ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

注目の日本フェザー級戦

2007年02月24日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
いよいよ1週間後に迫ったこのカード。
日本フェザー級タイトルマッチ、王者・梅津宏治と、挑戦者・
粟生隆寛の一戦は、日本タイトルマッチにしては珍しいくらいの
注目を集めている。


大方の関心はやはり、アマチュア時代に史上初の「高校6冠」を
達成した帝拳ジムのスーパーホープ、粟生隆寛のタイトル奪取なるか、
という点だろう。デビュー当時から「世界を狙う」と公言している
選手だから当然と言えば当然なのだが、早くもこの試合に勝つことを
前提に、「どういう勝ち方をするか」を問う向きもあるようだ。

プロデビュー戦で、初めて粟生を見た時は驚いたものだ。
日本人離れした柔軟な身のこなし、スピード、防御勘、そして
左カウンターのキレ。確か、その時のリングで既に「WBAと
WBC、両方のベルトを取ります」と言っていたと思うが、
これは素晴らしい大器が出てきたなあ、と大いに期待した。

しかしその後の粟生のキャリアは、期待のスーパーホープとしては
やや物足りなさを感じさせるものだった。元中南米王者だの元
日本ランカーだの、微妙な肩書きの相手を迎えてみたり、ポイント上は
まず無難に勝ってはいるが、倒しきれずにフルラウンドを重ねたり、
またラフに攻めてくる相手を持て余すこともあった。

ただ、プロらしい逞しさを身に付けるためには、それも必要な
経験だったのかもしれない。梅津もまた、タフなファイターである。
粟生の成長を見るには、格好の相手と言えるだろう。


その梅津だが、彼は粟生とは好対照なキャリアを持つ選手だ。
負け数も多いし、パンチ力やスピードなど、決して突出した
武器もない。ボクシングのセンスだけを取れば、粟生に大きく
劣ると言わざるを得ないだろう。

にもかかわらず、梅津は試合前からやけに自信のありそうな
発言を繰り返している。マスコミ向けのリップサービスという
面もあるだろうが、「頭脳派」として知られる梅津だけに、
粟生対策に一定の手応えを感じているのだろう。


試合のカギは、粟生がこれまで積んできたキャリアが果たして「本物」
であるかどうかという点。それ如何では、粟生が終始圧倒する可能性も
あるし、ラフファイトに巻き込まれて失速する可能性もあると思う。

梅津の粘り強さを考えれば、試合が序盤で終わることは考えにくい。
粟生が苦しみながらも中差の判定勝ちで王座を獲得する、というのが
一応の僕の「予想」だが、本音を言えば、鮮烈なKOで粟生が勝ち、
ニューヒーローの座に踊り出てもらいたい。まあ得てして、そういった
期待は叶えられないものではあるのだが・・・。

榎洋之vsクラーブデーン・ギャットグリーリーン

2007年02月17日 | 国内試合(その他)
世界ランクもいよいよ上位につけ、後は世界へのゴーサインを
待つばかりとなった榎。この試合は、「世界前哨戦」と銘打たれていた。

クラーブデーンは、明らかな格下。しかし、多くのボクサーが、
こういった格下相手の「前哨戦」ほど緊張するものはない、と
言っている。いい勝ち方をして、タイトルマッチへ向けてアピール
しなければならないし、ましてやポカなど絶対に出来ない。
ふと気付くと、目の前の相手より「その次」にばかり気持ちが
向いている自分。下手をすると足元をすくわれるのではないか?
そういった恐怖心があるのかもしれない。


榎の入場。表情はかなり強張っている。大方の例に漏れず
緊張しているのか、それとも世界戦と同じテンションで臨もうと
いう気持ちの表れなのだろうか。

とはいえ、試合が始まると、やはり格の差は歴然。
得意のジャブを中心に思うようにパンチを当て、4ラウンド、
2度のダウンを奪う。さらにクラーブデーンに襲い掛かる榎。
もう1度ダウンを奪えば、自動的にKO勝ちで試合終了だ。
誰もが、「ここでケリがつく」と思ったに違いない。

またクラーブデーンが倒れたが、レフェリーはスリップの裁定。
ダウンと間違え、ゴングが鳴らされるというハプニングもあった。
さらに詰めていく榎。ところが、ここでクラーブデーンが
思い切り振った右がカウンターでヒット、榎が思わずよろめく。
KOを期待するムードから一転、騒然とする場内。
ここでラウンド終了のゴングが鳴り、事なきを得た榎だったが、
その一撃により、鼻からは大量の出血が。

