ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

ボクシングニュース

2006年03月30日 | その他
・イーグル京和、標的は亀田?

まあ単なるリップサービスだと思うが・・・。
それ以前に、WBA王者・新井田豊との統一戦は本当に実現するのだろうか。
これまで、日本のジムに所属する選手が統一戦に出た例はない。

ただし、同団体の正規王者と暫定王者が「統一戦」を行ったことはある。
WBCバンタム級王者の薬師寺保栄が暫定王者の辰吉丈一郎と、また新井田も
暫定王者のファン・ランダエタと統一戦をした。

・稲田、アメリカでWBC暫定王座決定戦

稲田は東洋太平洋ライト級王者。日本人離れした長い手足が印象的な選手だ。
そして決定戦の相手は、辰吉にKO負けしてWBCバンタム級王座を失い、
また決定戦で長嶋健吾をKOしてスーパー・フェザー級の王座を獲得した、
あのシリモンコン・シンワンチャーである。シリモンコンが勝てば3階級制覇だ。

稲田の勝機もなくはないと思うが、それより気になるのは、これが「暫定」で
ある点だ。もし稲田がこれに勝ち、また暫定王者のまま防衛戦に敗れ、その後
王座返り咲きを果たすことなく引退した場合、稲田の肩書きには一生「暫定」の
2文字が付いて回るのだろうか。まあ今から気にしてもしょうがないが・・・。

・史上初、日本王者vs東洋王者のタイトルマッチ!

これは楽しみな試合だ。以前から対戦が噂されていたが、本当に決まるとは・・・。
勝った方は2冠保持者となるわけで、スーパー・ウェルター級のクレイジー・キムと
並び、日本に2冠王者が2人存在することになる。これも史上初ではないだろうか。

試合の予想だが、内藤がベストの状態なら内藤の勝ちだろう。しかし内藤も既に
31歳、先日の中広大吾との防衛戦では動きに精彩を欠いていた。これがもし
年齢による衰えなら、小松の精力的なアタックをさばき切れず負ける可能性もある。


三谷将之vsサムヨット・ウォルソラポン

2006年03月26日 | 国内試合(その他)
既に関西ではホープとして名前が知られつつある三谷。
2月の試合で世界11位の選手を判定で下す殊勲の星を挙げた
ばかりだというのに、早くも次の試合が行われた。

僕は今回初めて三谷を見たのだが、予想以上の好選手だった。
驚くような「天才的な動き」をするわけではないが、攻防ともに
非常によくまとまっている。地方のホープというと攻撃力だけが
売りの選手が多く、相手のレベルが上がると技術的な未熟さを
さらけ出してしまうケースも少なくないが、三谷は違うようだ。

真っ直ぐ綺麗に伸びるジャブを放ち、スピードもある。そして
何よりディフェンスがしっかりしている。基本に忠実な印象だ。
KOを決めたアッパーも見事だった。ジャブやフックなど、
真っ直ぐや横からの攻撃に相手の目を慣らしておいて、いきなり
アッパーを打っていったのだ。これはなかなか避けられないだろう。

この日の相手は明らかに格下で、結果も1ラウンドKOとあまりに
短くはあったが、全く危ない場面もなく、格の違いを見せ付けての
勝利なのだから、いい勝ち方をしたと言っていいと思う。

この三谷、既に日本タイトル挑戦が内定(決定?)しているという。
日本バンタム級といえば、先日も書いた通り鳥海純と池原信遂の間で
王座決定戦が行われることが決まっているので、その勝者に
挑むことになる。これは非常に楽しみだ。


そう考えると、関西のボクシング界、特に軽量級は今かなり熱い。
長谷川穂積、徳山昌守という二人の世界チャンピオンを頂点として、
日本ミニマム級王座を獲得したばかりの元世界王者・高山勝成や、
指名挑戦者として世界に挑むことが決まっている名城信男、
東洋太平洋フライ級王者で、日本王者の内藤大助とのビッグマッチを
控える小松則幸。他にも前述の池原や、池原と同じく元世界王者を
KOした戎岡淳一などもいる。

実力もさることながら、強い相手や名のある相手と戦い、そして勝ち
上がってきた選手が多いのが最近の関西リングの特徴だ。非常にいい
傾向だし、頼もしくもある。今後もしばらくは関西のボクシング界に
注目が集まることだろう。


