 王者バスケスが王座を返上するかどうかの発表もまだない状況
 なのだから、どんな展開になるのか全く分からないのは当然だ。


名城、プロ8戦目で世界挑戦

 これは以前から決まっていたことだが、ようやく正式発表となったようだ。
 記録うんぬんはどうでもいいが、果たして名城は世界を取れるのだろうか。
 この少ないキャリアでは能力的に未知数な部分が多いので何とも言えないが、
 しつこく手を出し続ければ勝機がないわけではないと思う。

 王者カスティーリョは抜群のテクニックを誇る強豪だが、打ち合いに行って
 被弾する場面も少なくない。かといって一発狙いでは空転させられるだけだが、
 ガードを固めながら接近し、手数でゴリゴリ押していくタイプの名城なら、
 徐々にカスティーリョを消耗させていくことも不可能ではないのでは
 ないだろうか。それでも不利の予想は明白だが、大金星を期待したい。


徳山 興毅&長谷川限定現役続行

 予想通り、きわめて歯切れの悪い会見となってしまった。ここまでジム側と
 本人の意向の違いが明白に表れた会見も、最近では珍しいのではないだろうか。
 選手の去就に関しては、本人の意思にまかせるのがボクシング界の通例である。
 中途半端な気持ちでリングに上がれば、文字通り命取りになりかねないからだ。

 この会見を受けて、亀田陣営は対戦の可能性を否定。それはそうだろう。
 ライト・フライ級で世界挑戦しようかという亀田に対し、スーパー・フライでも
 減量が限界に来ている徳山とでは、階級が違い過ぎる。一方、長谷川陣営は
 この話に比較的乗り気のようだ。 

WBC世界ライト級暫定王座決定戦 稲田千賢vsホセ・アルマンド・サンタクルス

2006年05月21日 | 海外試合(世界タイトル)
20日(日本時間21日)、ロサンゼルスで、WBC世界ライト級の
暫定王座が、同級3位の稲田千賢と、4位のホセ・アルマンド・
サンタクルスとの間で争われる(当初は稲田とシリモンコン・シンワンチャーが
対戦する予定だったが、不幸にもシリモンコンはB型肝炎にかかってしまい
出場できず、急遽サンタクルスにチャンスが回ってきた)。

海外での試合ということで情報も少なく、また「暫定」というところで
少し盛り上がりに欠ける部分もあったが、今日(日本時間19日)現地で
記者会見が行われ、ようやく決戦ムードも高まってきた。

この稲田の試合は東洋タイトルの防衛戦しか見たことはないのだが、非常に
レベルの高い、いいボクサーという印象がある。相手がどういう選手なのかは
よく知らないが、勝機は充分にあるのではないだろうか。

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さて結果は・・・6回TKO負けで王座獲得ならず。
稲田なら行けると思ったが、世界はやはりそう甘くないようだ。


日本フェザー級TM 渡邉一久vs小林生人

2006年05月20日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
わずか1ラウンドで王座決定戦を制した渡邉の、初防衛戦。
勢いという点に限って言えば、今最も乗っている選手の一人と
言っていいだろう。

何しろその試合ぶりは、派手で騒々しい。抜群の身体能力を利して
縦横無尽に動き回りながら相手を挑発したかと思えば、唐突に
ビッグパンチを振り回して襲い掛かる。かつてのスーパースター、
ナジーム・ハメド(元世界フェザー級王者)を彷彿とさせるキャラクターだ。

今回はチャンピオンとして初の試合ということもあり、入場シーンも
ド派手だった。暗転した場内に、ファンによるライターの明かりが
点々と灯る中、何と渡邉は2階席から登場。軽快な音楽に体をくねらせ、
客席の中を練り歩き、たっぷり時間をかけてのリングインとなった。

演出自体に金をかけるのではなく、ファンの力添えを得ることで
一体感を生み出すやり方には好感が持てた。独り善がりの演出で、
かえって寒々しい空気を作り出す選手を数多く見ているだけに・・・。


