ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

日本ライト級TM 嶋田雄大vs小野淳一ほか

2003年01月28日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
深夜のテレビで、久しぶりに日本タイトルマッチを見た。

日本ライト級タイトルマッチ、王者のと挑戦者・小野淳一の試合。
どうもこれと言って特徴がなく、地味な印象の嶋田に対し、日本スーパー・
ライト級王座を5度も防衛した実績のある小野。王座交代、小野の2階級
制覇は堅いと思われたが、試合は予想に反して一方的な嶋田ペースとなり、
結局、小野の出血がひどくなったこともあり8回TKOでベルトを守った。

僕は両者の動く姿を初めて見たのだが、以前から小野という選手に対する
期待はあった。長らく日本のトップクラスに位置し、何よりスピード豊かな
テクニシャン、という評判が僕の興味を誘った。

しかし実際に見た小野は、体調が悪かったのか元々そういう選手なのか、
確かにスピードはあるものの、何となく投げやりなパンチの打ち方で、
本当に日本タイトルを5度も守ってきた選手なのか?と思うほど、強さや
巧さを感じなかった。またテクニシャンにしてはやたらと防御勘が甘く、
嶋田のパンチをほとんど無防備にもらっていた。正直なところ、全くの
期待外れだったと言わざるを得ない。

もちろん嶋田の巧さもあったのだろう。予想通り地味なスタイルだったが、
とにかくジャブを当てるのが上手い。ダメージを与えるような強さはないが、
相手の打ち気を寸断するように、細かくタイミング良く出してくる。
大振りしてくれれば小野にもカウンターを打つチャンスがあったのだろうが、
ロープに詰めても決して攻めを焦らない。細かいパンチで徐々に弱らせて、
最後のレフェリーストップに結びつけた。

嶋田は、試合ではかなり神経を使うタイプだと自分で言っている。だから
試合数も少ないのだろう。しかし確かによく考えられた試合運びだ。
派手さはないが、堅実な練習を積み重ねてきているのもよく分かる。
こういった地味なタイプにはなかなか世界挑戦のチャンスが訪れない
ものだが、大手のヨネクラジムに所属しているので、このまま実力を
高めていけば、世界戦の舞台に立つことも出来るかもしれない。


また、この日は他にも試合が放送された。フェザー級の阿部元一は
タイの選手と対戦しKO勝ちしたが、取りあえず勢いはあるが攻め口が
単調で、あまり魅力を感じなかった。

もう一つ、東洋太平洋スーパー・ミドル級王者の西澤ヨシノリが、
インドネシアの選手とノンタイトル戦を行った。試合自体はダイジェストで
放送され、あまり面白そうでもなかったが、両選手が真っ白なグローブを
着けていて、それが何だかおもちゃみたいに見えて、全然緊張感がないのが
面白かった。

敗れざる男

2003年01月25日 | その他
知り合いに送ってもらった、リカルド・ロペスのビデオを見た。
うちはWOWOWに入っていないので、海外の試合を見る機会は
ほとんどなく、「動くロペス」を見たのもこれが初めてだ。

先頃引退を表明した、「生ける伝説」リカルド・ロペス。WBC世界
ミニマム級王座を実に22度も防衛し、その間にはWBA、WBOの
タイトルも統一している。またライト・フライ級に上がりIBF王座を
獲得、2階級制覇も果たした。最終戦績51戦50勝(37KO)1分。
即ちついに一度も負けることなく、プロのリングを去っていくのだ。

見た試合はいずれもWBCミニマム級王座の防衛戦、呉光洙、サマン・
ソー・チャトロン(後にWBC世界ライト・フライ級王者となる)、
アラ・ビラモアらと戦った3戦。一体、どれほど凄いボクサーなのか。
胸を躍らせながら再生ボタンを押した。

しかし・・・。一見した限りでは随分と地味なボクシングで、思わず
眼を見張るような強さは感じられなかった。そう言えば、ロペスに
タイトルを奪われた大橋秀行も「ビデオで見た限りでは、パワー不足で
冴えない感じだった」と語っていた。僕のような素人ならいざ知らず、
世界チャンピオンの大橋が、である。恐らく、対峙してみないと
分からないテクニック、強さがあるのだろう。

それにしても、多くの人が言うようにロペスのボクシングは神経質だ。
打たれることを極端に嫌い、相手が接近戦を挑んでもクリンチで逃れて
しまうことが多い。自分のいいパンチで相手がグラついても、一気に
攻めて出ることはしない。攻め気になって大振りになったとしても、
次のラウンドには必ず修正してくる。そして相手のガードの一瞬の隙も
見逃さず、とんでもない速さと角度で強打を叩き込む。

スピード、パワー、防御勘、どれを取っても一流であるにもかかわらず、
彼は決してそれらの能力に溺れず、実に丁寧な試合運びをしている。
普通、強打者はパンチが大きくなり、勘のいい選手はガードを下げがちだ。
しかしロペスはコンパクトで的確なパンチを放ち、ガードも堅固だ。
まるで隙を見せないから、相手にとってはやりにくいことこの上ない。

