ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

ノンタイトル10回戦 佐竹政一vsリチャード・レイナ

2003年10月04日 | 国内試合(その他)
今思えば、これが佐竹政一のボクサーとしての絶頂期だったのかも
しれない。もしこの時期に世界挑戦していれば、勝敗はともかく
非常にファンの注目を集めたに違いない。

加山利治の持っていた日本ウェルター級タイトルに挑んで惜敗した時も、
あるいは後に東洋太平洋スーパー・ライト級王座を獲得した時でさえも、
関西の小さなジムに所属する佐竹は、ほとんど無名に近い存在だった。
しかし、「入れ墨ボクサー」として知名度のあった大嶋宏成や、
世界挑戦経験のあるリック吉村、坂本博之、強豪との評価を得ていた
フィリピンのディンド・カスタニャレスらを破ったことで、徐々に
その名をボクシングファンたちに知らしめていった。スピードとセンスに
溢れるカウンターパンチャーは、いつしか「世界」を期待される存在にまで
のし上がったのだ。

そんな佐竹が、ベネズエラ王者で13戦全勝12KOという強打を誇る
レイナと対戦した。世界戦の前座という大舞台だ。判定なら佐竹、しかし
レイナのKO勝ちもありうるだろうという予想が多く、緊張感をはらんだ
立ち上がりとなった。

第1ラウンドからベネズエラの猛牛が激しい攻撃を仕掛け、佐竹の
バックステップが目立つ。場内は不安にどよめく。やはり評判通りの
危険な相手だ。佐竹は、この強豪にどう対応するのか。

2ラウンドもレイナが佐竹を追い込んでいく。自身満々といった感じだ。
対する佐竹の方は、レイナの攻撃をやり過ごすので精一杯に見える。
ところが、1分を過ぎた辺りから様子が変わってくる。相変わらず豪打を
振り回すレイナだが、そのパンチがことごとく空を切り始めるのだ。

そして、この試合初めて佐竹がレイナをロープに追い込み、お互いが
パンチを交わした瞬間、佐竹の強烈なカウンターがジャストミート。
前方にのめり込むように倒れたレイナを見て、レフェリーはすぐに
試合を止めた。たったワンパンチ。あっという間のKO劇だった。

場内は爆発的な歓声に包まれ、自然発生的に「佐竹コール」が巻き起こる。
それも当然だろう。期待の新鋭が、強豪相手に鮮烈なKO勝ちを収めたのだ。
おまけにこの日は自身の誕生日。しかも新婚で、もうすぐ子供が生まれるという。
選手としても、またプライベートでも充実の時にあったわけだ。

その後の佐竹は、東洋王座10度目の防衛戦でまさかのKO負け。
直後に引退を表明した。2004年10月、レイナ戦の一年後のことだった。
「あとは世界しかない」という状況でありながら、層の厚い中量級では
なかなか世界戦のチャンスがなく、モチベーションも低下していたようだ。
そんな寂しい最後を知ってしまうと、あまりに輝いていたこの時の佐竹が
余計に切なく思える。ボクサーの「春」は実に短いのだ。