ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界フェザー級TM 越本隆志vsルディ・ロペス

2006年07月30日 | 国内試合(世界タイトル)
例によって東海地方では中継がなかったので、スポーツ紙の
サイトで情報を知った。

時事通信ニッカンスポーツの記事を総合すると、越本は
挑戦者の攻撃を止め切れず、7ラウンドTKO負けで王座陥落。
初防衛に失敗した。

世界ランクは必ずしも数字通りではなく、高ければ強い、低ければ
弱いとは限らないのだが、挑戦者のランクが低いせいで、正直な
ところ越本が負けることは考えていなかった。とにかく初防衛を
成功させるために「手頃な」相手を選んだ、そう思っていた。

しかし、35歳の越本の体は限界に来ていたのかもしれない。
「世界チャンピオンになる」という目標を何年も持ち続けることで
気力を保っていたが、長年の悲願が叶った時、精神力で抑えていた
肉体の衰えが表面化したのではないだろうか。

越本は引退を表明。今後は父親のジムを継ぐことになるようだ。
決して派手なボクシングではなかった。地元の福岡を中心に活動し、
全国区の知名度は得られなかった。しかし、史上最年長で王者になった
越本には、独特の存在感があった。引退は寂しいが、日本フェザー級の
第一人者として、ここまで本当によく頑張ってきたと思う。




ボクシング界は好況?不況? 2

2006年07月28日 | その他
以前、具志堅用高氏を登場させ亀田陣営の批判を展開した毎日新聞の記者・
来住哲司氏が、また亀田に関する記事を書いていた。

どこかから要請があったのか、予想外に過剰反応されたのでバランスを
取るために今回の記事を書いたのかは分からないが、来住氏の意見は
基本的に間違っていないと思うし、ただ闇雲に批判するのではなく、
いいと思うことはきちんと評価している点にも好感が持てる。


ただ、この記事の中で、徳山昌守やイーグル京和といった世界王者が亀田の
名前を出して対戦を希望したことについて非難する件があったが、僕は亀田人気に
あやかろうとすることが情けないとは思わない。それも世間にアピールする
一つの手段だし、ちゃんと実績も実力もある選手なのだから、多少なりふり
構わない姿勢があってもいいのではないだろうか。

確かに今のボクシング界に最も足りないのはPR能力であり、安直に亀田に
頼らずに注目度を上げていければ一番いいのだが、ではどうすればいいのか?
という具体的な案を出すのは難しいし、何より選手の現役時代は短いのだ。
今あるものを利用するのは決して恥ずかしくない。

それから、視聴率の問題。以前、亀田の試合の視聴率が30%を超えたのに
対し、長谷川穂積の防衛戦は10%弱だったことを嘆く文章を書いたことが
あるが、よく考えたら、巨人戦ですら10%を切ることがある現代に
おいて、30%や40%という数字はある意味異常であり、表面上の数字
だけを取って「ボクシング人気が低迷している」とは言えないのではないか。
それは競技以外の注目度が原因であろう。亀田ファンの多くは単なる「流行り
もの好き」であり、それはボクシングの質とは直接関係がない。


今の亀田人気が批判の対象になるのは、やっかみの要素も多分にあるが、
「まず人気ありき」とでもいうような姿勢があるからだ。決して亀田に実力が
ないとは言わないが、自分にとっていいペースで戦えるような、ボロが出ない
ような相手ばかりを選んで勝ち星を増やしているような印象がある。
ペースを乱された時の対応については、試されていない部分が多いのである。

弱さを隠し、強さだけをアピールする。そして、ボクシングの内容よりも
派手な言動で大衆の興味を引く。危ういのだ。まるで、外観やサービスの
豪華さだけで客を呼ぶホテルのようだ。設備の安全性が、十分に公開されて
いないのである。そんな手を使ってまで視聴率を上げることが、長い目で見て
ボクシング界のためになるとは到底思えない。

これはあくまで目先の利益を目的にしたものであり、仮に亀田がコケたとしても、
メディアは次の「金の成る木」を探すだけである。その意味では亀田がどうなろうと
大勢に影響はないとも言えるが、空虚なものを感じるのもまた確かだ。


改めて考える。では、どうすればいいのか?
ボクシングは、構造的に継続した人気を得にくいスポーツだ。通常は世界王者に
ならなければ世間は注目しない。しかも試合数が少ないため、なかなか選手の
名前は覚えてもらえない。一人のボクサーが世界チャンピオンでいられる時期など
ごく短いものだ。つまり、一過性の人気を集めることは出来ても、忘れ去られるのも
また早いというわけだ。もし継続的な人気を得ようと思うなら、スターの登場を
待つといったような、一人の選手に頼り切る手法では駄目なのだ。