タイ人選手は、変則気味に突然右の大振りを狙ってくるケースが
よくある。だから、格下といえども気が抜けないのだ。

続く5ラウンド、榎は自分を落ち着かせるかのように再び
丁寧にジャブから入るが、時折クラーブデーンの右もヒットする。
しかし6ラウンド開始早々、上手い具合に力の抜けた右アッパーで
再びダウンを奪い、そのまま10カウントが数えられ、試合終了。
ヒヤッとする場面もあったが、まずは榎がその実力をアピールした。


詰めに行った時に、防御がわずかにおろそかになる。これは
ほとんど全てのボクサーに当てはまることではあるが、榎の場合は
パンチにスピードがないので、そこにカウンターを合わせられる
危険も高い、ということだ。

「榎はスピードがないから・・・」というのは、以前から言われて
いたことだ。しかしそれでもここまで「無敗」という形で結果を
出してきたのだから、それについて今更どうこう言うつもりはない。
ただ、世界チャンピオンともなれば、当然そこを突いてくるだろう。
それを想定して対策を練ることが必要になってくる。

スキンヘッドに鋭い眼光。榎は、「求道者」とでも言いたくなるような
独特の存在感を持ったボクサーだ。世界のフェザー級は昔から層が厚く、
簡単には行かないだろうが、榎のボクシングがどこまで通用するのか、
見てみたいと思う。

ボクシングニュース

2007年02月13日 | その他
・グリーンツダジム名誉会長・津田博明氏が逝去

 井岡弘樹、山口圭司という2人の世界王者を育て上げ、
 グリーンツダジムを「関西の名門」にまで押し上げた津田氏。
 「浪速のロッキー」と呼ばれた元世界ランカー赤井英和や、
 最近では亀田興毅(現在は協栄ジムに所属)を売り出したことでも
 知られる切れ者だった。

 その人柄についてはよく知らないが、長い間病気を患い、さぞ
 苦しんだことだろう。ご冥福をお祈りしたい。

 

・坂田健史、4度目の世界挑戦決定

 これまでの3度の世界挑戦では、いずれも惜しいところで
 大魚を逃している坂田だが、昨年12月の暫定王座決定戦から
 わずか2ヶ月で「4度目」が決まったというのは、ある意味で
 運が向いてきている、という考え方も出来る。

 間を置かず、これだけ短い準備期間で挑戦するということは、
 恐らく陣営としてもかなりの勝算があるのだろう。当時のWBC王者に
 挑戦して引き分けた後、わずか3ヵ月後にWBA王座に挑み、
 見事KOで悲願を達成した協栄ジムの先輩、佐藤修(元WBA世界
 スーパー・バンタム級王者)のケースを思い起こさせる。
 逆に言えば、これで失敗するようなら後はかなり厳しくなるだろうが・・・。


・協会長選、輪島氏と具志堅氏が立候補取り下げ

 混迷気味だったボクシング協会の会長・副会長選だが、どうやら
 落ち着くところへ落ち着きそうだ。会長はファイティング原田氏が
 続投、副会長は大橋秀行氏になるのだろう。

 改革派、やり手として評価の高い大橋氏が、旧体制の象徴とも言える
 原田氏の下で、どこまでボクシング界を活性化できるのか、注目だ。
 

・「定年」を迎える辰吉丈一郎の近況 

 日本のボクサーの「定年」は37歳。ただし、過去に日本や東洋、世界
 などのタイトルを獲った経験のある者や現役の王者、あるいは王座挑戦を
 控えた選手などは特例として定年を免れる。辰吉もこの特例に該当するため、
 コミッションとしても早急に引退勧告などを出す気はないようだ。
 
 しかし、現実には試合を組むことすら困難な状況で、本人だけが
 意地を張っているという印象だ。練習はしているものの、昨年の11月
 以来スパーリングもしていないという。


・西澤ヨシノリに引退勧告、海外で現役続行か

 もう一人、定年オーバーのボクサーの話題を。
 41歳の西澤、先月の試合(判定負け)では動きが鈍く、不用意に
 パンチを受ける場面も見られた。引退勧告を受けるのも無理はない。

 しかし西澤は現役続行に執念を燃やしており、JBCの管轄外、
 すなわち海外に活動の拠点を移すという意思を表明している。
 ボクシングは非日常の世界。一度魅せられると、抜け出すのは
 困難だという。でも家族は大変だろうなあ・・・。
 