WBC世界バンタム級TM 長谷川穂積vsウィラポン・ナコンルアンプロモーション

2006年03月25日 | 国内試合(世界タイトル)
「もう一度ウィラポンに勝つまでは真の王者とは思えない」と
以前から語っていた長谷川が、雪辱に燃えるウィラポンをこれ以上
ないというほどの形で返り討ちにし、2度目の防衛に成功した。

試合前、まず気になったのはウィラポンの仕上がり具合だったが、
ウィラポンは実に見事な体を作ってきた。37歳とは思えない、
まるで弛みのない肉体だ。それを見て一瞬不安がよぎるが、
長谷川も体つきの良さでは負けていない。両者とも、少なくとも
現時点で出来うる準備は万全に整えてきたことが分かる。


試合は、予想を超えて一方的なものとなった。長谷川のスピードに
ウィラポンはついて来れない。時折ウィラポンの右ストレートが
顔面やボディを捉えるが、長谷川は全く動じることがない。

2ラウンド終了時、コーナーに帰るウィラポンの表情には、まるで
既に試合の後半であるかのような疲労の色が浮かんでいた。
もちろん、実際にそれほど疲れていたわけはない。恐らく、1年振りに
味わった長谷川のスピードに「これはしんどい試合になりそうだ」と
直感したのであろう。ウィラポンに「老い」を見た瞬間だった。

この序盤戦、最も僕の目を奪った長谷川のパンチは、アッパーである。
長谷川といえば左ストレートや右フックのイメージがあり、アッパーを
打つシーンというのは今まであまり印象にない。これは今回の再戦に向け、
長谷川陣営が密かに練習していたパンチらしいが、まるで長年頼りに
してきた武器であるかのように、自在にウィラポンの顎を跳ね上げていた。

これだけ多彩なパンチがあらゆる角度から、しかも高速で次々と
飛んでくるのだからたまらない。左フックをよけてホッとしたのも
束の間、すぐにアッパーやらボディブローやらを打たれるのだ。
特に第6ラウンドに見せた長谷川の連打は、これぞ鬼神の攻めと
いうものではないだろうか、と感じたほどだ。無慈悲で容赦のない、
鋭いパンチの雨あられ。手数に比してクリーンヒットはそれほど
多くはなかったが、並の選手なら恐怖を感じてもおかしくない。

しかし次のラウンド、ウィラポンは前に出てきた。さすがは誇り高き
タイの英雄である。長谷川もこれを真っ向から迎えうち、リング中央での
接近戦が延々と続くラウンドになった。長谷川も決して打ち負けては
いないのだが、ウィラポンの執念、闘志が若き王者を追い込んだような
印象を与えた。

続く第8ラウンドは一転して足を使い、ジャブを多用する長谷川。
なおも前進を続ける挑戦者を上手くさばいているようにも見えるし、
その突進に気圧されて下がっているようにも見える。ここでも決して
一方的に打ち込まれる場面はなかった長谷川だが、6ラウンドまでが
あまりに圧倒的だったため、ウィラポン優勢に見えたのは皮肉だ。
ただ、この7、8ラウンドは、少なくとも気迫の面ではウィラポンが
長谷川を上回っていたように見えたのも確かだ。

そして、少し不穏な空気も漂い出した中で迎えた第9ラウンド。
それだけにこのフィニッシュシーンは鮮烈だった。開始直後、
ウィラポンの右に合わせた見事なカウンター。物凄い音がした。
ウィラポンが前のめりに崩れ落ちる。即座に「終わった」と
思わせるほどの決定的な一打だ。必死に立ち上がろうとするが
足が言うことを聞かずよろめくウィラポンを見て、レフェリーは
カウント途中で試合をストップ。長谷川のTKO勝ちが告げられた。

まさかこのような形で、ウィラポンがマットに沈もうとは・・・。
わずか4戦目でWBAのバンタム級王者となったウィラポンは、
その初防衛戦でガーナのナナ・コナドゥにKO負けして王座を失った。
しかしそれ以降の10年間、彼は一度も倒れたことがないのだ。そんな
ウィラポンのダウンシーンは、衝撃としか言いようのない光景だった。