一方の小林だが、試合前は渡邉を「やりたくない選手ナンバーワン」と
表現していた。それは、友人(現在の日本スーパー・フェザー級王者で、
渡邉のジムの先輩にも当たる小堀佑介)を介して何度も食事をした仲で
あることが理由だった。しかし、先にリングに上がった小林には、
戸惑いの表情など一切なく、別人のように闘志を剥き出しにした厳しい
目つきをしていた。

ここまで13戦全勝、ランキング1位。小林の方も、掛け値なしのホープ
なのである。両陣営の凄まじい応援合戦の中、試合開始のゴングが鳴った。


小林の試合は見たことがあるはずなのだが、なぜか記憶にはない。
がっちりした構えから判断するに、崩れにくい堅実なスタイルを持った
選手のようだ。一方の渡邉は対照的に、トリッキーな動きを駆使して
リング上を踊るように動く。その過剰とさえ感じられる派手な動きに、
少し気負いがあるのだろうか、とも思った。しかしパンチにはスピードが
あり、軽くではあるがジャブがヒット。小林もよく攻め込み、ほぼ互角の
内容と見えたが、手数とアクションの見栄えの良さで、ここは王者の
ラウンドだっただろうか。

続く2ラウンド終盤には、小林の攻勢があった。防御勘にも自信を持つ
渡邉がノーガードで不用意に接近したところに小林の右がヒットして
王者がぐらつく。そこへ連打を仕掛ける小林。この攻勢の印象で
小林のラウンドと見た。ただし振り返ってみると、ここが小林にとって
最大の見せ場であったことになる。

その後は、渡邉が大振りのパンチを振り回しながら小林をロープに追い込む
場面が目立った。大振りだけにヒット率は低いのだが、スピードがあるため
小林はカウンターを取り切れない。大振りだけではなく、シャープなジャブや
コンパクトな連打も見せ、派手なアクションとは裏腹に、なかなか冷静に
戦っているという印象を受けた。また、ヒット率が低いとはいえ、大振りの
パンチは当たった時の威力も凄まじく、6ラウンドには小林をグロッキーに
陥れるシーンも見られた。

対する小林は、目まぐるしく動く渡邉にパンチをまとめ切れず、そのために
狙い過ぎてしまうせいか手数が少ない。力を出し切れていない、出させて
もらえないという状態に見えた。極端に運動量の多いスタイルの渡邉は、
後半に必ず失速する。この試合でも8ラウンド辺りにその兆候が見られたが、
ずっとトリッキーな渡邉の動きにペースをかき乱されてきた小林の方にも
疲れがあり、予想されたチャンスをものにすることが出来なかった。

それでも小林はしぶとく食い下がり、試合は判定にまでもつれ込んだが、
渡邉の勝利は明白だった。3-0の判定勝ちで、渡邉が初防衛に成功した。


一見傍若無人な、身体能力に依存するだけのワイルドなボクシングスタイルで
あるかのように見える渡邉だが、堅実な小林のスタイルを打ち崩すには
この変則的な戦法が功を奏すると読んでの試合振りだったように思えた。
入場の時にも感じたが、ただの独善的な選手ではなく、場の空気というものを
察する能力にも長けたクレバーなボクサーなのだ。


そんな渡邉は、かねてから粟生隆寛との対戦を希望している。粟生は現在の
日本における最大のホープであり、実現すれば話題性たっぷりのビッグマッチと
なるだろう。ノーガードから切れのあるパンチを放つ点を初め、この両者には
見た目の共通点が多い。一発のパンチ力では渡邉が上のような気はするが、
技術の厚みでは粟生の方に分があるのではないだろうか。いずれにせよ、
これは非常に楽しみなカードだ。










微妙に気になるニュース

2006年05月17日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
今日のニッカンスポーツには、微妙に気になる記事が
いくつかあった。それを拾ってみたい。


久高、ポンサクレック挑戦?