亀田人気を批判するようなことばかり書いてきたが、人気というのは、ある程度
「作られる」ものであることもまた事実だ。やり方に乱暴な面はあったが、亀田陣営が
世界王者になる前から注目度を高めていった点は、一つの「正解」であると思う。

ただ、それはあくまで結果論であり、彼らは単に自分たちの利益を考えていただけだ。
その過程で日本人の強敵と対戦するなどすれば、日本のボクシング界全体のアピールにも
なっただろうが、実際には正反対のマッチメークをしている。とはいえ、これは亀田陣営
だけに当てはまる批判ではない。強敵を避け「温室栽培」された結果、世界の舞台で
惨敗を喫する選手がいかに多かったことか。


しかし、最近は違う。そういった状況にさすがに危機感を覚えたのか、国内選手同士の
好カードが明らかに増えてきた。面白い試合が増えたという意味で、ソフトとしての
全体の質は間違いなく上がっている。しかし、それを世間にアピールする力が足りないのだ。

これはもう、ボクシング界全体で取り組んでいかなければならない課題だと思う。
まずは協会の広報システムをもっと充実させるべきだ。「こんないい選手がいますよ」
「こんないい試合がありますよ」ということをメディアに宣伝する。選手の取材は
メディア頼みにせず自分たちでまず行い、個々のパーソナリティの魅力を伝える。
ホームページの更新が滞っているジムについては制作のフォローをし、一般の人たちが
「もっと知りたい」と興味を持った時、その興味を満たせるだけの内容にしておく。


ボクシングジムなど経営しても、儲かっているところはごく僅かだ。トレーナーなども
含め、ボクシングに対する愛情や情熱だけで関わっているケースが多いように思う。
それはボクシング界のシステムの脆弱さを表しているとも言えるが、そういった情熱を
持った人が多いというのは大きなメリットでもある。楽観的に過ぎるかもしれないが、
その情熱を少しでも宣伝の方に向ければ、事態は少しづつでも好転するのではないか。

もちろん、一つのジムだけがそれをやっても影響力は微々たるものだから、やはり業界が
一丸となってキャンペーンを張り、盛り上げていかなければならないと思う。








ボクシング界は好況?不況?

2006年07月27日 | その他
ふと思ったことだが、今のボクシング界は非常にカラフルだ。
知名度ナンバーワンの亀田興毅がいる。そして世界チャンピオンは
徳山昌守、長谷川穂積、新井田豊、イーグル京和、越本隆志、名城信男と
実に6人もいるという活況だ。

東洋や国内のチャンピオンも個性溢れる実力者揃いだ。内藤大助、
クレイジー・キム、本望信人、榎洋之、渡邉一久、小堀佑介、木村勇登、
大曲輝斉、八重樫東、オケロ・ピーターなど。

その他にも、ホルヘ・リナレス、粟生隆寛、下田昭文、大場浩平、
久高寛之、三谷将之、健文トーレス、木村章司、嶋田雄大、池原信遂ら、
これから世界を狙おうかという選手たちもいれば、西岡利晃、福島学、
長嶋建吾、坂田健史、トラッシュ中沼、本田秀伸、西澤ヨシノリ、
坂本博之など、世界戦を経験したことのある中堅やベテラン勢もまだ
それぞれのステージで頑張っている。


そしてまた、今年はいい試合や感動する試合が多い。イーグルとロデル・
マヨールの激闘、あるいは長谷川がウィラポンを返り討ちにした一戦は、
個人的には年間最高試合候補だし、やや印象が薄れつつあるが、徳山が
アメリカのオリンピック代表、ホセ・ナバーロをテクニックで封じ込めた
試合は、文句なしの快挙だ。また、越本の最年長王座獲得、名城の最短タイ
での王座奪取も感動的だった。

国内レベルでも、クレイジー・キムの2冠同時防衛戦や、東洋太平洋王者・
小松則幸と日本王者・内藤大助がそれぞれのベルトを賭けたタイトルマッチ、
リナレス・粟生・下田が出場した日本とメキシコの対抗戦など、ファンの
注目を集める試合がたくさんあった。


これから控えている世界戦も数多い。越本の初防衛戦、亀田が出場する
王座決定戦、WBA王者の新井田に前WBC王者の高山勝成が挑戦する
好カード、川嶋のWBC暫定王座決定戦。まだ日程は決まっていないものでは、
延期されていた長谷川とガルシアの試合、名城の初防衛戦なども楽しみだし、
イーグルも怪我が癒えれば、年内にもう一回防衛戦が出来るかもしれない。