解説者の浜田剛史氏(元WBC世界スーパー・ライト級王者)が
最後に何気なく言った「この右に合わせましたね」という言葉は
印象的だった。「この右」とは、長谷川を含めたサウスポーの
挑戦者たちを散々苦しめてきた、ウィラポンの最も得意なパンチの
一つである、ジャブのように伸ばす速い右ストレートのことである。
その右にカウンターを合わせたのだ。それはまさに「ウィラポン
越え」そして「新旧交代」を表す象徴的なシーンだった。
それにしても、これほどまでに完璧な、絵に描いたように美しい
カウンターを世界戦で見ることは非常に稀である。

冷静になって考えてみると、7,8ラウンドの「ピンチ」も、
長谷川にとっては想定内だったのではないかと思える。少なくとも
ここ数年のウィラポンは「待ち」のボクサーであり、自分から
攻めて出るということはあまりなかった。そんなウィラポンが
ひたすら前に出てくるということは、つまりそれだけ劣勢を
感じており、前に出なければならないという状況に追い込まれて
いたということだ。

そしてそれらのラウンドで手応えを感じ、更に攻勢を仕掛けようと
考えたのだろう。あの第9ラウンドのウィラポンの前進は、14度も
王座を守ってきた男のものとは思えないほど不用意だった。それだけ
疲弊し、判断力が鈍っていたことの証明だと思う。

ウィラポンの調子は、決して悪くなかった。しかしそれはあくまで
「37歳のウィラポン」が作りうる中での最高のコンディションであり、
全盛期の動きが戻るはずもない。上り調子の長谷川との差は、もはや
埋めようがないほど開いていた。だからと言って、「全盛期のウィラポン
なら長谷川に負けなかった」という空想話にはあまり意味がない。
「長谷川穂積がついにウィラポンを越えた」この事実こそが、この日の
最も重要な出来事だったのである。


しかしまあ、長谷川穂積は何とも「やっかいな」ボクサーになったものだ。
フットワークも防御勘も良く、スタミナも豊富。右にも左にも一発で倒す
決定力がある上に、連打の回転も速い。おまけに強心臓。その長谷川に
今日のようなコンディションで来られたら、ウィラポンでなくとも
攻略するのは相当に難しいだろう。

明日再戦、長谷川vsウィラポン

2006年03月24日 | 国内試合(世界タイトル)
いよいよ明日に迫ったWBC世界バンタム級タイトルマッチ。
長谷川穂積とウィラポン・ナコンルアンプロモーションが、
立場を入れ替えて再戦する。

各ボクシングサイトやブログなどでも試合の予想が出揃ってきている
ようだが、正直言うと僕の予想は「分からない」である。


前回の両者の対戦は昨年4月。それまで14度もの防衛を果たしてきた
絶対王者ウィラポンだが、調整に失敗したのか年齢による衰えなのか
動きが鈍く、若き挑戦者・長谷川のスピードと気迫の前に敗れ去った。

その後ウィラポンは再起し5戦全勝。長谷川へのリベンジを意識し、
サウスポーとの対戦が多かったという。王座返り咲きにかける
執念は本物のようだ。問題はコンディションである。もし前回の敗戦が
単なる体調不良によるものだったとしても、37歳になった彼に
これ以上の体力的上積みは期待できない。

一方、前回とは逆に有利の予想を立てられた長谷川だが、そういった
世間の声とは裏腹に、ベルト奪回にかけるウィラポンの執念に対して
警戒感を示し、「前回よりも勝てる確率は低い」とまで言っている。
本人の中では、あの勝利はウィラポンの不調や油断によるものだという
認識があるのかもしれない。


そういった様々な要素を考えると、この試合の予想は非常に立てにくいのだ。
ウィラポンのコンディションはどうか、あるいはどんな作戦で来るのか。
技術的な引き出しの多い両者であるから、お互いの出方次第で戦い方も変わって
くるだろう。つまり、前回と同じような展開になるとは言い切れないのである。

焦点の一つは、ウィラポンが長谷川のスピードにどこまで対応できるか、と
いうことだ。反応速度の鈍ってきたボクサーにとって、スピードは最も
やっかいな敵である。もしウィラポンが明らかな「衰え」を晒してしまう
ようなら、ほぼ一方的に長谷川が試合を牛耳ることになるだろう。
最近は攻撃力もアップしてきている長谷川である。そうなればKO防衛の
可能性も膨らんでくる。