   まだ決定ではないが、6月とはまた急な話だ。今月、中広大悟が
   ポンサクレックに挑戦して完敗したが、その時も急に挑戦が
   決まっていた。そして「無謀挑戦」という意味でも中広の時と似ている。

   久高は確かに世界ランカーをKOして世界ランクを得た選手であり、
   世界戦を戦う資格がないわけではない。しかしそれは1階級下の
   ライト・フライ級での実績であるし、またそれ以外の大きな実績もない。

   ちなみに、ポンサクレックは次が15度目の防衛戦。これに勝つと、
   フライ級の歴代最多防衛記録を塗り替えることになる。言い方は悪いが、
   ポンサクレックにとって久高は、記録達成のための「安全パイ」に近いだろう。


越本が練習を公開

    ここで目に留まったのは、挑戦者ロペスのランキングがいつの間にか
    17位から15位に上がっていること。ただし、世界挑戦前になぜか
    世界ランクが上がるのは、決して珍しいことではない。それは要するに、
    単なる「ハク付け」なのである。おかしな話だ。

 
ジョーンズ、7月に復帰戦へ

     対戦相手のアジャムが「WBO王者」と記載されているが、これは
     明らかな間違い。ライト・ヘビー級のWBO王者はゾルト・エルディだし、
     アジャムは一世界ランカーに過ぎない。

     かつてミドル、スーパー・ミドル、ライト・ヘビー、そしてヘビー級の
     タイトルをも獲得するという偉業を成し遂げた天才ジョーンズだが、
     ここ3試合は全て敗れ、しかもうち2つはKO負けという凋落ぶり。
     果たして再び栄光を取り戻すことは出来るのだろうか。

  
40歳西澤、快勝で現役続行をアピール

     世界王座に2度挑み、その2人の世界王者からいずれもダウンを奪うという
     大健闘を見せた西澤だが、その後は3連敗を喫するなど低迷していた。
     今回は引退の瀬戸際にも立たされながらのリングで何とか結果を出したが、
     これからも厳しい戦いが続くことは間違いない。3度目の世界挑戦は遥か
     遠いと言わざるを得ない状況で、西澤はどこへ向かっていくのだろう。


イーグル京和は打撲と診断

     先日のタイトルマッチでは、負けたマヨールも勝ったイーグルも
     試合後に病院行きとなった。それだけ激闘だったということだろう。
     しかし症状が重くなくて良かった。イーグルは20日に防衛成功を
     報告する記者会見を行うという。普通は試合の翌日に行うもので、
     これほど間が開くのも珍しいケースだ。 
 

新井田、5度目の防衛戦は高山と!

2006年05月16日 | 国内試合(世界タイトル)
先日、イーグル京和がロデル・マヨールと感動の激闘を繰り広げたばかりの
ミニマム級が、また熱くなりそうだ。WBA世界ミニマム級チャンピオン、
新井田豊の5度目の防衛戦は、9月2日、前WBC同級王者で現在は
日本王者の高山勝成を迎えて行われることになった。

しかしこの両者が相まみえるということは、ちょっと予想していなかった。
新井田は以前、日本人同士による世界戦について「世界戦が安っぽく
なってしまう」と否定的な意見を述べていたし、高山にしても、かねてから
「次は何度も防衛できる世界チャンピオンになりたい。そのためには
もっとキャリアを積みたい」といった内容の発言を繰り返していた。
そんな二人が、しかもこの時期に対戦するというのは意外な感じだ。
そこには陣営の様々な思惑が働いているのだろうが、とにかく面白い
カードであることは間違いない。

ところで、高山が日本タイトルを奪取した相手である小熊坂諭と新井田には、
手数の少ない、カウンターを中心とした「待ち」のタイプであるという
共通点がある。この辺り、小熊坂に快勝したことで高山はある種の手応えを
つかんでいるのかもしれない。

ただし、最近の新井田は待つだけではなく、自分から打撃戦を仕掛ける
場面も多くなっている。高山は元々スピーディーな連打が持ち味だし、
そうなるとハイテンポの小気味いい打ち合いが展開されそうだ。
実際、高山の目まぐるしい動きに新井田がどう対応するのかが最大の
注目点ではないだろうか。自分もある程度ペースを上げるのか、あるいは
かつてイーグルがそうしたように、どっしり構えてパワーで圧倒するのか。