東洋太平洋ウェルター級TM 丸元大成vs竹中義則

2007年02月12日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
丸元を初めて見たのは、まだ新人の頃の映像だった。
当時話題になっていた「現役京大生ボクサー」川島実を追った
ドキュメンタリー番組で、その対戦相手として登場したのだ。
もちろん番組の主役は川島で、丸元は脇役に過ぎない。確か一度は
ダウンを奪いながら、逆転KOで敗れたように記憶している。

調べてみると、それは2000年のこと。両者にとって再戦だった。
なお、この2人は都合3度に渡って対戦しており、川島が2勝した後、
2003年には丸元が一矢を報いている。いずれもKOでの決着だった。


あれから7年。主役だった川島はいつの間にか引退し、脇役だったはずの
丸元は、何とチャンピオンになっていた。ちなみに、タイトルを獲った
試合の前、丸元は2連続KO負けを記録している。番狂わせだったのだ。
気は強いが打たれ脆い。そんな印象しかなかったあの丸元がチャンピオンに。
そう思うと、なかなか感慨深いものがある。


そして、この日は丸元の初防衛戦。相手は竹中義則。大曲輝斉の
持っていた(当時)日本ウェルター級タイトルに挑みKO負けし、
4度目の王座挑戦に失敗。あの試合を最後に引退したものとばかり
思っていたが・・・何か期するものがあったのだろうか。

しかし、入場してきた竹中の表情には、まるで覇気がない。
本人の意思ではなく、何か外部の力で無理やりリングに上げられたの
では?そんなことさえ考えてしまった。


試合は、ほぼ一方的なチャンピオンのペースで進んでいく。
丸元というのは、こんなに巧いボクサーだったのか・・・。
丁寧にジャブを突き、ステップを踏み、竹中を寄せ付けない。
見る見る内に、竹中の目が腫れてくる。

第7ラウンドまで来た。竹中の目の腫れは一層ひどくなり、
いつストップされても不思議ではないところまで来ている。
やはり、このまま終わってしまうのか・・・。

だが、ここで竹中が意地を見せる。左フックでダウンを奪うのだ。
あまりにも上手く行き過ぎると、ふと気が抜ける瞬間があるのかもしれない。
効いている。千載一遇のチャンスだ。

ただし、丸元には意外なほど動揺が見られない。打たれ脆いだけに、
ダウン慣れしているのだろうか。それとも、王者になったという
自信が丸元を強くさせたのか。何とかこのラウンドを凌ぎ切った。

ダウンしても崩れなかった丸元。最大のチャンスを逃した竹中。
結局、流れは変わらなかった。そして9ラウンド、ついに竹中に
レフェリーストップがかかった。やや唐突な印象もあったが、
目の腫れとダメージ、両面を考慮したのだろう。理のある判断だ。


集中力の一瞬の欠如と、相変わらずの打たれ脆さ。ほぼ完璧な
試合運びをしていただけに、かえって丸元の不安材料も浮き彫りに
なってしまったが、まずは上出来の初防衛戦と言っていいのではないか。
次の相手は、以前このタイトルを保持していたレブ・サンティリャン。
東洋レベルでは、間違いなく強豪だ。

5度目の挑戦にも敗れた竹中。さすがに「6度目」はないだろう。
竹中の試合やインタビューを見ていつも思っていたのは、この人は
人が良すぎて鬼になり切れない部分があるのでは、ということだ。
ボクシングの世界では充分に満足できる実績を残せなかっただろうが、
だからといって、人として駄目だということにはならない。
次の人生での幸せを願いたいと思う。

日本Sフライ級TM 菊井徹平vs河野公平

2007年02月12日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
ここまで1勝1敗と、五分の戦績を残している両者。
互いの星を奪い合い、ランキングを奪い合い、そして競うように
出世して、ついにタイトルマッチの舞台で決着をつけることとなった。
現在のランキングは、菊井が日本王者にしてWBC3位、河野が
WBA5位。これに勝てば「世界」も見えてくる位置だ。

初戦は見ていないが、菊井が河野の突進を止め切れずに敗れた、という
内容だったようだ。第2戦は、苦手だった接近戦にも進境を見せた
菊井が判定勝ち。この経緯を考えると、菊井の勝利は揺ぎないものの
ように思えた。本来アウトボクサーである菊井が距離を取れば、まず安泰。
そして近い距離でも打ち負けなくなった。これでは菊井が負ける要素がない。