逆に、ウィラポンが良いコンディションを整えてきた場合、あるいは衰えを
カバーするだけの気力を見せることが出来た場合は、持ち前の老獪さを駆使して
長谷川の動きを封じる展開になるかもしれない。また、基本的には「手堅い
ボクサー」という認識のあるウィラポンだが、荒々しい攻めも不得手ではない。
かつて辰吉丈一郎を2度もKOしたように、攻撃力だって決して軽視できないのだ。


答えの出ない「試合予想」だけでここまで書いてきてしまったが、つまりは
それだけ楽しみな試合だということである。今はただ、ドキドキしながら
ゴングが鳴るのを待つばかりだ。



日本ウェルター級TM 大曲輝斉vs竹中義則

2006年03月21日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
国内では飛び抜けた実力を持ち、日本タイトルを3階級制覇した湯場忠志を
わずか40秒、たった3発のパンチでKOし衝撃の王座奪取を果たした大曲。
元世界王者の大橋秀行氏が「今の日本で一番パンチがある」と評するボクサーだ。

王座を獲得した試合があまりにも早い決着だったため、その実力がどれほどの
ものか疑問視する向きもあったのも事実で、今回の初防衛戦には「力の証明」が
求められた。ここであっさり負けてしまえば、湯場戦が「まぐれ」と言われかねない。

そんな重要な試合を前に、大曲は調整に失敗してしまう。風邪を引いて体調を崩したため
減量が上手く行かず、計量で何と700グラムもオーバー。サウナに入って無理やり
体重を落とし、2回目の計量で辛うじてパスしたのだ。初防衛、周りの期待、そして
体調不良。不安要素だらけで当日を迎えることとなってしまった。

ただし、計量をパスした直後に大曲も語っていたように、プレッシャーのかかる
試合では多少のトラブルがあった方がいい場合もある。余計な緊張を感じる余裕が
失われ、かえって集中できるという面もあるからだ。元世界王者の戸高秀樹も
そうだった。彼のベストバウトとも言えるヨックタイ・シスオー戦の前にヘルペス
(帯状疱疹)を発症し周囲を心配させたが、強敵相手に見事な逆転KO勝ち。
こういった例は少なからずあり、ボクシングという競技において、メンタル面が
いかに重要であるかを思い知らされる。

一方、挑戦者の竹中にとってもこれは背水の陣と言える戦いであった。
4度目のタイトル挑戦、33歳という年齢。「負ければ間違いなく引退」と悲壮な
覚悟を決めてリングに上がった。過去の3度の挑戦のうち2度はKO負けだが、
1度は引き分け。限りなく王座に近い位置まで上り詰め、「あともう少し頑張れば
タイトルに手が届くかもしれない」という思いが、彼を現役に留めてきたのだろう。


ところが試合の方は、あっという間に終わってしまう。第2ラウンド、大曲が
2度のダウンを奪った。いずれも立ち上がった竹中だが、レフェリーは続行を
許可せず、TKOで大曲が初防衛に成功したのだ。本当にあっけなかった。

個人的には、竹中はまだ試合を続けるだけの余力を残していたように感じられ、
少しストップが早いのではないかと思ったが、それは竹中の「負ければ引退」という
状況を知っていたからこその思いであったのかもしれない。竹中自身もストップに
不服そうだったし、誰もが納得するレフェリングというわけではなかったと
思うが、決して「不適切な判断」と言うほどのものでもなかった。

あまりにあっけない結末だったため、今回も大曲の力の全貌を知ることは
出来なかった。調整のミスも含め、大曲にとってもやや不満の残る試合だった
のではないだろうか。ただ、傍目にはそれほど強烈だとも思えなかったパンチで
竹中がバッタリと倒れこんだのだから、やはりパンチはあるようだ。


もし今後の防衛戦で大曲のパンチ力が「本物」だと実証されるようなら、
イチかバチかで世界に打って出るのも面白いかもしれない。例えば同門
(ヨネクラジム)の日本&東洋太平洋スーパー・ウェルター級王者である
クレイジー・キムと比較すると、総合力ではキムが大きく上回るだろうが、
パンチ力という飛び抜けた武器を持っている分、イチかバチかの勝負では
大曲の方が何かやってくれそうな気がする。