こういった好カードがあっさり実現してしまうところを見ると、いよいよ
日本初のWBA王者とWBC王者による統一戦も近づいてきたような
気がする。これまで何度もそんな話はあったが、いずれも実現しなかったし、
ファンとしても半ば諦めの気持ちがあった。しかし今回はどこか違う。

イーグルも新井田も統一戦に前向きな発言をしているし、そう考えると
この高山との試合が、来るべきイーグル戦に向けての前哨戦のようにも
思えてくるのだ。一方のイーグルに関しては、最強挑戦者のマヨールを
下したことで、既に「前哨戦」はクリアしたと見ていいのではないだろうか。
つまり、この試合の勝者とイーグルが「次は統一戦」となってもおかしくないし、
ぜひそうなって欲しいと思う。

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ところが・・・これを書いた後(23日)、高山のトレーナーである
中出さんのブログを見ると、どうもこの報道について否定的というか、
高山陣営の考えと報道との間に温度差があるようだ。
果たして今後、どういう展開を見せるのだろうか。

長谷川、3度目の防衛戦は7・15

2006年05月12日 | 国内試合(世界タイトル)
WBC世界バンタム級チャンピオン、長谷川穂積の3度目の防衛戦は、
同級1位のヘナロ・ガルシアを迎えての指名試合ということになった。

前回のウィラポンも1位だったが、あれは指名試合ではないのだろうか。
それはともかく、長谷川はかねてからの公言通り、またしてもランク1位の
相手の挑戦を受けるわけで、その高い志には感服するほかない。

ついでに言うなら、初防衛戦の相手だったヘラルド・マルチネスは8位
だったが、当初は当時1位のディエゴ・モラレスと対戦する予定だった。
モラレスが直前になって負傷で試合をキャンセルしたために、急遽代役として
マルチネスが出場したのだ。つまり、予定通りモラレスと戦い、これに勝って
いれば、長谷川は何とここまでの全ての防衛戦で1位の挑戦者と戦うことに
なっていたわけだ。こんな例は、ちょっと聞いたことがない。


ただ残念なのは、これが何と後楽園ホールで行われるということだ。
あの長谷川が、世界戦ではエキサイティングな試合を提供し続けている
長谷川穂積が、狭い後楽園ホールで防衛戦とは・・・。


ところで、このガルシアというのはどんな選手なんだろう・・・と思って
調べてみて驚いた。現在のバンタム級で最強とも言われている、IBF王者の
ラファエル・マルケスにKO勝ちしているのだ。それは5年半も前の話で、
どんな内容だったかも分からないが、かなりの強豪ではあるのだろう。

ちなみにこのガルシア、前哨戦としてエリック・ロペス(徳山昌守に挑戦して
惨敗)と今月対戦するらしい。そのロペスは徳山に敗れた後しばらく試合から
遠ざかっており、約3年振りのリングでヘラルド・マルチネス(長谷川に挑戦し
完敗)と戦い判定負け。今回のガルシア同様、マルチネスにとってもそれが
長谷川戦に向けての前哨戦だった。この辺りは不思議な縁だ。

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(6月4日・追記)

ガルシアとロペスの試合は、どうやら消滅したようだ。

WBC世界ミニマム級TM イーグル京和vsロデル・マヨール

2006年05月06日 | 国内試合(世界タイトル)
素晴らしい試合だった。ミニマム級屈指の実力を持った両者の激突であると
いうこと以上に、ボクシングの枠を越えた、まさに「人生を賭けた闘い」を
見たという思いで胸が熱くなった。

「フィリピンの最終兵器」マヨールは、早くから世界王座獲得を確実視
されていたホープ中のホープ。何と言っても軽量級離れした強打が売りだ。
また、イーグルは角海老宝石ジム、マヨールは三迫ジムに所属しており、
日本のジム所属の外国人選手同士による世界戦は、これが初めてである。