溢れんばかりの才能を持ち、厳しい自己管理も忘れない。きっと単調な
基本のトレーニングを、気が遠くなるほど繰り返してきたのだろう。
完璧主義者であるが故に、一か八かの博打はしない。ある意味では、
気が小さいとも言える。ロペスが無敗を保ってこられた最大の理由は、
この気の小ささ、良く言えば慎重さなのではないだろうか。

またロペスの試合は、その慎重さ故に派手な展開とは無縁だったわけで、
打ちつ打たれつの激闘などという、観客が最も喜びそうな試合は、彼に
とっては最も避けたいものだったに違いない。誰もが認める素晴らしい
選手でありながら、その評価に見合った報酬が得られなかったのも、
ひとえに彼自身の慎重さのせいではないだろうか。

ミニマム級という、本場アメリカでは見向きもされない最軽量クラスで
あったということ、またロペスと比肩するほどのライバルがいなかった
ことなどから、彼のキャリアは不遇だったと言う人も少なからずいる。
しかしそれはある意味で、ロペスにとっては幸運だったのではないか。

巨万の富が転がり込むスター同士の対決、いわゆるビッグマッチに出場
することがなかったのも、自らの性格が望んだことなのかもしれない。
その気になれば、マイケル・カーバハルやウンベルト・ゴンサレスなど、
ライト・フライ級のスター選手と戦うことも出来たはずだ。

極言すれば、彼は「完璧であること」にしか興味がなかったようにさえ
思える。彼はボクサーと言うより芸術家で、ボクシングを通して完璧なる
美を生み出そうとしていたのでは・・・というのは考え過ぎだろうか。

だからこそ、WBA王者ロセンド・アルバレスとの統一戦で、生涯初の
ダウンを奪われた末に負傷判定で引き分けたという結果に落胆し、その後
リングに上がる頻度が急速に減っていったのではないだろうか。

ともあれ、リカルド・ロペスという偉大なボクサーがいたということ、
そして彼がミニマム級という歴史の浅いクラスの価値を高めるために
多大なる貢献をしたということ、それは間違いない。

我々はついに一度も、少なくともプロのリングにおいて、「敗れざる男」
ロペスが敗れる姿を見ずに済んだ。夢を見ることが難しい現代において、
これは稀有なことであり、また幸運なことでもあると思う。

2003年期待の選手

2003年01月09日 | その他
まず世界獲りに期待のかかる選手をざっと挙げていくと、イーグル奥田、
トラッシュ中沼、本田秀伸、川嶋勝重、戸秀樹、西岡利晃、辰吉丈一郎、
石井広三、仲里繁、越本隆志、佐竹政一、湯場忠志、この辺りだろうか。

奥田はタイから移籍してきた選手だが、わずか8戦で世界ランカーに快勝
したミニマム級の俊英。今すぐ世界に挑んでもいい勝負をしそうだ。

中沼はかねてからその才能を評価されてきた選手。実際に世界戦が実現
しかけたこともある。

本田は昨年、世界初挑戦に失敗したが、技術では決して負けていなかった。
攻撃力でもう一歩ジャッジにアピール出来れば、世界は近いと思う。

川嶋は既に徳山への挑戦が決まっている。徳山とは相性が悪そうだが、
防御も良く、何より軽量級離れした迫力ある攻撃が魅力だ。

戸はバンタム級で世界2階級制覇を目指す。可能性は充分あると思うが、
先日の試合でも痛めた古傷の眼が心配だ。

西岡もアキレス腱の負傷から再起。未だに世界に最も近いと期待される男だ。
慎重に試合勘を取り戻していけば、ウィラポンへの雪辱も可能だろう。

辰吉は昨年、ブランクの影響を感じさせない動きで見事復活を果たした。
さらに調子を上げていけば、返り咲きは充分可能だと思う。

名古屋の強打者・石井は今年、3度目の世界挑戦を狙う。技術面では期待
していたほどは成長していないが、頑丈さと攻撃力はやはり一級品だ。

仲里は長い下積みを経て這い上がってきただけに、精神的なタフさに定評が
ある。ガードさえ気を付ければ、案外いい線行けるかもしれない。

越本は衰えた、という声も耳にするが、安定感はむしろ増してきている。
層の厚いフェザー級で、練り上げられた技巧がどこまで通用するだろうか。

佐竹は西岡と並ぶほどのホープだが、スーパー・ライト級も層が厚すぎる。
とにかくまず、欧米の世界レベルの選手との試合を見てみたい。

湯場もスーパー・ライト級。実力や期待値は高いもののまだ世界ランクは
低く、こちらもまず実績を作らなければならないだろう。


こうして見てみると、今年は関東(奥田、中沼、川嶋)・東海(戸高、石井)
より、関西以西の選手(本田、西岡、辰吉、仲里、越本、佐竹・湯場)に
注目が多く集まりそうだ。