ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界フェザー級TM クリス・ジョンvs武本在樹

2007年08月19日 | 国内試合(世界タイトル)
ジョンが9ラウンド終了TKOで、8度目の防衛に成功。
完敗。やはり力の差がありすぎた。

それは予想通りだったが、まさかジョンがこんなに
強気に攻めて出てくるとは思っていなかった。
そのため、試合自体はハイテンポの打ち合いで
なかなか面白かった。

1ラウンドこそまずまずの立ち上がりを見せた武本だが、
その後はジョンのパンチがことごとくヒット。
6ラウンドと8ラウンドにダウンを奪い、9ラウンド
終了時にレフェリーストップとなった。

武本の地元である神戸での開催でありながら、ジョンへの
声援もかなり多かったのが印象に残った。

これからの世界戦

2007年08月18日 | その他
内藤vs大毅が決まったところで、その他に近々行われる
日本のジム絡みの世界戦の予定をまとめておくことにする。


・WBA世界フェザー級タイトルマッチ(8月19日)
 クリス・ジョンvs武本在樹

 いよいよ明日に迫った試合。武本は技術的によくまとまっては
 いるものの、これといった武器がなく、また格下にポカをしたり
 日本タイトルに挑戦して敗れたりと、正直言って素直に期待
 できる挑戦者ではない。本来なら、その武本に勝った当時の
 日本王者・榎洋之(現在は東洋太平洋王者)が世界挑戦するのが
 先ではないかと思うのだが・・・。
 
 個人的には、無敗の王者ジョンが(2004年の佐藤修戦以来)
 久々に日本で見られるのが嬉しい。


・WBA世界ミニマム級タイトルマッチ(9月1日)
 新井田豊vsエリベルト・ゲホン

 いつの間にかあと2週間後に迫っていた。これは再戦。
 2005年の秋に行われた初戦では、負傷判定という
 お互いにとって不完全燃焼な結果に終わっている。

 ゲホンは「あの時は体調が悪かった」と言い訳しているが、
 ならば今回は万全に仕上げてくるのだろうか。ただ、あの試合、
 後半にはゲホンは攻め手を失い、新井田の方はさあこれから、
 といった印象があった。「その続き」が見られることを期待したい。


・WBA世界スーパー・フライ級タイトルマッチ(9月24日)
 アレクサンデル・ムニョスvs相澤国之

 相澤との王座決定戦に勝って日本王者になった菊井徹平は、先ごろ
 世界挑戦して惨敗。その後相澤は東洋太平洋王者になったが、これは
 噛ませ犬と言ってもよい格下のタイ人をKOして手にしたもの。
 これらのことから、相澤が肩書きに相応しい実力者であるかどうかは
 疑わしく思われる。 

 ただ、技術レベルの高い選手なので、そのポテンシャルを最大限に
 発揮できれば面白いかもしれない。


・WBC世界フライ級タイトルマッチ(10月11日)
 内藤大助vs亀田大毅
 
 これは先日のブログに書いたので省略。


・WBC世界バンタム級タイトルマッチ(11月ごろ?)
 長谷川穂積vsシモーネ・マルドロッツ

 まだ日程や場所などは決まっていないが、欧州王者で世界1位の
 マルドロッツの挑戦はほぼ確定しているようだ。

 このマルドロッツ、最新の試合(欧州王座の防衛戦)では
 ダウンを喫するなど大苦戦の末、辛くも勝利したらしい。
 だからといって「恐るるに足りず」と言うのは早計ではある。
 「世界」に気を取られて、目前の相手に集中できなかった、
 というケースは決して少なくないからだ。


・WBC世界ミニマム級タイトルマッチ(12月5日?)
 イーグル京和vsオーレイドン・シットサナーチャイ

 これは、イーグルの出身地であるタイ国王の誕生日に、
 いわゆる「御前試合」として行われる予定だという。

 ところで先日、スポンサーだった「京和建物」との契約が
 解消
となったため、イーグルのリングネームはまた変わる
 ことになるようだ。高い実力と実直な人柄から、日本の
 ファンに愛されるイーグル。その名誉にふさわしい
 収入を得てほしいものだが、状況は厳しい。 