しかし、外国人同士の世界戦であるにもかかわらず、前売り券が早々に
完売となるほどの注目を集めたのは、そんな話題性によるものではなく、
この試合が近年稀に見る好カードであるからだ。マヨールの強打が炸裂
するのか、あるいはイーグルの卓越した技巧が最強挑戦者を封じるのか。
実力者同士の対戦に、早くからファンは胸を高ぶらせていたのだ。


第1ラウンドから、偵察戦もそこそこに、ハイテンポな強打の交換が
始まった。両者のパンチが当たっているが、ヒットした時のインパクトでは
やはりマヨールが上回る。初の世界戦の緊張感からか若干の力みは見られるが、
右にも左にも恐ろしい破壊力を感じさせる。最軽量級らしいスピード感と、
最軽量級とは思えないハードパンチの応酬。早くも場内が湧き上がる。

1ラウンドこそほぼ互角に打ち合った王者イーグルだが、続く2ラウンド
辺りから、パンチ力と突進力の差が出始める。マヨールの左フックを浴びて
イーグルの右眼が腫れてきた。ディフェンスの良さには定評のあるイーグル
だが、マヨールの怒涛の責めをかわし切れない。右アッパーも被弾し、
動きが止まるシーンもある。イーグルがパンチを効かされる場面など、
今まで見たことがない。

冷静に見ると、イーグルもコンパクトなカウンターを度々ヒットさせて
いるのだが、大きなパンチはほとんど当たらず、見た目の攻勢度では
明らかにマヨールの方が印象がいい。5ラウンドには鼻血、そして左眼の上も
カットしてしまった。これほどまでにイーグルが劣勢に追い込まれたことが、
かつてあっただろうか。「王座交代」の不穏な予感が濃厚に漂う。やはり
マヨールは本物の「怪物」なのか・・・。あのイーグルが、無残にマットに
沈められる姿すら目に浮かぶ前半戦だった。

最強の挑戦者を前に、もはや打つ手なしかと思われたが、しかしそこからが
感動的だった。イーグルが、凄まじいまでの勝利への執念を見せつけるのだ。
攻め続けて動きが(わずかではあるが)鈍ってきたマヨールとは逆に、
マヨールの攻撃パターンに慣れてきたイーグルには落ち着きが出てきた。
第8ラウンド、マヨールの大きなパンチをかわし、クリンチで相手のリズムを
寸断し、接近してはボディを叩く。まだまだ明らかな優勢とまでは行かないが、
持ち直してきたのは確かだ。それにしても、両眼が見えづらい状態でこれだけ
パンチを避けるとは、やはりイーグルは大したボクサーだ。

これ以降、イーグルの目には自信の色が戻ってきた。弱気や諦めの表情など
微塵もなく、ただやるべきことをやるだけだ、という澄んだ決意の目だ。
ただガムシャラに前に出るだけが闘志ではない。勝つために、ピンチの時こそ
自分を冷静に保つ、その精神の強さが本当の「闘志」と呼べるものでは
ないだろうか。イーグルの目を見ていて、そんなことを思った。

後半、マヨールの手数は減った。打つパンチもどこか中途半端で、前半の
勢いがない。これは疲れもあるだろうが、精神的に「迷い」が生じたことが
大きかったと思われる。それはマヨール自身も試合後に語っていた。
「イーグルが倒れなかったのは誤算だった」と。つまり、前半あれだけ
自分のパンチが当たれば、これまでの相手なら間違いなく倒れるか、もしくは
弱気になっていたはずなのに、イーグルは弱気になるどころか攻めて出てきた。
それが誤算だったということだろう。

もちろんそこには、天性の打たれ強さや、パンチの威力を殺す上体の柔らかさも
あっただろう。しかしそれ以上に、何としてでも勝つという執念、その精神の
強さこそが、マヨールの攻撃に自身を耐えさせた最大の要因なのだと思う。
優勢だったはずのマヨールが精神的に気圧され、逆に劣勢だったはずの
イーグルが、後半は明らかに(少なくとも精神面では)相手を圧倒していた。