ボクシング人気には相変わらず目に見える向上はなく、地上波での
扱いも悪いままだが、中身は非常に充実している。そこにジレンマがある
わけだが、頭を使わず気軽に見れる番組だけが受けたり、かつての
人気コンテンツである野球の視聴率でさえも低迷していたりする現状を
考えれば、単純に昔と今を比較することは出来ないだろう。

もう少しPRが必要だとは思うが、取りあえずいい試合さえ提供していれば、
ボクシングは決して廃れることはないだろう。本当にいいものには、必ず
熱心なファンが付くものだ。

越本の初防衛戦のチケットの売れ行きが悪いというニュースがあったが、
あれは完全にキャパシティの読み違いが原因だ。売れ行きが悪いと言うが、
それは本来存在しない客を頭の中で勝手に作り上げていただけで、
全く売れないというわけではない。買う人はちゃんといるのだ。

世界戦というだけでチケットが売れたのは、大昔の話だ。今の客は見る目が
シビアになっている。逆に、いいカードであれば必ず客は来る。
現状をしっかり把握し、的確な予測を立てることが大切だと思う。


ちょっと話がそれてしまったが、ボクシング界の現状は決して悪くないし、
未来も決して暗いとは思わない。ただ、時代が変わってきているので、
昔と同じような商法では利益が得にくくなっているということはあるかも
しれない。考え出すときりがないのだが、僕の頭ではこれといった
いい答えも出ない。取りあえず、こんなブログでも書いて地味にアピール
していこうかな、と思う次第である。

ボクシングニュース

2006年07月26日 | その他
名城、米国進出プラン

 肝心の試合が全国放送されなかったにもかかわらず、8戦目での戴冠という
 話題性もあって、意外と大きく報道され注目を集めた名城。どうも本人は
 派手な発言をブチ上げるような性格ではなさそうだが、陣営がこうやって
 盛り上げようとアピールするのはいいことだと思う。とりあえず初防衛戦は
 国内で、今年中に行う意向だという。


越本、公開スパー

 名城の次は越本だ。いよいよ迫ってきた初防衛戦。ロペスはランクが低いために
 「安全パイ」だと思われている節があるが、果たしてどんな選手なんだろうか。
 昨日のテレビで見たが、服の上からでも胸板の厚さが分かるほどで、パワーは
 ありそうな感じがした。越本が持ち前のクールな技術で、若きメキシカンを
 封じる姿を期待したい。


長谷川がジムワークを再開

 自身の怪我による試合延期や、名城、亀田らの話題に隠れて、このところ少し
 影が薄くなっていた長谷川だが、現在の日本ボクシング界のエースであることは
 間違いない。ガルシア戦は秋頃に仕切り直しということだが、骨折の回復具合は
 本人いわく「まだ7割」。大丈夫だろうか。


川嶋vs名城?

 WBC世界スーパー・フライ級の暫定王座決定戦に出場し、返り咲きを狙う川嶋。
 実現の可能性があるのかどうかは分からないが、「統一戦」という名目抜きでも
 見てみたいカードではある。決して器用とは言えないファイター同士、物凄い
 打撃戦が展開されるに違いない。キャリアやスピード、耐久力に勝る川嶋が
 やや有利な気もするが・・・ぜひ実現させて欲しい。


池原、日本王座返上し世界挑戦へ

 防衛戦を行わないのは残念だが、勢いのある時に勝負に出るのも悪くはない。
 お世辞にも世界レベルの技術がある選手だとは言えず、誰に挑戦するにせよ
 「圧倒的不利」の予想を立てざるを得ないが、とにかくパンチ力はあるので
 何が起こるかは分からない。また、池原の返上した王座は、関西の期待の若手
 2人の間で争われることになっており、こちらも楽しみだ。 
 

ノンタイトル10回戦 大場浩平vsワエンペット・チュワタナ

2006年07月23日 | 国内試合(その他)

世界ランカーのベランサや、東洋チャンピオンのツニャカオらとの
タフな試合をこなす中で、大場は自分のスタイルが変わってきたことに
悩んでいたという。以前は低いガードから自由奔放にパンチを打ち込んで
いたのが、強敵との対戦が続き、いつの間にかガードの殻に閉じこもり
思い切りの良さが失われつつあった、と感じているようなのだ。

そんな悩めるホープ大場の16戦目の相手は、元東洋太平洋スーパー・
フライ級王者のワエンペット。このところ2連敗中で、ひところの勢いは
なくなっているとはいえ、それなりの実力者であることは間違いない。


この日の大場は、確かに少しぎこちなかった。自分にとって最善の
スタイルとはどんなものか、試行錯誤している最中のように見えた。
ガードは高く上げている場面が多く、それと関係があるのか以前より
ジャブのスピードが遅い気がした。