もちろん、この両者とも「世界」との実力差が大きいのは確かだが、
何度も書いているようにこの辺りの階級は恐ろしく層が厚いので、日本人
ボクサーが正攻法でタイトルを奪おうとしてもなかなか難しいだろう。
たとえマグレと言われようとも、たった1発のパンチで世界を獲ったり、
人生を変えてしまうことが出来たりするのがボクシングだ。逆に、いかに実力が
あろうとも、世界チャンピオンにならなければ世間では無名のままなのだ。

挑戦の手順だの挑戦資格だの、ファンは色々とやかましく言うものだし、
誰もがギャンブル的な挑戦を認められるわけではないが、かつての仲里繁
ように、「強打のロマン」を感じさせてくれる選手には、そういったチャンスが
多少なりとも与えられてもいいのではないかと思う。




日本バンタム級王座のゆくえ

2006年03月21日 | その他
サーシャ・バクティンが返上した日本バンタム級のタイトルは、
同級4位で元東洋太平洋王者の鳥海純と、元世界王者をKOして波に乗る
池原信遂(WBA8位)との間で争われることになった。

日本国内で勝てる選手はいないとさえ思われた絶対王者のサーシャが
いなくなったことにより、むしろ日本バンタム級戦線は面白くなったと
言えるかもしれない。

ここに、サーシャに2度挑戦していずれも敗れた熟山(みのりやま)竜一
なども絡んできたらまた面白い。熟山は池原と同じく関西の実力者で、
攻防ともに非常に高いレベルの持ち主だ。未だタイトルに縁がないのが
不思議なほどで、個人的にはこの熟山に悲願の王座獲得を望みたい。

日本ミニマム級TM 小熊坂諭vs高山勝成

2006年03月18日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
WBC世界ミニマム級王座の初防衛戦で、イーグル京和に敗れて
タイトルを失った高山だが、その試合でむしろ高山の評価は上がった
のではないだろうか。僕は高山をそのイーグル戦で初めて見たのだが、
ああいうタイプの選手は結構好きだ。

パンチ力には欠けるが、最軽量級らしいスピーディな動きは見ていて
心地良い。あれだけ動けるのは若さのおかげでもあるだろうし、
また普段の走り込みを相当やっているせいでもあるのだろう。

一方、ここまで日本タイトルを7度も守っている小熊坂だが、
その全てが判定決着だということを差し引いても、どうにも
試合振りがパッとしない。のらりくらりとした動きの中から、
唐突に大きなパンチを振るっていく。パンチ力はありそうだが、
KOで勝とうという意思があまり感じられない。さらに、苦戦した
試合ですら、どこか余力を残しているかのように見える。

接戦を常にモノにしていることからも、地力があるのは間違いない。
ただ、その力をフルに発揮しきれていないような印象を受けるのだ。
一言で言えば「歯がゆいボクサー」である。


そんなわけで、どちらかと言えば高山の勝利に期待して試合を見た
のだが、この日の小熊坂は従来にない気迫を見せ、好カードに
ふさわしい緊迫感を与えてくれた。内容としては高山が素早い動きと
多彩な連打でポイントを集め、負傷判定とはいえ文句ない勝利を
収めたのだが、小熊坂のパンチも危険なタイミングで放たれており、
その潜在能力を垣間見たような思いがした。

僕の中では小熊坂をちょっと見直した試合だったのだが、ボクシング
ファンの間では依然として彼の評価は低い。小熊坂が所属するジムの
会長も引退を勧めているほどだから、どうやら見る目がないのは僕の
方らしい。確かに29歳という年齢を考えれば今後を楽観は出来ないが、
その気になればもうひと踏ん張り出来ない年でもないと思う。