・WBA世界バンタム級タイトルマッチ(年内?)
 ウラジミール・シドレンコvsサーシャ・バクティン

 これはまだ正式決定ではなく、サーシャの所属する協栄ジムの
 金平会長が「内藤vs亀田」の会見の席で語ったもの。

 シドニー五輪の銅メダリストで、プロでは未だ負けなし、
 5度の防衛に成功しているシドレンコと、こちらも豊富な
 アマチュアキャリアを持ち、プロ全勝のサーシャ。
 実現すれば、これは楽しみなカードだ。


・WBA世界フライ級タイトルマッチ(年内?)
 坂田健史vs?(相手未定)

 これは金平会長の「年内に坂田の防衛戦をやりたい」という
 発言のみで、まだ挑戦者すら決まっていない。

内藤vs大毅、ついに決定

2007年08月16日 | その他
まさか本当に決まるとは思っていなかった。
今でも本当に実現するのか、ちょっと信じがたい気持ちだ。

しかし、「10月11日、有明コロシアム」と具体的な
日付や場所が発表された以上、信じてもいいのだろう。
WBC世界フライ級タイトルマッチ、内藤大助の初防衛戦は
同級15位の亀田大毅を相手に行われることになった。


これまで徹底して日本人との対戦を避けてきた亀田兄弟だが、
WBAで坂田、WBCで内藤がフライ級の世界王者となり、
いよいよ戦わざるを得ない状況に追い込まれたわけだ。

なお、亀田がもし勝利すれば、井岡弘樹の「18歳9ヶ月10日」を
抜いて、(たった5日の差ではあるが)日本人としては
史上最年少での世界王座獲得となる。

しかし、そういった記録うんぬんよりも、「亀田が日本人と戦う」
ことの話題性の方が遥かに大きいだろう。これまで散々日本人
選手をコケにしてきた亀田兄弟。それが真の自信から来るもの
なのか、あるいは単に口だけなのかが、ついに白日のもとに
さらけ出されるのだ。


何が起こるか分からないのがボクシングではあるが、大毅の
実力がこれまで見せたもので全てであるなら、番狂わせは
まず起こらないだろう。

ただ、試合時には33歳になっている内藤のコンディション不良、
そして油断などがあれば、まさかの結果がもたらされる可能性も
否定はできない。

いずれにせよ、これは日本中の注目を集める試合になるはずだ。
形としては、「格下の下位ランカーを迎えたイージーな防衛戦」に
過ぎないのだが・・・。

日本Lフライ級TM 嘉陽宗嗣vs大神淳二

2007年08月13日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
嘉陽が2度のダウンを奪い、大差判定で初防衛に成功
しかし、KOできなかったことで本人は反省、会長である
具志堅用高(元WBA世界ライト・フライ級王者)氏からも
不満の弁が聞かれた。

ちなみに、大神のランクは11位。今年の4月度から
日本ランキングが12位まで拡大されて以来、初めての
「10位より下の選手」によるタイトル挑戦となった。

11位、しかも17戦して10勝(1KO)6敗1分という
平凡な戦績。ランキングや戦績と実力は必ずしも比例しない
とはいえ、世間の目は「勝って当然、倒して当然」となる
だろうし、そもそも日本ランクが10位までだった頃でさえも
9位や10位の選手の挑戦を受けることは少なかったのだから、
これはいかにも楽な相手を選んだと思われても仕方ないだろう。


ところでこの嘉陽、一部の評論家はその能力の高さを絶賛
しているが、個人的にはあまり印象に残っていない。
僕の目が節穴だということなのかもしれない。

いずれにせよ、それなりに期待されている選手であるようなので、
今後はマッチメイクの面でもファンに刺激を与えてもらいたいものだ。

東洋太平洋バンタム級TM ロリー松下vs三谷将之

2007年08月12日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
フィリピンから、金沢のカシミジムにやってきたロリー。
元世界王者のマルコム・ツニャカオを番狂わせで破って
獲得した王座の2度目の防衛戦は、日本王者の三谷を
迎えることとなった。

僕の予想は、三谷の判定勝ち。本来の端正なスタイルに加え、
最近はパンチの決定力も増してきていて、若い三谷の自信と
勢いが勝るのでは、と考えたのだ。しかし、ツニャカオに
勝ったロリーの実力は本物だった。