ただ、試合自体は圧勝だった。何度か相手のパンチを貰うシーンも
あったが、多彩なパンチを繰り出しながらほぼ一方的に空間を支配した。
3ラウンドにはボディブローでダウンを奪い、続く4ラウンドに左フックの
カウンターでワエンペットをぐらつかせると一気に襲い掛かり、得意の
右アッパーを連発して痛烈なKO勝ちを収めた。


大場本人は悩んでいると言ったが、この日の試合を見て、僕はむしろ
彼のスタイルは完成に近づいているのではないか、という思いを抱いた。
ガードを高くするのは決して悪いことではない。スピードは若干落ちた
かもしれないが、ディフェンスにゆとりが生まれるせいか、パンチには
力がこもっていた。しかもそれが大振りの一発狙いではなく、スムーズに
連打として出ていた。今後、局面に応じてガードを上げたり下げたり
出来るようになれば、ベストに近い形になるのではないだろうか。

以前の大場のボクシングは確かに奔放だったが、裏を返せばそれは、
才能にまかせた雑なボクシングであったとも言える。逆に、ツニャカオに
挑んだ一戦では、もう少し自分の能力を信頼して大胆に行ってもいいんじゃ
ないか、と若干の歯がゆさを覚えたものだ。

その点、多少ぎこちなかったとはいえ、大胆さと慎重さのミックスを意識
したような今日の戦い振りには、「新しい大場浩平」の姿が透けて見える
ようだった。強敵と戦い、相手のパンチの怖さを知ることによって、より
確実性の高い精密な戦い方が、自然と大場の体にインプットされた。
それに加え、今回は強いパンチも連発して見せた。


大場が理想とするフロイド・メイウェザーの形とはちょっと異なってきたが、
優れたボクサーの動きを取り入れていく過程で、自分に合ったものだけを
取捨選択していくのはむしろ自然なことだ。何しろまだ21歳、試行錯誤する
のが当然の時期なのだ。

その他の課題と言えば、以前スパーリングを行った際に長谷川穂積(WBC
世界バンタム級王者)が評していたように、試合運びが正直すぎるところ
だろうか。それもまた若さゆえのことだと思う。キャリアを積んでいく中で、
そういった巧さも少しづつ身に付けていけばいい。インタビューなどで知る
限り、恐らく大場は頭のいい選手だ。それはきっと可能だろう。

誰のものでもない、独自の「大場スタイル」の完成まであと少し。
そんな期待を持たせてくれた試合だった。

WBA世界Sフライ級TM マルティン・カスティーリョvs名城信男

2006年07月22日 | 国内試合(世界タイトル)
詳しい内容は分からないが、取りあえず速報

名城、10ラウンドTKO勝ちで8戦目で世界王者に!
王者カスティーリョの目の負傷が原因でストップされたようだ。
それにしても、全国放送されないのが何とも悔しい・・・。

新聞などの戦評によると、1ラウンドにいいパンチをもらって
ダウン寸前というピンチに見舞われながら、決して萎縮することなく
手を出し続け、2ラウンドに右ストレートでカスティーリョの
左眼の上をカットさせたという。中盤には王者の追い上げに遭い、
9ラウンドまでの採点は三者三様だった。

その意味では幸運な王座奪取とも言えるが、カスティーリョを
負傷させたのは紛れもなく名城のパンチであり、勝ちは勝ちだ。
何より、キャリアわずか8戦目の選手が技巧派王者を相手に
ほぼ互角の戦いを繰り広げたという点が凄い。

名城はお世辞にも器用なタイプとは言えず、正直なところ長期防衛が
期待できる選手ではないが、持ち前の屈強な肉体と精神力を生かして
これからも熱い試合をしてもらいたいと思う。


これで、現在日本のジムに所属する世界チャンピオンは6人となった。
30日に越本隆志が防衛に成功し、来月2日に亀田興毅が王座を獲得すれば
7人。これは日本ボクシング史上の最多記録だ。残念ながら世間一般に名の
知れた選手は少ないが、これをきっかけに日本のボクシング界がもっと
盛り上がっていくことを期待したい。

東洋太平洋&ABCO Sウェルター級TM クレイジー・キムvsデー・バイラ

2006年07月18日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
当初は、6月に東洋太平洋の暫定王者ダニエル・ゲールと統一戦を行う
ことになっていたキムだが、ゲール陣営がこれをキャンセル。代わりに急遽
相手に選ばれたバイラは、韓国を主戦場とするモンゴル出身の強打者だ。

