以前、具志堅用高氏を登場させ亀田陣営の批判を展開した毎日新聞の記者・
来住哲司氏が、また亀田に関する
記事を書いていた。
どこかから要請があったのか、予想外に過剰反応されたのでバランスを
取るために今回の記事を書いたのかは分からないが、来住氏の意見は
基本的に間違っていないと思うし、ただ闇雲に批判するのではなく、
いいと思うことはきちんと評価している点にも好感が持てる。
ただ、この記事の中で、徳山昌守やイーグル京和といった世界王者が亀田の
名前を出して対戦を希望したことについて非難する件があったが、僕は亀田人気に
あやかろうとすることが情けないとは思わない。それも世間にアピールする
一つの手段だし、ちゃんと実績も実力もある選手なのだから、多少なりふり
構わない姿勢があってもいいのではないだろうか。
確かに今のボクシング界に最も足りないのはPR能力であり、安直に亀田に
頼らずに注目度を上げていければ一番いいのだが、ではどうすればいいのか?
という具体的な案を出すのは難しいし、何より選手の現役時代は短いのだ。
今あるものを利用するのは決して恥ずかしくない。
それから、視聴率の問題。以前、亀田の試合の視聴率が30%を超えたのに
対し、長谷川穂積の防衛戦は10%弱だったことを嘆く文章を書いたことが
あるが、よく考えたら、巨人戦ですら10%を切ることがある現代に
おいて、30%や40%という数字はある意味異常であり、表面上の数字
だけを取って「ボクシング人気が低迷している」とは言えないのではないか。
それは競技以外の注目度が原因であろう。亀田ファンの多くは単なる「流行り
もの好き」であり、それはボクシングの質とは直接関係がない。
今の亀田人気が批判の対象になるのは、やっかみの要素も多分にあるが、
「まず人気ありき」とでもいうような姿勢があるからだ。決して亀田に実力が
ないとは言わないが、自分にとっていいペースで戦えるような、ボロが出ない
ような相手ばかりを選んで勝ち星を増やしているような印象がある。
ペースを乱された時の対応については、試されていない部分が多いのである。
弱さを隠し、強さだけをアピールする。そして、ボクシングの内容よりも
派手な言動で大衆の興味を引く。危ういのだ。まるで、外観やサービスの
豪華さだけで客を呼ぶホテルのようだ。設備の安全性が、十分に公開されて
いないのである。そんな手を使ってまで視聴率を上げることが、長い目で見て
ボクシング界のためになるとは到底思えない。
これはあくまで目先の利益を目的にしたものであり、仮に亀田がコケたとしても、
メディアは次の「金の成る木」を探すだけである。その意味では亀田がどうなろうと
大勢に影響はないとも言えるが、空虚なものを感じるのもまた確かだ。
改めて考える。では、どうすればいいのか?
ボクシングは、構造的に継続した人気を得にくいスポーツだ。通常は世界王者に
ならなければ世間は注目しない。しかも試合数が少ないため、なかなか選手の
名前は覚えてもらえない。一人のボクサーが世界チャンピオンでいられる時期など
ごく短いものだ。つまり、一過性の人気を集めることは出来ても、忘れ去られるのも
また早いというわけだ。もし継続的な人気を得ようと思うなら、スターの登場を
待つといったような、一人の選手に頼り切る手法では駄目なのだ。
亀田人気を批判するようなことばかり書いてきたが、人気というのは、ある程度
「作られる」ものであることもまた事実だ。やり方に乱暴な面はあったが、亀田陣営が
世界王者になる前から注目度を高めていった点は、一つの「正解」であると思う。
ただ、それはあくまで結果論であり、彼らは単に自分たちの利益を考えていただけだ。
その過程で日本人の強敵と対戦するなどすれば、日本のボクシング界全体のアピールにも
なっただろうが、実際には正反対のマッチメークをしている。とはいえ、これは亀田陣営
だけに当てはまる批判ではない。強敵を避け「温室栽培」された結果、世界の舞台で
惨敗を喫する選手がいかに多かったことか。
しかし、最近は違う。そういった状況にさすがに危機感を覚えたのか、国内選手同士の
好カードが明らかに増えてきた。面白い試合が増えたという意味で、ソフトとしての
全体の質は間違いなく上がっている。しかし、それを世間にアピールする力が足りないのだ。
これはもう、ボクシング界全体で取り組んでいかなければならない課題だと思う。
まずは協会の広報システムをもっと充実させるべきだ。「こんないい選手がいますよ」
「こんないい試合がありますよ」ということをメディアに宣伝する。選手の取材は
メディア頼みにせず自分たちでまず行い、個々のパーソナリティの魅力を伝える。
ホームページの更新が滞っているジムについては制作のフォローをし、一般の人たちが
「もっと知りたい」と興味を持った時、その興味を満たせるだけの内容にしておく。
ボクシングジムなど経営しても、儲かっているところはごく僅かだ。トレーナーなども
含め、ボクシングに対する愛情や情熱だけで関わっているケースが多いように思う。
それはボクシング界のシステムの脆弱さを表しているとも言えるが、そういった情熱を
持った人が多いというのは大きなメリットでもある。楽観的に過ぎるかもしれないが、
その情熱を少しでも宣伝の方に向ければ、事態は少しづつでも好転するのではないか。
もちろん、一つのジムだけがそれをやっても影響力は微々たるものだから、やはり業界が
一丸となってキャンペーンを張り、盛り上げていかなければならないと思う。