まあともかく、高山はこれで世界王座返り咲きへの大きな一歩を
踏み出したと言えるだろうし、逆に小熊坂は世界再挑戦のチャンスが
大きく遠ざかったと言わざるを得ない。



ボクシングニュース

2006年03月11日 | その他
高橋、クルーザー級も視野に

 賢明な判断だと思う。高橋はどう考えてもヘビー級としては小さすぎる。
 もしクルーザー級で東洋タイトルを獲ると、日本人としてはあの西島洋介山以来
 2人目となる。高橋が優れたボクサーだとは全く思わないが、東洋なら
 僅かながら獲れる可能性がないとは言えない。

亀田、瞬間視聴率30%超え

 動員数やCDの売上げと音楽の良し悪しが全く関係ないのと似て、
 視聴率や観客数はボクサーの強さとは必ずしも直結しない。何でもかんでも
 数字で表そうとするメディアの姿勢にはうんざりさせられるが、
 ノンタイトル戦でこれだけの数字を取ったのは確かに凄いことだ。

傷害で逮捕のサーシャを解雇

 最悪の結末となってしまった。今後は海外での活動を模索するというが、
 解雇した選手にそれほど力を貸すとは思えない。事実上の「切り捨て」だ。
 外国人でしかも試合が地味なサーシャが仮に世界を獲っても、ジムには大した
 利益をもたらさないだろう。そもそも稼ぎが期待できる選手なら、日本タイトルを
 9度も防衛させる前にとっとと世界挑戦させていたはずだ。

 ましてや現在の協栄ジムには、亀田3兄弟という「金の成る木」がいる。
 逆にもし、この事件を起こしたのが亀田であったなら・・・恐らく解雇は
 されなかっただろう。 

長谷川が公開スパー

 「公開スパー」という記事を見ると、いよいよ迫ってきたんだなあと思う。
 25日に行われるWBC世界バンタム級タイトルマッチは、注目の再戦である。
 14度防衛の超安定王者ウィラポンを破るという、日本ボクシング史に残る
 快挙を成し遂げた長谷川。前回の両者の対戦は、昨年度の年間最高試合にも
 選ばれた感動のファイトだった。
 
 常々「ウィラポンにもう一度勝たないと、真の王者としての自信を持てない」と
 語ってきた長谷川。だからこそ今回、来日したウィラポンに異例とも思えるほどの
 充実した練習スペースを提供したのだろう。ウィラポンがベストのコンディションで
 なければ戦う意味がない、というわけだ。まさに天晴れな心意気である。

 徳山、新井田、そして亀田と、このところファンにとってやや不完全燃焼の
 試合が続いているが、この2人にはスカッとした好勝負を期待したい。

びっくりニュース

2006年03月09日 | その他
現役の日本バンタム級チャンピオン、サーシャ・バクティンが
逮捕されたというニュースには驚かされた。何でも六本木のある店で
客2人と口論になり、その後路上で1発づつ殴ったという。

サーシャはロシア出身のアマチュアエリートで、協栄ジムの招きで
来日。プロでも瞬く間に頭角を現し、日本タイトルはこれまで
9度防衛。これは日本バンタム級の歴代最多防衛記録でもある。

サーシャといえば、目にも止まらぬ高速ジャブ。こんな時に不謹慎だが、
プロの日本ランカーですら貰いまくるサーシャのパンチの速さには、
この被害者たちもさぞびっくりしたことだろう。

無敵のチャンピオンであり、その技術は既に世界レベルとも言われる
サーシャだが、パンチ力がやや物足りず、今ひとつ一般層に
アピールできるような分かりやすい強さを見せられていないのも
また確かだ。なかなか世界戦が決まらないのは、そのせいもあるだろう。

そんなサーシャが起こした今回の事件。世界戦が決まらないイライラを
路上で素人相手にぶつけてしまったのだろうか。そして今後のサーシャは
どうなるのだろうか。最悪の場合、勝てども勝てども人気の上がらない
サーシャを、協栄ジム側が「いい機会」とばかりに切り捨ててしまうことも
ないとは言い切れない。







亀田興毅vsカルロス・ボウチャン

2006年03月08日 | 国内試合(その他)
注目の亀田の「世界前哨戦」は、WBC世界フライ級13位の
カルロス・ボウチャンからボディブローの連打でダウンを奪い、
そのまま6ラウンドKO勝ち。予告した「5ラウンド以内」とは
行かなかったが、まずは危なげなく勝利を収めた。