試合は、教科書通りのジャブの突き合いからスタート。
その中で右ストレートや左ボディを狙う三谷、これもまさに
教科書通りだ。一方のロリーは、1ラウンドの前半こそ
ジャブから入ったものの、その後は必ずしも形にこだわらず、
いきなりの右ストレートなどを効果的にヒットした。

その後も緊迫したペース争いが続く。フォームの綺麗な、
型通りのテクニックを持つ三谷と、少々ラフでもとにかく
当てればいいという、実戦的な技術を持つロリー。
タイプこそ違えど、こういったテクニシャン同士の打ち合いは
非常に見応えがある。

お互いに、ボディブローのヒットが印象に残る。しかしそれは、
両者ともディフェンスがいいために顔面へのパンチがなかなか
当たらないから、という理由もある。この試合には「世界ランカー
対決」という側面もあり、それに恥じないハイレベルの攻防が
繰り広げられている。

このままでは埒があかないと判断したのだろうか、6ラウンドには
両者とも攻撃性を強める。ロリーが右ストレートで、そして三谷が
左フックで、それぞれ相手の顔面を弾く。スリリングなラウンドだった。

続く7ラウンドと6ラウンドの違いは、攻撃性はそのままに、
両者ともディフェンスに一層の注意を払った点だ。まるで2人が
全く同じことを考えているようで、だからこそ均衡が保たれて
いるのかもしれない。


ポイントの優劣は分からないが、流れとしてはほぼ互角のまま
7ラウンドまでが終わった。この均衡を破るのは果たして
どちらか、そしてそれはどんな攻撃で、なのか。

8ラウンド。三谷がロリーのお株を奪うかのように、いきなりの
右ストレートをヒット。もし展開を変えるとすれば、こういった
意表を突いたアイディアがきっかけになるかもしれない。
ただし残念ながら、ラウンド全体の印象としては、その後にロリーが
放った左アッパーのインパクトの方が勝った。

このパンチは効いたかもしれない。9ラウンド、端正な三谷の
フォームが若干乱れ、反対にロリーの細かいパンチを受ける
場面が目立ってくる。10ラウンドには乱れは修正されていたが、
印象としてはやはり「やや押され気味」という状態。ここへ来て
ようやく、ロリーがわずかに抜け出してきたようだ。


素晴らしい2人のボクサーの戦いは、最終12ラウンドへ。
劣勢を意識したか、三谷が攻撃のテンポを上げる。それに呼応
するかのように、ロリーも手数を増やす。そんな中、ロリーの
コンパクトな左アッパーで三谷の腰が砕けた。痛恨のダウン。

再開後、何とか凌ごうとする三谷だが、これまでの疲れや
ダメージも一気に表面化したようだ。それは表情にも動きにも
表れている。左フックから、ラフなパンチを乱れ打ちして
2度目のダウンを奪うロリー。その直後にレフェリーが
試合をストップし、最終ラウンドTKO勝ちでロリーが
2度目の防衛を果たした。


最後の必死の連打、そして勝利を決めた後にリングにへたり込んで
感涙にむせぶ表情から、ロリーにとっても余裕のない苦しい戦い
だったことが伺えた。

三谷にとっては痛い敗戦となったが、これは是が非でも今後の
糧にしなければならない。既に三谷はWBA、WBCともに
世界のベスト10に入っており、わざわざこんな強敵と対戦
せずとも、世界挑戦は可能な位置にいたのだ。それなのにあえて
この試合に臨んだ三谷陣営の心意気は、大いに称えられるべきだ。

海外の試合結果

2007年08月11日 | 海外試合(その他)
以前に「メキシコvsタイ」で争われた「ボクシングの
ワールドカップ」の第2回大会が行われた。今回は
「メキシコvsフィリピン」だったのだが、何と
フィリピン勢が5対1で圧勝。今や世界的な
スーパースターであるマニー・パッキャオを
筆頭に、フィリピン選手の躍進は実に目ざましい。


その中には、WBOの世界戦2つも組み込まれていた。

メインのスーパー・バンタム級タイトルマッチでは、
王者ダニエル・ポンセ・デ・レオンが期待の新鋭レイ・
バウティスタをわずか1ラウンドでTKOに下して
5度目の防衛に成功するとともに、ここまで全敗を
喫していたメキシコ勢に、貴重な1勝を与えた。