なお、この試合には東洋太平洋(OPBF)タイトルの他に、キムが
タイで獲得したABCOという地域タイトルも賭けられた。ABCOは
日本未公認の団体ではあるが、OPBFと同じくれっきとしたWBCの
下部組織であり、これらを同時に防衛してアピールし、WBCの世界ランクを
少しでも上げようという狙いがあったのだろう。

ここまでのバイラの戦績は、23戦18勝(16KO)5敗。過去には
モンゴルのスーパー・ライト級王座、韓国のライト級とウェルター級の王座、
あるいはWBC認定のユース王座(22歳以下の選手が対象)などを獲得した
ことがあるらしい。来日経験もあり、2勝1敗の成績を残している。経歴を
見て分かる通り下の階級から上がってきた選手であり、体格面ではキムに分が
あるものの、決して侮れない相手である。


現在のキム陣営は、世界的に層の厚いスーパー・ウェルター級において、
少しでも世界挑戦のチャンスに近づこうと奮闘している。もちろん負ければ
一気にチャンスは遠のく。いや、31歳というキムの年齢も考えると、
今後一度でもつまづけば、遠のくどころか全てが終わってしまう可能性もある。
アジアや中南米の選手がトップを占める軽量級と違い、本場アメリカを中心に
スター選手が揃い大金が動く中量級においては、チャンスは本当に少ないのだ。


そんな細い糸を手繰り寄せるような状況を反映するかのように、この試合、
キムは慎重なスタートを切った。相手の強打を警戒し、ジャブを突いて
距離を取り、ほとんど大きなパンチを打たない。バイラにパンチを合わされ
ヒヤリとするシーンも一瞬あったが、それ以外は無難に試合を運ぶ。

そしてジワリジワリと相手を痛めつけ、9ラウンドにダウンを奪う。バイラに
余力はあったが、展開は一方的になりつつあり、ここでレフェリーが試合を
ストップ、キムのTKO勝ちが告げられた。豪快なKOを期待するファンに
とってはやや消化不良の内容だっただろう。ただ、危険な強打者相手に
リスクを最小限に抑え、しかも最後はストップに追い込んだキムの試合運びは
見事だった。前回の川崎タツキ戦同様、キムの巧さを見た試合だと言える。


果たしてキムは、世界に近づいたのだろうか。この試合前にWBC9位だった
世界ランクは、恐らくもう少し上がるだろう。相変わらず強豪がひしめき、
チャンスが少ないことには変わりないが、何かちょっとした幸運で世界挑戦の
話が舞い込んでこないとも限らない、そんな位置まで来た。

世界のトップレベルと比べれば、キムはスピードもなく、手数も少ない。
お世辞にも、世界王者と渡り合えるレベルの選手には見えない。しかし、
心情的には何とか世界挑戦に漕ぎ着けてもらいたいと切に思うのだ。

世界ランクを上げるため、涙ぐましいまでの努力をしている。軽量級の
選手なら、わざわざタイにまで出向いて地域タイトルを狙う必要もない。
勝敗はともかく、一度ぐらいチャンスが与えられてもいいんじゃないかと思う。

海外の結果

2006年07月16日 | 海外試合(世界タイトル)
珍しく、海外の試合結果を。
全て15日に行われたものだ(現地時間)。


まずワールドカップで盛り上がったドイツでの試合。
WBA世界バンタム級王者ウラジミール・シドレンコが、
暫定王者ポーンサワット・クラティンデーンジムを3-0の
判定に下し、王座統一を果たすとともに3度目の防衛に成功。

このシドレンコ、目立った武器がないため、それほど強いという
評判はない。しかしシドニー五輪の銅メダリストであり、プロでも
未だ無敗(20戦19勝6KO1分)。何か目に見えない強さがある
のだろうか。バンタム級、つまり長谷川穂積の対抗王者でもある。

WBA世界ミドル級タイトルマッチでは、王者のフェリックス・
シュトルムがハビエル・カスティジェホに10ラウンドTKO負け、
王座を奪われた。元WBC世界スーパー・ウェルター級王者の
カスティジェホは、これで2階級制覇。

これはちょっと意外な結果だった。両者ともあのオスカー・デラ・
ホーヤとの対戦経験があるが、判定負けながら「勝っていた」との声も
多く上がるほどデラ・ホーヤを追い詰めたシュトルムに対し、ダウンまで
奪われ大差判定負けに退いたカスティジェホ。シュトルムと戦った時の
デラ・ホーヤと、カスティジェホと戦った時のデラ・ホーヤを比べると、
明らかに後者の方がコンディションが良かったので単純比較はできないが、
カスティジェホは既に38歳、もう終わった選手だと思っていたのだ。