しかしこの試合、あまり見るべきものはなかった。亀田は終始
力み返り、攻めが雑になっていた。力みのせいか、いつもに比べると
スピードもなく、いいタイミングでパンチを当ててはいるのだが、
キレに欠けるためにボウチャンが倒れる気配はない。

そこで亀田はボディに的を絞り、しつこいくらいの連打でボウチャンを
追い込んでいった。それが功を奏したのが6ラウンドだったわけだ。
とはいえそのボディ攻めも荒さが目立ち、ローブローも少なからず
混じっていた。最後にボウチャンが倒れたのもローブローだったような
気もするが、角度が悪く、よく見えなかったので断定は出来ない。

これといって危険なパンチも貰わず、結果的には「完勝」と言って
いいのかもしれないが、力づくで強引に終わらせたという印象を受け、
またローブロー気味のパンチでのKOでもあったために、やや
後味の悪さの残る試合であった。

思えば、今日の亀田は入場前からどこか緊張したような表情をしていた。
キャラクターに似合わず、実は割と冷静な彼にしては、珍しい光景だった。
「世界挑戦をアピールするためには、ここで下手な試合は出来ない」という
プレッシャーがあったのだろうか。おまけに両国国技館という大会場。
確かに、普通の選手なら硬くなるのが当たり前の状況だろう。


さて、今後の亀田はどうなるのだろうか。本来なら次はもう世界戦という
路線であったはずだが、WBA、WBCともにフライ級の世界王者の
動向が現在不透明なために、1階級下のライト・フライ級も視野に入れる
可能性も出てきたらしい。いずれにせよ、ここへ来て亀田の世界ロードに
ちょっとした紆余曲折がありそうだ。

ここはそういった状況を逆に利用し、世界戦までに1回ぐらい軽めの
試合を挟んでもいいのではないだろうか。デビュー当時はまるで歯応えの
ない相手とばかり戦ってきた亀田だが、ここ最近は注目度も相手のレベルも
上がり、何かとプレッシャーのかかる試合が多かったと思う。
ここでスタイルが乱れたまま「世界」に行くより、少し落ち着いて
自分のボクシングを整理した方がいいのではないだろうか。

Sライト級8回戦 熊谷信広vs中村徳人

2006年03月07日 | 国内試合(その他)
ノーランカーの中村が日本ランク6位の熊谷に判定勝ちし、
ランク入りを確実にした一戦。

僕はこの試合を見ていない。失礼ながら日本ランカーである
熊谷選手のことも全く知らない。ではなぜ書くのかというと、
その相手の「中村徳人」という名前に見覚えがあったからだ。

今から5年前のことだ。生まれて初めてボクシングを会場で見た時、
日本ランカーの中村金造(現在は「中村つよし」)と対戦していたのが
この中村徳人だった。その試合は判定で敗れたが、格上である金造と
真っ向から打ち合い、金造の地元であるにもかかわらず大きな拍手を浴びた。

その後も上位に進出することもなく、もうとっくに引退していると
思っていた。というより、中村徳人の名前自体を忘れかけていた。
それがこの試合である。「まだやってたんだ・・・」というのが
まず第一の印象だった。

ボクシングサイト「Boxrec」のデータが正しければ、中村は
97年デビューで今年30歳。続けていても別に不思議ではない。
熊谷戦も含めたここまでの戦績は、11勝(3KO)9敗。本当に
辛うじて勝ち越している、といった選手だ。

もしかすると、中村はこれが初めてのランク入りではないだろうか。
何の縁もゆかりもない、5年前に一度見ただけの選手だが、何となく
嬉しい気持ちになった。

日本Sライト級TM 木村登勇vs長瀬慎弥

2006年03月04日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
この試合は新井田の世界戦の前、いわゆる「セミファイナル」として行われた。

1ラウンドに2度のダウンを奪ったものの、その後は挑戦者の粘りと
つかみ所のない動きにやや手こずったように見えた木村だが、最後は
圧巻の攻めで長瀬を殴りまくってTKO。これで6度目のタイトル防衛、
しかも3連続となるKO防衛だ。この階級においては、木村の実力は
国内レベルではやはり図抜けている。