ところが実際の試合は、そんな僕の予想をあざ笑うかのように、
いきなり河野が激しく攻撃を仕掛け、1ラウンドに早くもダウンを
奪うという驚きの展開で幕を開けた。

そして、ダメージと動揺を抱えた菊井はその後もペースを取り返せず、
見事河野が判定で新王者となった。菊井は2度目の防衛に失敗。


一見不器用なタイプに見える河野だが、菊井をよく研究し、また
その成果を試合の場で披露するべく濃密な練習を積んできたようだ。
菊井が何をされたら嫌がるか、あるいはどの角度やタイミングなら
パンチが当たるかを熟知しているような攻撃ぶりだった。
防御の良さには定評のある菊井が、いとも簡単に被弾してしまうのだ。

入場時は少し気合いが入りすぎ、力みすぎかなとも思ったが、恐らく
ゴング前に充分に体を温め、すぐに攻勢をかけるつもりだったのだろう。
そして思惑通り序盤からペースを握り、全ての作戦が図にはまった。


接近戦への苦手意識は克服したはずの菊井だが、この日は接近戦を
極端に拒み、恐れているようにすら見えた。河野の圧力が予想以上
だったのだろう。確かに驚異的な手数だ。避けても避けてもパンチが
飛んでくる。

「当たるまで手を出す」というのは、言うのは簡単だがなかなか実行
できないことの代名詞のようなものだが、河野はそれを見事に実践していた。
決して一発のパンチ力があるとは言えないが、それを手数でカバーしている。
つまり、己をよく知っているのだ。


テクニックでは劣ると見られていた本田秀伸を手数で攻め落として
世界ランクを手に入れ、一気に日本、そして世界の頂点へと駆け上がった
名城信男の姿が、この日の河野にはダブった。奇しくも同じ階級だ。

ひたすら前に出るファイターということで、玄人筋には評価されにくい
タイプだとは思うが、名城も、そして河野も、ファイターとしての
目に見えにくい技術を持っているように思う。

河野に「世界」はまだ早いような気もするが、「もう一気に世界に
行きたいです」というリング上での勝利者インタビューの言葉には、
何やら不思議な説得力があった。名城と河野、この2人が世界戦の舞台で
ノンストップの打ち合いを繰り広げる場面を思わず想像してしまった。


一方の菊井だが、世界ランクとともに、前回の防衛戦で上げた評価も
下げてしまいそうな負け方だった。開き直って打ち合いに転じた終盤には
いいパンチも当てていたのだから、自分の力を信じてもっと早くから
勝負に出ていれば、違った結果が出ていたかもしれない。

前回の試合でゲスト解説に来ていた、あの徳山昌守をも唸らせたほどの
左ジャブの名手なのだ。ここで終わるのはもったいない。

ホルヘ・リナレスvsラミロ・ララ

2007年02月03日 | 国内試合(その他)
日本の帝拳ジムに所属し、日本から世界王者になることを
望む「ベネズエラのゴールデンボーイ」リナレス。
タフな相手を前にダウンこそ奪えなかったものの、今回も圧倒的な
力量の差を見せ付けて3ラウンドTKO勝ちを収めた。
1ラウンド前半の動きを見る限り、なかなかの曲者ではないかと
思われたララだが、結局ほとんど何も出来ずに敗れてしまった。

誰もが認めるような世界レベルの選手とはまだ手合わせがない、
という部分で多少不安材料はあるものの、普通に戦えば普通に
世界チャンピオンになるのではないか、という気がする。
仮に初挑戦で敗れたとしても、いずれは世界の頂点に立つのでは
ないか、それだけの実力を感じさせるのだ。

あえてウイークポイントを探すとすれば、KOを狙いながら
倒せずに試合が長引いた時など、若干カッカするところがある
という点だろうか。また、この日は、TKOを呼び込んだ
第3ラウンドに、詰めに行く時にいくつかパンチを貰っていた。
派手に倒してアピールしたいという気持ちが守りの雑さを
生んだのだと思うが、「打たせずに打つ」慎重なボクシングが
リナレスの本来の長所だ。若干21歳の青年には望みすぎかも
しれないが、冷静な試合運びに徹してもらいたいと個人的には思う。

変な言い方になるが、決して派手さはないのに何やら華がある、
リナレスはそんな選手だ。世界チャンピオン間違いなしと言われながら、
なかなか挑戦のチャンスが訪れないリナレス。もっともっと注目される
べきボクサーだと思う。