10ラウンド、イーグルはまさに王者の強さを見せつけた。どっしりと構え、
さも簡単なことであるかのようにマヨールの打ち終わりにカウンターを合わせる。
マヨールも手を出すのだが、その腕は縮こまり、前半のような「ブッ倒してやる」
という殺気は既に失せている。そしてラウンド終盤の、ボディへの連打。この
無慈悲なまでの連打が、ついにマヨールを下がらせた。

11ラウンド、ポイントの優劣は分からないが、試合の流れはもう完全に
イーグルのものだ。じっと相手を見て、マヨールが前へ出ようとすると
そこにことごとくカウンターで小さいパンチをヒットしていく。改めて
イーグルの能力の高さを思い知らされた。

そして最終ラウンド、劇的な場面が待っていた。イーグルはもう自信満々で、
大きいパンチさえカウンターで当てていく。右クロスでマヨールが棒立ちに
なったところで一気の連打。そして残り1分、イーグルがボディから右フックを
返して、ついにダウンを奪ったのだ。ダウンそのものは、イーグルに押されて
バランスを崩しただけの微妙なもので、この裁定はマヨールにとって少々
厳しいものだったが、大きくよろめいて倒れこんでしまったことが、効いた
という印象を強くレフェリーに与えてしまったのだろう。

採点は、114対113、115対112、117対110の3-0。
ということは、仮にあのダウンがなくても、恐らくイーグルの勝ちだった
だろう。イーグルが見事2度目の王座防衛を果たした。


極貧の生活から、ふたつの拳だけを頼りにここまで上り詰めたイーグル。
そのハングリー精神は以前からよく語られてきたが、ことリングの上に
おいては、その精神力が目立つことはなかった。そこまでの劣勢に
追い込まれたことがなかったからだ。今回、最強の敵マヨールが、その
評価に恥じない強さを発揮して王者を苦しめたことにより、イーグルの
これまで見えなかった部分、つまりどんなに苦しくても勝負を諦めない
精神的な強さが出た試合であった。

また、序盤に優位に立ち、攻撃一辺倒になってしまったマヨールに対し、
イーグルはクリンチなども交え、最悪のピンチを最小限のダメージで
乗り切ることに成功した。そういったテクニック、キャリアの豊富さも
印象づけられた。

パンチ力、体のバネ。そういった身体能力では、あるいはマヨールの方が
上だったかもしれないが、やや自分の攻撃力を過信していた面もあった。
この初黒星は、マヨールにとっては今後の大きな糧となるに違いない。
持ち前の高い能力に加え、試合運びの巧さなども身につければ、いずれは
チャンピオンになれるのではないだろうか。

イーグル同様、マヨールもハングリーな環境から這い上がってきた男だ。
そんな二人の戦いは、単なるスポーツというより、まさに「生存競争」の
ように見えた。常日頃「美しいボクシングをしたい」と語っている
イーグルだが、この日は相手を抱え込みながらのパンチなど、少々
ダーティーな手口を使ってまで、勝つことに必死になっていた。

通常、最終ラウンド開始時には両選手がグローブを合わせることが多いが、
今回はそれすらなかった。それほど勝負に集中していたのだろう。

そして、ラウンド開始のゴングが鳴りコーナーを出る時のマヨールの表情。
「負けられないんだ、絶対に」という気迫、切迫感が痛いほど伝わってきた。
その必死な姿が感動を呼んだ部分も大きい。まさか、外国人同士の世界戦で
泣きそうになるほど感動するとは思わなかった。

日本のリングにチャンスを求めてやってきた二人の外国人ボクサーは、
その日本のファンの前で素晴らしい試合を見せてくれた。イーグルには
WBA王者・新井田豊との統一戦、マヨールには、更なる強いボクサーへ。
両者の今後にも大いに期待したいと思う。

小堀佑介vs藤田和典、マルコム・ツニャカオvs木嶋安雄

2006年05月06日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
イーグル対マヨールの前座には、二つのタイトルマッチが組まれていた。
実に豪華な興行で、しかもいずれも見応えのある試合だった。