アメリカで行われた興行では、シェーン・モズリーがフェルナンド・
バルガスと再戦し、6ラウンドTKOで初戦に続いての勝利。
これだけのスター同士の対決がノンタイトルなのは惜しいが、防衛戦などで
しがらみの多いタイトルマッチより、ノンタイトル戦を選ぶことが多いのが
最近のスター対決の傾向だ。

なお、この試合の前座では、世界タイトルマッチが2つ行われた。
WBA世界ライト級タイトルマッチは、王者ファン・デイアスがランディ・
スイコに9回TKO勝ちして4度目の防衛。来日経験もあるフィリピンの
強豪スイコだが、世界初挑戦は失敗に終わった。

WBO世界スーパー・バンタム級王者のダニエル・ポンセ・デ・レオンは、
タイのソット・ルクノンヤイトイをわずか1ラウンドで倒し、2度目の防衛。
この両者は昨年、王座決定戦で対決しており、レオンが判定勝ちしていた。



川嶋が一転、暫定王座決定戦へ

2006年07月15日 | その他
先日、WBC世界スーパー・フライ級の暫定王座が
ホルヘ・アルセとマシブレレ・マケプラの間で争われるという
ニュースについて書いたが、今日(15日)にそれを完全に
覆すニュース
が入ってきた。

同級2位の川嶋が、4位のクリスチャン・ミハレスと暫定王座
決定戦を行うことになったのだ。それではアルセとマケプラの立場は
一体どうなるのだろうかと思うが、とにかくこれで決定のようだ。

ところで、これに関連した記事が二つあった。川嶋が、進退を明確にしない
徳山を批判したという記事
と、徳山が暫定王座の設置に疑問を投げかける記事だ。

それぞれにそれぞれの言い分はあると思うが、個人的には川嶋の意見に
共感する。世界チャンピオンが王座を保持しながら進退を保留していると
いうのは、あまり誉められたものではない。少しくらいの期間なら仕方ない
とも思うが、防衛戦から5ヶ月経っても答えを出していないのだ。

徳山、防衛戦のメド立たず

2006年07月13日 | その他
デイリースポーツの記事より。

WBC世界スーパー・フライ級王者の徳山昌守は、今年2月に
ホセ・ナバーロを下して初防衛(通算9度目)を果たしたが、
引退をほのめかす徳山とそれを引き止めたいジム側との間で
話がまとまらず、未だに次の防衛戦の目処が立っていない。

そのため、暫定王座の決定戦が9月に行われることになった。
暫定王座とはその名の通り、チャンピオンが様々な理由で
長期間に渡って防衛戦が行えない場合に立てられるものだ。

決定戦に出場するのは、メキシコの人気者ホルヘ・アルセと、
南アフリカのベテラン、マシブレレ・マケプラ。アルセは
同じWBCでライト・フライ級とフライ級(暫定)の王座も
獲得したことがあるので、これに勝てば暫定とはいえ3階級
制覇ということになる。

ちなみにこの決定戦に、徳山に敗れて王座を失った川嶋勝重が
出場するという話もあったが、それはなくなってしまったようだ。
本場アメリカでも人気のハードヒッターであるアルセと、日本が
世界に誇るタフファイター川嶋が対戦したら凄い激戦になるのでは、
とワクワクしていただけに残念だ。

しかし・・・肝心の徳山は、一体どうするつもりなのだろう。
9月に生まれる暫定王者と統一戦をするのか、王座は返上して
階級を上げるのか、あるいは当初の希望通り引退するのか。
陣営は年内をリミットに答えを出すつもりのようだが・・・。

名城信男、世界へ

2006年07月10日 | その他
スカパーの野球中継が雨で中止になったおかげで、名城信男と本田秀伸の
試合を見ることが出来た。2004年8月7日の一戦だ。

これは名城の出世試合だと言える。世界タイトルにも2度挑み、当時も
世界ランク上位に名を連ねていた本田を判定に下し、わずか5戦という
戦績で世界ランク入りを果たしたのだ。


この日、本田の調子自体は悪くなかったが、どこか名城を低く見ていた
部分があったように思う。序盤、名城の得意な距離での打ち合いに
付き合いすぎて調子に乗せてしまった。そして何より驚いたのが名城の
手数とスタミナだ。60戦近いアマチュア歴があるとはいえ、まだプロでは
たったの4戦。そんな選手が、10ラウンド全く休むことなく手を出し
続けた。名城の勝因はこのわずか一点、「手を出し続けたこと」だ。