バウティスタの惨敗も意外だったが、何より驚いたのが
ジェリー・ペニャロサ。元WBC世界スーパー・フライ級
王者のペニャロサが、実に10年振りに王座獲得、2階級
制覇を達成したのだ。

川島郭志、山口圭司、徳山昌守といった日本が誇るテクニシャン
たちとの対戦で馴染み深いペニャロサ。既に35歳になったが、
今年3月、前述のポンセ・デ・レオンと接戦を演じ、その技術に
錆び付きがないことを証明。そして今回、強打者として人気のある
WBO世界バンタム級王者ジョニー・ゴンサレスをボディブローで
KOし、ついに再び世界の頂点に立った。


パッキャオのようなスター、バウティスタやZ・ゴーレスと
いったホープ、そしてベテランのペニャロサも頑張っている。
しばしば日本選手を苦しめる「無名の強豪」たちも含め、
現在のフィリピンの選手層には底知れないものがある。

西岡利晃vsハビエル・ソテロ

2007年08月11日 | 国内試合(その他)
会場はガラガラ。かつて4度も世界に挑んだ選手の試合としては、
非常に寂しい客の入りだ。


1ラウンド、早々とダウンを奪った西岡。いつもの西岡よりも、
距離がやや接近している。ダウンを取ったのは、西岡の主武器として
お馴染みの左ストレートではなく、コンパクトな左フックだった。
以前のようなフットワークのキレこそやや失われたものの
力強さは増していて、ここ数年で戦い方を変えてきているのが分かる。

このまま早いラウンドで終わるかと思いきや、ここからソテロが
巧さを発揮する。頻繁にスイッチを繰り返し、西岡を撹乱。
その中で危険な右ストレートが一発ヒット。思わずクリンチする西岡。
これは容易ならざる相手のようだ。

最初は戸惑っていた西岡だが、5ラウンドに入る頃にはソテロの
動きが読めてきたようだ。この辺りはさすがである。

この日に備え、西岡は接近戦の練習をよくしてきたという。
サウスポーだろうとオーソドックスだろうと、接近してしまえば
それほど違いはない。そういったことから、このソテロ相手には
接近戦に活路を見出すのが得策かと思われたが、西岡は必ずしも
接近戦にこだわらないようだ。もちろん接近してのボディ連打なども
あるが、中間距離でも打ち勝とうという意思が見えた。

第6ラウンド序盤に再三見せた、左ボディストレートを打って
素早くスウェーバックし、ソテロの反撃をかわすという動きは
出色だった。もうソテロの動きは完全に把握したようだ。

そしてこのラウンド終盤、またしても左フックをきっかけに
迫力の連打。ここで目の上をカットするトラブルがあり、試合は
一時中断されたが、再開直後、豪快な左ストレートで2度目の
ダウンを奪う。ここはゴングに救われたソテロだが、フィニッシュは
もう間近であることは誰の目にも明らかだ。

第7ラウンド。開始早々、左ストレートで3度目のダウン。
何とか立ち上がったソテロだが、10カウントが数えられるまでに
明確な続行の意思を示すことが出来なかった。


ヒヤリとした場面もあったが、終わってみれば西岡が強さを
見せつける内容となった。バンタム級時代は線の細さも感じさせた
西岡だが、スーパー・バンタム級におけるパワーアップの作業は
完成に近づいているようだ。

その分、危険な距離で打ち合う機会が増えたことは不安材料では
あるのだが、攻めきれずに大魚を逃した過去の反省をふまえ、
西岡なりに考えた上で現在のスタイルがあるのだろう。

スーパー・バンタム級の世界王者は、WBAがセレスティーノ・
カバジェロ、WBCがイスラエル・バスケス。いずれも強豪だ。
当然、分が悪いことを承知で挑まなければならない相手である。
これらの強者を向こうに回し、果たして西岡はどのような戦いを
見せるのだろうか。

評価を落としたかつてのホープが、こんなガラガラの会場から
這い上がり、もし世界を掴むようなことがあったら・・・
それは非常にドラマチックな話である。

4日の試合結果(海外)

2007年08月05日 | 海外試合(世界タイトル)
頼りにしていた海外情報サイト「pacquelmatador」が運営を
停止してしまったので、このブログでもなるべく海外の
タイトルマッチの速報などを書いていきたいと思う。