取り立ててスピードやパワーが抜きん出ているとは思わないが、
相手にとって予想しづらい角度やタイミングでパンチを放つのが、
本人言うところの「木村術」なのだろう。また、今回感心したのは、
接近戦での激しい打ち合いの中でも、しっかりとディフェンスを意識して
攻撃しているという点だ。

その反面、中間距離では不用意にパンチを貰うシーンが見られ、また
時折大振りのパンチをミスしたりもしていた。優れた技術を持っては
いるが、まだ少し攻防ともに粗さがあるのだ。しかし逆に言えば、
その粗さがなくなれば、世界レベルでもそこそこやれるのでは
ないだろうか。

もちろん今のスーパー・ライト級の「世界レベル」が恐ろしく高いのは
このブログでも何度も書いていることだが、だからといって必要以上に
ファンが悲観的になるのもどうかと思う。いきなり世界は無理でも、
それに備えて少しづつ実力を磨き、技の完成度を高めていけばいいのだ。

WBA世界ミニマム級TM 新井田豊vsロナルド・バレラ

2006年03月04日 | 国内試合(世界タイトル)
「風邪で体調が最悪だった」と試合後に語った新井田が、3-0の判定で
何とか4度目の防衛に成功した。

そろそろKO防衛を、というファンの声、過去の世界戦は接戦続きだったため
「はっきりした勝ち方」を求めた新井田、そしてナックル部分が薄くパンチが
効きやすいと言われるメキシコ製グローブの選択。こういった要素が重なり、
ちょっと過剰とも思えるほどKO勝ちを期待された新井田だったが、直前に
体調を崩したことによって、そんなことを考える余裕はなくなってしまった。

いつもはもっとガッシリした体格をしている新井田だが、この日はどうも
体に張りがない。その時点で不安を感じた。それに試合前からの不安もあった。
挑戦者のバレラのビデオやデータがなかなか届かず、謎のベールに包まれていたのだ。

当初の情報では右構えだということだったが、試合が近くなってきた頃にスイッチ
ヒッターだと判明。慌ててサウスポーのパートナーとスパーリングをしたという。
さらに試合の数日前になって、このバレラの兄が元世界王者(IBFミニマム級)の
ミゲル・バレラで、いわゆる「ボクシング一家」の育ちだということも分かった。
これはもしかして、かなり厄介な相手を選んでしまったのでは・・・。
何とも嫌な空気の中、試合のゴングが鳴った。

序盤の新井田の動きは決して悪くはなかった。得意の左パンチがスムーズに出ていたし、
接近戦での連打も相変わらずのキレだ。ところが中盤になって、新井田がはっきりと
顔に疲労の色を浮かべるようになった。更に後半に入ると、ラウンド終了とともに
コーナーへ帰る際の目がどこか虚ろ。そういえば、試合前の検診時、新井田は38度近い
体温があったという。今思えば、熱で頭がボーっとしていたのかもしれない。

しかも、バレラは実にやりにくいボクサーだった。度々スイッチするのもそうだが、
何よりスタミナが豊富で(ラウンド間の休憩中もほとんど椅子に座らなかった)、常に
前へ前へと出てきてしつこく手を出し続けるのだ。技術的な厚みはあまり感じられ
なかったが、体調面に不安がある時には最も嫌な相手だろう。

後半の新井田はバックステップを踏むことが多く、またパンチもほとんど単発になって
いたが、それでも正確性はバレラより明らかに上。ディフェンスの巧さもあり、失点を
最小限に留めることには成功した。

調子が悪いなら悪いなりに、何とかポイントを稼いで勝ちを拾う。こういった技術は、
(最近ではロレンソ・パーラなど)中南米の技巧派チャンピオン達が日本の挑戦者相手に
見せてきたことだが、今回は逆に、日本人である新井田が中南米の挑戦者にそれをやって
のけたわけだ。そう考えれば大したものである。

数々の苦戦を経験してきたことが、新井田のボクシングにとって大きな糧となって
いるのだろう。今回もKO防衛はお預けとなってしまったが、新井田の「負けない
テクニック」は見せることができた。傍目には綱渡り的な防衛を続けているように
見えるかもしれないが、案外「新井田政権」は安定期に入っているのかもしれない。

(それにしても・・・過去に何度も行われてはいるのだが、後楽園ホールで
 世界戦ってのはどうも気分が盛り上がらないなあ。)