まずは日本スーパー・フェザー級タイトルマッチ、小堀佑介の初防衛戦。
キャラクターはやや地味な小堀だが、試合はなかなか面白い。
真鍋圭太をKOした王座決定戦に続き、今回は元東洋太平洋王者(暫定)の
肩書きを持つ藤田を、ほぼ一方的に打ちまくってTKOに仕留めた。

それにしても、両者の力の差がこれほどあるとは思わなかった。
同じ角海老宝石ジムに所属する先輩王者、本望信人を彷彿とさせる
自在な動きと多彩なパンチで藤田を翻弄。アジアでも屈指のハードパンチャー、
フィリピンのランディ・スイコ(前東洋太平洋王者)とも10ラウンドを
フルに戦い抜いたタフな藤田からダウンを奪い、生涯初のKO負けを与えた。

一方の藤田は、あまりにも単調すぎた。ガードを固め、大きなフックを
狙い打ちするというスタイルで、上体の振りもほとんどないために
逆に小堀にいいように打たれていた。自分の打たれ強さを過信していた
のだろうか。


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続いては、東洋太平洋バンタム級タイトルマッチ。
元WBC世界フライ級王者で、現在は日本を主戦場とするマルコム・
ツニャカオの2度目の防衛戦だ。

挑戦者の木嶋は、サーシャ・バクティンが持っていた日本バンタム級
タイトルに2度挑んだが、いずれも敗れていた。その木嶋が健闘を見せる。
ツニャカオの速いパンチに臆することなく果敢に前進を続け、ボディを
中心に攻め立てる。これにはツニャカオも顔をしかめていた。

しかし結局は力の差が出て、ツニャカオが連打で11ラウンドTKO勝ち。
これまでの試合ぶりから、バンタム級としてはパンチ力に欠けるのでは、
という懸念もあったツニャカオだが、ここはパンチのある所を見せつけた。
やや苦しんだものの、貫禄の防衛戦だったと言えるだろう。

ただ、苦しい時に露骨に表情を曇らせるのはいただけない。
ツニャカオにそんな表情を作らせた、木嶋の奮闘も光った好ファイトだった。

WBC世界フライ級TM ポンサクレック・クラティンデーンジムvs中広大悟

2006年05月01日 | 国内試合(世界タイトル)
この試合、今日タイで行われるはずなのだが・・・情報がない。
相変わらず人気が低迷しているボクシングだが、それでも世界戦
ともなれば、計量や公開スパーリングなどの直前情報がメディアに
載るものである。また、いくら海外での世界挑戦といっても、
話題性や期待感のある選手なら何がしかの記事は書かれるだろう。

つまり今回の中広の挑戦は、全くといっていいほど期待されていない
のである。無理もない。世間的には無名、しかも日本タイトル挑戦に
失敗(内藤大助に判定負け)したばかりの選手なのだから。

ポンサクレックは慎重派というか堅実というか、勝つことを最優先した
隙のないボクシングをすることが多いが、相手との実力差を見切ると
速攻でねじ伏せてしまう場合もある。恐らくポンサクレックにとって、
無名で格下(世界ランク17位)の中広との防衛戦は、来るべき大一番
(指名試合や暫定王者との統一戦など)に向けての調整試合のような
位置付けだろうから、序盤から容赦なく倒しにかかるのではないだろうか。

もしポンサクレックに油断があれば、そこを突ける可能性もないではない。
しかし真面目な性格と評されるポンサクレックであるから、多少の油断は
あったとしても、相手を舐め切ってしまうようなことはないだろう。
というわけで、中広が「まさかの」善戦を見せることはあるかもしれないが、
結局は地力の差でポンサクレックがKO勝ちするのでは、というのが僕の
(そして恐らく大方の)予想だ。

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さて結果は・・・スポニチの速報記事

この記事を読む限り詳細はよく分からないが(何ラウンドにダウンを
奪われたかも書いてない!)、KO負けこそ免れたものの完敗の
内容だったようだ。これを健闘と言っていいのかどうか・・・。