とはいえ僕は面倒臭がりなので、帝拳ジムのホームページ
BoxRec」を参考にする程度になるだろう。


デビッド・ディアスvsエリック・モラレス
 (WBC世界ライト級タイトルマッチ)

 ディアスが小差の判定勝ちで初防衛に成功。モラレスは初回に
 ダウンを奪ったものの、メキシコ人初の4階級制覇に失敗した。
 かつて軽量級のメインキャストの一人だったモラレスだが、
 これで4連敗となってしまった。


ウリセス・ソリスvsロデル・マヨール
 (IBF世界ライト・フライ級タイトルマッチ)

 ソリスが8ラウンドTKOで6度目の防衛に成功。
 マヨールが優勢に試合を進めていた中での逆転KOだったらしい。 
 イーグル京和との激闘で日本のファンにも馴染み深いマヨール、
 階級を一つ上げての挑戦だったが、またしても涙を飲んだ。   


ラファエル・マルケスvsイスラエス・バスケス
 (WBC世界スーパー・バンタム級タイトルマッチ)

 今年3月以来の両者の再戦。バスケスが6ラウンドTKO勝ちで
 王座を奪回した。マルケスは初防衛に失敗。前回同様、凄まじい
 打撃戦になったようだ。それにしてもバスケスはしぶとい。


セレスティノ・カバジェロvsホルヘ・ラシエルバ
 (WBA世界スーパー・バンタム級タイトルマッチ)

 カバジェロが判定勝ちで4度目の防衛に成功。
 ラシエルバの攻撃をアウトボクシングでさばいての勝利 
 だったらしい。この階級では飛び抜けて長身のカバジェロに
 アウトボックスされては、なかなか太刀打ち出来ないだろう。   

日本Sバンタム級TM 下田昭文vs塩谷悠

2007年08月04日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
下田昭文は、まだまだ発展途上のボクサーだ。
下田の美点はスピードと、高い身体能力。だがスタミナ配分も
含めた試合運びの面では、未熟さをさらけ出してしまう。
だが、そんな「危うさ」がまた、下田の魅力でもある。

飛び跳ね、ぶん殴り、ぶっ倒し、追い上げられ、ヘロヘロになり、
そして踏ん張り。実に騒々しく日本タイトルを奪い取った下田の
初防衛戦。その相手は、26歳ながら「老獪」という言葉が
よく似合う、非常にやりにくい選手だった。


かつて世界王座を6度も守り、その高い防御技術から
「アンタッチャブル」の異名を取ったテクニシャン、川島郭志。
その川島氏の最初の弟子であり、初のタイトル挑戦者となった塩谷。
無敗とはいえ、新人王になったということ以外に目立った戦歴はない。
そんなことも含め、下馬評では下田が有利という声が多かったように
思うが、あの川島氏が参謀に付いているのだ。きっと何か秘策を
授けているに違いない。


会場は大入り満員。若き王者、下田のきらびやかなボクシングは、
急激にファンを増やしている。それに加え、塩谷の支持者たちも
熱い声援を送る。

下田はいつものように、ハングリーな精神を前面に出したギラギラした
表情、塩谷は対照的に飄々とした顔付き。それはそのまま、両者の
ボクシングスタイルを反映していた。


ゴングが鳴った。いきなりハイスピードの駆け引き。お互いに細かく
体を動かし、フェイントを掛け合う。息のつけない戦いになりそうだ。

足を使って距離を保つ塩谷。長身でいかにもリーチの長そうな
この相手に、下田はなかなかパンチを当てられない。しかし、それでも
下田はじりじりとプレッシャーをかけ、左ストレートをきっかけに
一気に踏み込む。この一瞬のスパークこそが、下田がファンを
惹き付ける要因だ。塩谷もうかつには攻められない。お互いに
ディフェンスがいいためにクリーンヒットは少ないが、前半は
下田のプレッシャーとスピードが試合を支配しているように見えた。

塩谷は遠いところからパンチを放ち、接近したらクリンチ。
下田と真正面から打ち合うことだけは避けたい様子だ。
これを巧みなアウトボクシングと取るか、消極的な姿勢と取るか。
この辺り、ジャッジも判断に悩むところだろう。ただ、もう少し
ヒットの数を多くしなければ、明確な攻勢点を取るのは難しいように
思えた。巧くもあり、物足りなくもあり、といった印象なのだ。