たった一つの、シンプルすぎるほどのプラン。格上相手に色々考えても
仕方ない、自分にはこれしか勝機がない、とばかりにそれを徹底した。
例えば、相手が反撃する暇もないくらいに手を出し続ければ勝つのは当然だが、
相手も人間なので必ず反撃してくるし、自分も人間なのでどこかで休む時間は
必要だ。だから実際にはそんなことは不可能なのだが、イメージ的には名城は
それに近いことをした。言葉で言うのは簡単だが、実際にそんなことの出来る
選手はごく稀だ。そしてそれこそが名城の才能なのである。


この次の試合で名城は、田中聖二を最終ラウンドTKOに下し日本タイトルを
奪取。続く初防衛戦では、プロスパー松浦に判定勝ち。これで世界ランカーを
3人立て続けに破ったことになり、あっという間に世界1位に踊り出た。
そしていよいよ今月22日、堂々たる指名挑戦者としてWBA世界スーパー・
フライ級王者、マルティン・カスティーリョに挑む。

新聞等で盛んに報じられている通り、もし名城がこれに勝てば8戦目での
世界タイトル獲得となり、あの辰吉丈一郎が打ち立てた日本人最短記録に
並ぶ快挙となる。相手は稀代のテクニシャンであり、名城の不利は否めないが、
全く勝機がないわけではない。


それにしても、この日の名城は輝いていた。試合前のインタビューでは
人懐っこい笑顔を見せ、格上の本田に挑むのが楽しくて仕方がないといった
風情だった。そして試合では全身からエネルギーを発散し、終了のゴングが
鳴った時には精魂尽き果てたといった感じだったが、それ自体も楽しげに
すら見えたものだ。そして勝者のコールを受け、感情を爆発させる。
ボクシングのみならず、まるで生きることの喜びを全身で表現しているかの
ような戦い振りが印象的だった。

しかしそれは、その後の悲劇を知っているが故に感じたことだったのかも
しれない。日本タイトルマッチで名城に倒された田中聖二が試合直後に
病院へ運ばれ、そのまま帰らぬ人となったのだ。それ以降、公の場で
名城が笑ったところを見たことがない。あの弾けるような笑顔は、もう
見れないのだろうか。名城もまた、リング禍(ボクシングの試合における
事故)の被害者であるとも言える。

ただ、名城のブログを見てみると、比較的明るさも感じられたのでほっとした。
特に嬉しかったのは、田中の所属していた金沢ジムの選手とも交流があるらしい
ということだ。周囲の人々の暖かい励ましによって、名城の心も少しづつ
解けていっているように思う。本当に頑張って欲しいし、勝ってもらいたい。  


関西のホープ3人、後楽園に登場

2006年07月06日 | 国内試合(その他)
井岡弘樹、山口圭司という2人の世界チャンピオンを生み、最近では
あの亀田興毅を最初に売り出したジムとして知られるグリーンツダジム。
この関西の名門の一つと言えるジムが、またこの頃ちょっと面白い。

タイのジムとの対抗戦を行ったり、あるいはわざわざタイにまで出向いて
地域タイトルに挑戦させたりと、なかなかユニークな発想を披露している
同ジム。そして今回は、健文トーレス、奈須勇樹、久高寛之といった関西の
ホープを揃えて、「ボクシングの聖地」東京・後楽園ホールでの興行を開催した
(ちなみにトーレスはグリーンツダではなく、同じ大阪の大鵬ジムの選手)。

しかし、そんなジム側の意欲に反し、観客は驚くほど少なかった。
東京のボクシングファンはよく、地方の有望選手に対して「東京で
試合してほしい」などと言うが、実際の結果がこれではあまりに不憫だ。


さて試合の方だが、まず注目は、早くからその素質を評価され、今や世界
ランカーとなった健文トーレス。元世界王者のヘルマン・トーレスを父親に
持つ「良血」だ。今回はタイの国内ランカーとの対戦。

以前(1年前)見た時には粗さが目立ったトーレスだが、随分ボクシングが
まとまってきている。相手が格下ということもあり、簡単に倒して終わるん
だろうなあと思っていたが、第3ラウンド、まともに右を貰ってピンチに陥る。
相手の雑な攻めにも助けられてダウンは免れたが、危ないシーンだった。

その後は無難に立て直し、持ち前の鋭いパンチで5ラウンドTKO勝ちを
収めたトーレス。確かにいいものを持っているが、まだ18歳。精神的には
まだ若干の隙を残しているようだ。


昨年の全日本フライ級新人王の強打者・奈須勇樹の相手は、前述の亀田に
倒されて東洋王座を失ったワンミーチョーク・シンワンチャー。あっさり
倒された亀田戦を見る限り、これは手頃な相手かと思われたが、そこは
元東洋太平洋王者、なかなかの実力者だった。上体が柔らかく、カウンターが
上手く、右も左もパンチは強そうだ。