そのような展開が3ラウンドまで続き、微差ではあるものの、
僕はここまで全て下田にポイントを振った。4ラウンドも似たような
形で終わるかと思われたが、ゴング間際に塩谷の左フック、
左アッパーが鮮やかにヒット。今日一番の力強さだ。これで、
このラウンドの採点が分からなくなってしまった。

これで勢いに乗ったか、5ラウンドからは塩谷のボクシングが
冴えを見せる。試合の展開そのものはさほど変わらないのだが、
塩谷のパンチが当たる場面が目立ってきたのだ。ただし、顔面に
なかなか当たらず苦労していた下田は、ボディ狙いに切り替え、
それもたびたび当たっている。採点はやはり微妙だ。

7ラウンド辺りからは、打ち合い、そして揉み合いも多く
なってきた。中盤にやや疲れるのは、下田のいつものパターン。
ただし、パンチが当たらず疲労が溜まる展開でありながら、
これまでに比べればスタミナはまだ持っている。

フェイントこそかけるものの、下田は真正面から、これといった
策もなく打っていく。「あくまで正面突破」のその姿勢は
ある意味で清々しいが、空回りすることも多い。

最終ラウンド。コーナーで、塩谷は笑顔を浮かべている。
自分のボクシングが出来ているという気持ちなのだろうが、
微妙な展開であることを、果たして自覚しているのだろうか。
一方の下田は、追い詰められた、飢えた狼のような表情。
最後は激しく打ち合って試合が終わった。


微妙なラウンドが多かったため、途中で採点を止めてしまった
のだが、大雑把に言うと、前半は下田のプレッシャーが試合を
支配し、中盤は塩谷のテクニカルなボクシングが冴え、終盤に
下田が再び盛り返した、といったような展開だっただろうか。
とはいえ、一つのラウンド内でも攻守が目まぐるしく入れ替わるので、
そうそう単純に言えるものでもないのだが。

そして判定。1ポイント差、2ポイント差、5ポイント差と
ジャッジによってバラつきはあったが、いずれも下田を支持。
初防衛に成功した。


塩谷は、さすが川島郭志の教え子、という巧さを見せたが、
明確に勝ちをアピールするだけの攻勢が足りなかった。一方、
下田は相変わらずの雑な試合運びを見せてしまったものの、
必死に攻め込んで勝利に漕ぎ着けた。

どちらがより自分のボクシングを遂行できたかと言えば、
それは塩谷の方だろう。しかし敗者は塩谷だ。逆に、思うような
ボクシングをさせてもらえなかった下田だが、それでも
何とか勝つことはできた。お互い違った意味で課題の見えた
試合でもあった。


試合前、下田は「挑戦者のつもりで行く」と語っていたが、
チャンピオンらしく綺麗に勝とうという意識があったように思う。
終盤に見られたように、塩谷を押し潰すような勢いで多少強引にでも
攻めて行く場面が多ければ、また違った展開になったかもしれない。

しかし、その表情だけは、相変わらず「挑戦者」のようだった。
豊富なアマチュアのキャリアを持ち、スマートな印象の選手が多い
最近の帝拳ジムにおいて、下田のようなキャラクターは珍しい。
実を言うと、僕はそこに最も魅力を感じているのだ。

どちらかがダウンしたり大きなダメージを負ったりする場面はなく、
後半は揉み合いも多かったことから、この試合を「凡戦」と見る
向きもあるだろう。しかし、僕はそうは思わない。
「相手の良さを封じ込める」だけの巧さに欠ける下田は、常に
相手の美点を引き出してしまう。だから熱戦になるのだ。

と同時に、今回は塩谷の方が下田の良さを封じる巧さを持って
いたため、下田の才能を堪能したいという人からすれば、やや
不満の残る試合でもあっただろう。


やりにくい挑戦者を下したにもかかわらず、インタビューでの
下田は反省ばかり。未熟であるがゆえ、精神的な渇きはまだまだ
収まらない。下田はきっと、もっと強くなるだろう。

その才能が完全に開花する日が、いつか来るのだろうか。
それはまだ、誰にも分からない。