2ラウンド、そのワンミーチョークの左フックで奈須がダウン。
その後も再三カウンターを貰う。対する奈須のパンチは一発狙いで力みがあり、
また少し距離が遠いためなかなか当たらない。

こうして前半を優位に進めたワンミーチョークだが、後半に入るとやや息切れ。
奈須は必死に追い上げ、何とか判定勝ちを収めたが、敵地なら負けていたかも
しれない微妙な内容だった。奈須は攻め口が単調で、このままでは上に行くほど
厳しくなるだろう。早くも壁に突き当たった感じだ。


そしてメインイベント。ライト・フライ級の世界ランカーである久高寛之が、
2階級上の日本ランカー姫野崇史と拳を交えた。体格的には当然姫野が上だが、
久高のパンチにはキレがあり、攻撃力では決して劣っていない。

久高は終盤にやや失速したものの、5ラウンドにはダウンを奪うなど、ほぼ
終始優勢に展開して判定勝ち。姫野もよく粘り、なかなかの好試合となった。

世界ランカーを倒して自信がついたのか、この日の久高には貫禄さえ感じられた。
ポンサクレック挑戦はさすがに時期尚早で、流れて正解だったと思うが、
攻守ともにレベルが高く、このまま伸びていけばいずれ世界戦も実現する
のではないだろうか。

WBCインター・S・フェザー級TM マニー・パッキャオvsオスカー・ラリオス

2006年07月02日 | 海外試合(その他)
フィリピンの英雄パッキャオの凱旋試合は、日本でも
お馴染みのラリオスを2度倒しての大差判定勝ちとなった。

バレラ、モラレスに続き、またしてもメキシコの強豪を破った
パッキャオ(ラリオスの評価は、先に挙げた2人よりも若干落ちるが)。
この快進撃は一体どこまで続くのだろうか。

それにしても、この3者との試合が世界タイトルマッチで
ないのは実に惜しいというか勿体ないというか・・・。
パッキャオは過去に2階級を制しているが(WBCフライ級と
IBFスーパー・バンタム級)、ここ数年はフェザー、あるいは
スーパー・フェザー級で一流王者クラスの選手とノンタイトル戦を
行うケースが多い。実質的には4階級制覇に匹敵する実績である。

ちなみにインター王座というのは、実は僕も詳しくは知らない。
まあこのタイトルを獲ると世界ランキングに入れる、という程度と
思っておけばいいだろう。ある意味で、既に実績のあるパッキャオには
必要のないタイトルだとも言える。

日本ミドル級TM 板垣俊彦vs中堀智永

2006年07月01日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
ミドル級とは、その名の通り欧米では「中くらいの体格の人の階級」で
あるが、ここ日本においては最重量級に位置し、ミドル級より上の
日本ランキングは作成されていない。

日本の重量級というと、スピードに欠けたかったるい試合が多いような
印象があるが、板垣はなかなかスピードがある。その板垣の2度目の
防衛戦は、挑戦者の頑張りもありミドル級のタイトルマッチとしては
久々の熱戦となった。


中堀は接近してフック主体の攻撃、板垣は距離を取ってのストレートが
得意のようだ。中堀が板垣のジャブをかいくぐり、果敢に接近戦を挑む。
板垣もアッパーを中心に反撃し、完全に打ち負けているわけではないが、
手数の差で中堀の攻勢が目立つ。

中盤に入ると、板垣は鼻血やバッティングによる右目の腫れもあり、
見た目には苦戦の印象が強くなる。微妙なラウンドもあるが、前半は
やや挑戦者がリードしただろうか。

後半も中堀の手数は止まらないが、若干ガードが甘くなってきていて、
板垣のパンチを被弾する場面も増えてきた。ストレートや接近しての
ボディブローもあるが、特に右のガードが下がっているところへの
左フックが印象的で、板垣が局面を打開するならこのパンチではないか、
という予感も漂う。

一進一退の打ち合いが続いたが、採点の上では挑戦者が少し優勢か、
といった雰囲気で迎えた第9ラウンド。中堀も相変わらずよく手が
出るが、板垣の左フックも再三ヒット。そしてついに、このラウンド
何発目かの左フックがジャストミートし、中堀がぐらつく。ここで
板垣が一気に連打を仕掛け、レフェリーストップ。劇的なTKOで
苦しい戦いを制し、防衛に成功した。


ここまでのタイトルマッチ、板垣はいずれも僅差の判定勝ちだった。
この試合でも、恐らく9ラウンドまでの採点は微妙だっただろう。
圧倒的な強さを見せるまでには至っていないが、接戦を制する地力が
あることは確かだ。